演 者 名 所 属 演題記号1 演題 抄 録 演題記号2 演題2 抄 録2
高橋幸裕・教 授 微生物学講座 T-1 口腔細菌の付着・定着因子 う蝕と歯周病は、どちらも口腔細菌が原因の感染症です。口腔常在菌が歯の表面に付着・定着し、口腔バイオフィルム、すなわちデンタルプラーク(歯垢)を形成することが、う蝕および歯周病発症の最初のステップとして必須です。さらに、これら口腔常在菌は、感染性心内膜炎や誤嚥性肺炎など他臓器の感染症の原因菌として注目されています。
この講演会では、この感染の最初のステップを担う口腔細菌の付着・定着因子についてお話しします。最初に、歯周病原性細菌のPorphyromonas gingivalis、放線菌症や根面う蝕の原因となるActinomyces の線毛について、概要を説明します。また、口腔において最も優勢な細菌群で、う蝕の原因でもある、口腔レンサ球菌の付着に関わる様々なアドヘジン、強固な定着に重要な役割を果たすグルカン産生について、感染性心内膜炎の動物実験の結果などを交え、少し詳しいお話をいたします。



田中とも子・准教授 衛生学講座 T-2 我が国の口腔保健の向上のための小児のヘルスプロモーション 平成23年に歯科口腔保健の推進に関する法律が制定され、都道府県レベルにおいても、歯科口腔保健に関する条例が施行されています。このような状況から、歯科医師は口腔保健の保持・増進に関する健康格差の縮小に向けた取り組みを積極的に進める立場となりましたが、対応に苦慮している先生方も多いのが事実です。
東京校衛生学講座の10年に及ぶ小児のヘルスプロモーション疫学研究と、平成28年に実施された最新の歯科疾患実態調査の結果をもとに、我が国の口腔状況を用い解説いたします。口腔保健の向上のために今後の取り組みのヒントにしていただければ思います。



伊井久貴・講 師 衛生学講座 T-3 口臭原因物質が破骨細胞を誘導する 【目的】口腔微生物が産生する揮発性硫黄化合物(VSCs)は口臭の主な構成成分であり,歯周疾患の発生・進展に関与することが報告されている.しかしその詳細は不明な点が多い,そこで本実験ではVSCsの歯槽骨への作用機構を解明することを目的として,硫化水素による破骨細胞の分化に及ぼす影響を調べた.
【方法】細胞はマウス由来のマクロファージ様細胞RAW264を用いた.細胞は96マルチウェルプレートに1.5×103個で播種し,24時間培養後0.05,0.5,5ng/ml硫化水素でさらに4 5日間培養した.破骨細胞への分化は酒石酸抵抗性ホスファターゼ(TRAP)染色とカテプシンKの免疫染色によって評価した.細胞内シグナル伝達キナーゼであるextracellurarsignal-regulated kinase(ERK)1/2とp38の活性変動はWestern Blot法によって検討した.骨吸収能はアパタイトプレートの吸収窩をImage Jにて計測した.
【結果】0.05ng/ml硫化水素はTRAP染色陽性の多核巨細胞数を対照群に比べ有意に増加させた(p<0.01).その程度は破骨細胞分化誘導因子RANKL(50ng/ml)を作用させた時と同様であった.一方,硫化水素濃度上昇に伴い,TRAP陽性細胞数は濃度依存的に減少した.0.05ng/ml硫化水素処理によってERK1/2とp38のリン酸化の誘導が認められた.そこで細胞をERK1/2インヒビター(MPD98059)およびp38インヒビター(SB203580)で前処理後,0.05ng/ml硫化水素処理したところ,TRAP陽性細胞数は硫化水素非処理群と同レベルを示し、その誘導は認められなかった. 0.05ng/ml硫化水素処理による細胞の骨吸収能は対照群と比べ有意に上昇した (p<0.01).
【結論】低濃度硫化水素は未分化破骨細胞の破骨細胞への分化を促進することから,VSCsは歯槽骨吸収に深く関与していることが示唆された.




都築民幸・教 授 歯科法医学講座 T-4 歯科医療従事者による子ども虐待防止 「医療従事者は養育者を罰するのが本務ではない」,「虐待を通告したら地域に知られてしまうのではないか」,多くの臨床医が虐待に気づいても児童相談所などに通告するのをためらっています.また,通告だけが子ども虐待防止ではありません.歯科医療従事者が子どもマルトリートメントという考え方を理解することで,不適切な環境にある児を発見し,虐待の防止,さらに子育て支援などに結びつけることが可能となります.
 講演では,マルトリートメント(虐待やネグレクト)の医科・歯科所見とはどのようなものか,これらにどのように対応し,防止するかなどについて解説します.
T-5 歯科医師による身元確認(歯科的個人識別)とは 災害時における歯科医師の活動として,歯科所見による身元不明死体の身元確認(歯科的個人識別)はよく知られるようになりましたが,本当に私たちは身元確認ができたのでしょうか.
 講演では身元確認とは何か,また,本当の歯科的個人識別のためにはどのよう考え方をすれば良いのか,ご理解いただけるように,デモを含めて解説します.
岩原香織・准教授 歯科法医学講座 T-6 災害医療の理解  必要とされる支援を必要とする被災者に 災害の種類や規模,またフェーズによって歯科医師の活動のニーズは変化します.
 災害時の歯科医師の活動として,歯科的個人識別,いわゆる身元確認は周知されていますが,発災直後より,トリアージやそれに引き続く応急救護に貢献できますし,限られた資器材,限られた環境での歯科治療や口腔ケアなど長期にわたって,私たちの活動は必要とされることがあります.これらは災害医療を理解しなければ,的確な活動が行えず,関係諸機関との連携,協働も重要となってきます.
 実際の災害で行われた活動や,各地で行われている訓練内容を紹介しながら,災害医療をご理解いただき,何をどこまで行うのか,行えるのか,を一緒に考えたいと思います.

T-7 歯科情報を子ども虐待の対応に活用する 児童福祉法,児童虐待防止法の改正により「児童虐待の早期発見に係わる責務を有する者」として歯科医師が明文化されることになりました.法の施行,社会的関心の増大を受けて,関連機関では個別の対応がなされています.虐待の防止は,被虐待者(児)を取り巻く不自然さを見逃さないことから始まります.臨床歯科法医学の知識を応用することによって,虐待による創傷が,いつ,どのようにしてつけられたのかなどを推定できます.また,歯科医療ネグレクトの考え方を理解することから,不適切な環境にある者(児)を発見し,虐待の防止,さらに子育て支援などに結びつけることが可能となります.
 講演では,どのようにして歯科情報から虐待やネグレクトを見つけるか,どのように対応するかなどについて解説します.
中原 貴・教 授 発生・再生医科学講座 T-8 “生命歯学”がもたらす新たな歯科医療 〜バイオ再生医療による本学独自のアプローチ〜 材料修復や対症療法による従来型の歯科医療は、もはや画期的な治療法が生まれる余地がないほど、高度に成熟した医療を提供しています。一方、ノーベル賞の旗印のもと過熱した再生医療ブームは、iPS細胞の臨床研究に結実し、すでに患者に移植されるまでに至りました。この医学史における最大級のインパクトは、細胞をもちいる新たな医療、「バイオ再生医療」の到来を意味しており、これからの歯科医師は“生きた”細胞・組織を扱うバイオの素養を習得する必要があるのです。
本講演では、バイオ再生医療の現状と未来について分かりやすく概説し、本学が独自にめざす再生医療ビジョン、そしてその将来ビジョンの実現には校友会員一人ひとりが重要な役割を担っていることをご説明します。



大山晃弘・准教授 NDU生命科学講座 T-9 NDU生命科学講座が目指す再生医療 私たちの講座は2011年9月に新たに設立されました。当講座は生命科学に基づいた医療を目指しており、そこには歯科も医科も薬学も、既存の講座の枠を超えた自由な発想で研究を行っています。今回は当講座が行っている治療と基礎研究の中から、2つの柱について話をしたいと思います。一つはヒトの皮下脂肪をばらばらにして培養を行い、その培養液を慢性疼痛、多発性リュウマチ等の患者さんに投与するという新しい治療法についてお話しします。また、もう一つはヒトの皮下組織から得た幹細胞に骨誘導をかけて、誘導骨細胞を得ます。この細胞をコラーゲンビーズに結合させ、容器に入れてさらに培養を続けて、三次元の骨を形成できたという研究結果についてお話しします。




石川 博・客員教授 NDU生命科学講座 T-10 本学と筑波大学医学部とが連携して進める歯髄幹細胞を用いた再生医療 ヒトの歯髄幹細胞はその数、誘導分化能、増殖能等、どれを比較しても骨髄幹細胞よりも再生医療に適している。
 近年、歯科からの再生医療の発表で歯髄幹細胞の優位性が証明され、再生医療を行う医科において、歯髄幹細胞が急遽注目されてきた。
 本学出身の筑波大学口腔外科、武川寛樹教授の御尽力により、本学と筑波大学医学部との再生医療の連携が実現し、ヒト歯髄幹細胞から分化誘導した神経系細胞や肝細胞を用いた下記の再生医療研究が進行している。
1)坐骨神経再生(口腔外科、武川寛樹教授)。
2)脳梗塞治療(脳神経外科、病院長、松村明教授)。
3)慢性脊髄損傷の治療(整形外科、国府田正雄講師)。
4)分化誘導肝細胞を用いた肝不全治療(本学衛生学講座:八重垣健教授と消化器内科、福田邦明講師)
本学が主導するこれらの研究から、歯科と医科の連携による再生医療の将来性が如何に期待されているものかを報告したい。



五十嵐 勝・教 授 歯科保存学講座 T-11 「歯内療法学教育の変化からみた臨床の展望について」 歯の保存のための重要な範疇を担う歯内療法学は、より安全で効率的な新器材の開発、そして生体と環境に優しい治療法の確立を目指している。その結果、私が学生時代に受けた歯内療法の歯学部教育内容は、今では随分と変化してきている。
 昭和50年頃の当時は、リーマーやファイルがステンレススチールに変わり、またパラホルム糊剤を含有した水酸化カルシウムでの糊剤根管充填からガッタパーチャポイントを用いた加圧根管充填に変化していた時代である。それから30数年の時が流れた現在、教科書も改訂され、学部教育における座学と実習の内容が一変している。本講演では、現在の治療法に関わる考え方と処置法に関して提示することにより、将来の歯内療法の方向性を確認してみたいと思います。
T-12 「どう対応する根管治療の難治症例」 歯髄や根尖性歯周組織の疾患を治療する根管治療では、治療の場となる根管は極めて複雑な形態を持っています。さらに狭い口腔環境という条件下で、直視困難な根管内での作業は、まさに手探りの処置といわざるを得ない状況にあります。しかも、日常診療での時間制限のある中での根管治療は、治療を急いだ結果、様々な偶発事故を起こすこともあります。また、治療が計画どおりに奏効せず、根管充填の時期をなかなか迎えることの出来ない症例にも遭遇します。
本講演では、多量の滲出液を伴う症例や臨床症状の消退しない症例などの難治症例に対して、その原因を考えながら対処法を考えてみたいと思います。また、器具破折、側方穿孔、湾曲根管でのステップ形成などに対する対処法について、マイクロスコープ導入による効果を含め、より確実な歯内治療を身につけるための考え方を提示したいと思います。
前田宗宏・准教授 歯科保存学講座 T-13 根管治療の基本的な考え方 従来から,根管治療は直視困難で複雑な形態を有する根管を介して根尖狭窄部までの十分な処置を行わなければならないため、経験や勘といった不確定な因子によって治療の予後が大きく左右されてきました。しかし、多方面にわたる基礎的研究データから、歯内療法の考え方も少しずつ変化しています。今回は、根管治療の基本的な考え方、最近のトピックス、新器材の話題などを中心に、解説を行う予定です。


T-14 歯内療法用薬剤の選択 治療用薬剤の種類は多岐にわたることから,各薬剤の特徴を十分に理解し選択使用する必要があります。この際に留意すべき薬剤選択の基準や安全性について、解説を行う予定です。
奈良陽一郎・教 授 接着歯科学講座 T-15 いま求められるメタルフリー接着修復の勘所 患者さんは誰しもが、侵襲が少なく、かつ審美性に優れ、信頼性に長けた治療を願っています。
メタルフリー接着修復はこの願いを叶える申し子ともいえ、日々の診療を新しい展開へと導く手段として、今こそ活用すべき時が訪れています。ご拝察のとおり、接着修復は術者の手技によって開花し、また経費削減にも大きく寄与します。幸いにも、私達はひと昔前に比べ、格段に進歩した器材を豊富な製品群の中から自由に選び利用できる環境に身を置いています。しかし見方を変えますと、患者さんによって異なる多様な症例や多彩なニーズに応えられるよう、最も有効な術式や器材を適正に選択し、かつ的確に活用することが求められているともいえます。
そこで今回は、小臼歯のみならず下顎第一大臼歯の保険治療にも導入されたCAD/CAM修復を含め、これらメタルフリー接着修復を支える各種器材の最新情報やお奨めの製品の紹介、口腔内環境想定の接着実態の報告、加えて治療に際しての勘所についてお話しし、明日からの診療にお役に立てるよう努めたく思います。



柵木寿男・准教授 接着歯科学講座 T-16 気になる歯のウエストのお話 先生方はウエストを気にしてらっしゃいませんでしょうか?。御自身のウエストだけでなく、歯のウエスト、歯頸部疾患も大問題です。例えば「象牙質知覚過敏症」は、患者さんにとって冬季の冷たい風だけでなく、冷たい飲食物によっても年中生じてしまうことが苦痛となります。一方、術者側からみれば、一過性の誘発痛を主とする症状が患者さん御自身の感覚に基づくことが多く、他覚的に認知しにくいことが挙げられ、これが臨床的に「厄介な」症例であるといえます。
 この他の歯頸部疾患としては、古来より身近な「くさび状欠損:歯頸部摩耗症」、さらには歯冠部すべてにも波及する「酸蝕症」などを含めた、いわゆる「第3の歯科疾患」とも呼称される「Tooth Wear:非齲蝕性硬組織疾患」も問題となっています。それらの概要、診断から治療に至る最新の情報を御紹介し、Minimal Intervention の実践を踏まえた臨床的対応についてお話しさせていただきます。
T-17 みんなにやさしい接着歯冠修復: 2018 今や「MI: Minimal Intervention」と「審美歯科」は歯科界の大命題となっていますが、この両者は実は接着歯学によって結び付いています。患者さんの歯科治療に対する要望は、いかにも歯を治しましたという「人工的なきれいさ」を求めるわけではなく、より自然感に富んだ審美性を要求しているといえます。しかし、同時に他人と同様なのではなく、少し差別化を求めているということもまた事実ではないでしょうか? さらに、MI的に侵襲の少ない=歯にやさしい歯科医療も要求されています。
しかし現実には、材料や術式の技術革新、社会的な背景や近年の多大なる経済状況の変化・・・等々も考慮しなければいけません。
患者さんに、術者に、もちろん社会や環境に対しても「やさしい接着歯冠修復」とは? MIと審美歯科を切り口としつつ、2018年における接着修復を中心とした歯冠修復の現状と今後を柔らかくお話しさせていただきます。
中村昇司・非常勤講師 接着歯科学講座 T-18 最新デジタルレストレーションの潮流とその臨床 −口腔内カメラを応用したCAD/CAMシステムによる接着修復− ご拝察のとおり、今日そしてこれからの治療では、我々臨床家が様々なデジタル技術を活用しなければならない時代・環境となってきています。なかでも歯科用CAD/CAMシステムは、口腔内へ装着する修復物をデジタル技術の恩恵を受けながら作製するため、その用法を十分理解しておく必要があります。
本システムは、これまでのガラスセラミックやハイブリッド材料などに加え、破折に強く審美性が向上した高透光性ジルコニアの加工が可能となっています。また、光学印象採得を経て得たデータから、修復物を作業用石膏模型の作製をはじめとする技工作業をスキップして作製することができます。これらは労力・時間・資源・経費の削減にも結び付き、本システムの更なる普及と進展に疑いの余地はありません。
しかし、この革新的な技術を臨床で応用し、患者の期待に応える治療として成功させるためには、接着を活用した患歯との一体化を達成することが必須となります。
そこで今回の講演では、世界中で用いられているチェアサイド型歯科用CAD/CAMシステムの“CEREC”によるデジタルレストレーションを取り上げ、各種材料の応用法や電子データを用いたチェアサイドとラボサイドとの連携法を含めてお話しすると共に、“成否の要”ともいえる接着技法について分かり易く解説させていただきます。



江黒 徹・非常勤講師 接着歯科学講座 T-19 Er:YAGレーザーを臨床に活かす −齲蝕治療からインプラントまで− 近年、多くの診療室において、CO2レーザー・Nd:YAGレーザー・半導体レーザー・Er:YAGレーザーをはじめとした各種レーザーが様々な症例に応用されています。なかでも、Er:YAGレーザーは平成20年4月の診療報酬改正において齲蝕治療へのレーザー加算が、さらに、平成22年の改正では歯周治療に対する加算が認められました。点数に議論はあるようですが、レーザーが保険導入されたのは大きな進歩と考えられています。
しかし、現在の大学教育においては「レーザー」の系統だった講義はなされておらず、その基礎知識や安全性については周知徹底されていないのが現状です。演者は大学院在籍時より、Er:YAGレーザーを中心に、基礎研究ならびに臨床応用を行ってきました。
そこで今回は、Er:YAGレーザーを中心に、基礎研究データとこれまでの臨床例とを組合せ、齲蝕治療から歯周治療、そしてインプラント治療への臨床応用について説明させて頂きます。この講演を通して、先生方の診療の一助になれば幸いです。



沼部幸博・教 授 歯周病学講座 T-20 命をねらう歯周病 -歯周病と全身疾患との関わり。全身の健康は口の中から-  「フロスか死か!」。これは、「プラークコントロールを励行し、元気に長生きしますか?それともそれを怠り歯周病になり、全身疾患を併発して早死にしますか?」という意味です。
 近年、歯周病患者において、歯周病原性細菌や炎症の産生物が全身を巡り、一部の癌、心臓病、肺炎、脳血管障害、早期低体重児出産など、各組織や臓器で生死に関わる病気の原因になることや、糖尿病などを増悪させる証拠が見つかり、マスコミでも大きく取りあげられています。
 すなわち歯周病は全身の健康にも関わる重要な問題で、それゆえに歯周治療で命を脅かす疾患を予防し、健康を維持できるのです。この概念は歯周病患者に対する治療への強力なモチベーションであり、また心臓疾患や肺炎、糖尿病患者、妊婦などに歯科検診の必要性を説き、歯科医院のドアを叩かせるキーワードです。
 本講演では、そのような結論に至った科学的根拠や社会的背景などを解説し、歯科医師またはコ・デンタルスタッフからの対応法を述べるとともに、医科の専門医との連携の方法にも言及する予定です。
T-21 「歯周病の診断と治療の指針」にそった歯周治療 -歯科医学的根拠に基づいた保険請求のためには− 平成23年の厚生労働省の歯科疾患実態調査をみても、依然として歯周病の症状を持った人は成人の8割近く存在し、日常臨床の歯周病治療は不可欠です。
 日本歯科医師会と日本歯周病学会が「歯周病の診断と治療のガイドライン」を作成し、社会保険診療報酬点数改正で歯周治療にかかわる部分が大きく変更され、すでに20年近くが経過しました。そしてその際に検査結果に基づいた治療計画に沿って治療を進め、再評価で治療計画を修正しながら、最終目標である歯周病の治癒または症状安定を図る道筋が示され、本邦の歯周治療体系が確立されました。
 しかし歯周治療の保険算定に際しては様々な疑問点、問題点を抱えたまま推移しているものもあり、臨床現場からご質問を受けることが多々あります。
 本講演では、歯周治療の流れを辿りながらそれらの点を整理し、保険診療における歯周治療の歯科医学的解釈と法的な妥当性の両方の側面を捉えながら、解説を致します。 
伊藤 弘・准教授 歯周病学講座 T-22 歯周病の検査・診断−発症前診断を目指して 歯周病の検査・診断は、ポケットプローブを用い、その深さ(PPD)とそれに伴う出血(BOP)で評価することは、世界的に認知され、この方法を用いない臨床家は皆無に等しく、ほとんどのオフィスではポケットプローブで歯周病の検査・診断を行っていることと思います。つまり、歯周炎の定義が“付着の喪失を伴う歯肉の炎症”であることを鑑みると、PPDとBOPが最重要診査項目であることに異論はありません。我々の研究室では、ポケット内容物から歯周病の発症前診断を目指し臨床応用へ向けて取り組んでいます。今回の講演会では改めて、PPDとBOPの意義を再検討し、従来用いられてきた検査方法から得られた結果に対し再考察を加えてみたいと思います。


関野 愉・准教授 歯周病学講座 T-23 歯周基本治療を効率的に行うための戦略 歯周病の治療は、一般的には期間が長く、とくに歯周基本治療における歯肉縁下のSRPは操作が煩雑で、時間もかかり、さらに術後に知覚過敏などを起こす事もあり問題点も多い。これらを解決するため、様々な戦略が試みられている。
フルマウスディスインフェクション
超音波スケーラーによるデブライドメント
抗菌療法
Er.YAGレーザーの使用
EMDOGAIN の応用
 情報が氾濫し、何が必要で、を取り入れたらよいのか判断する事が困難である現在、拠り所の一つなりうるのは「科学的根拠」である。実際に、上にあげた治療法の中にはその効果が疑問視されているものある。今回は、歯周基本治療を効率的に行うためのアプローチ法について、改正された保険のガイドラインに沿った形を含めて、科学的に解説する。
T-24 咬合性外傷の理論とその臨床応用 「咬合性外傷」とは、咀嚼筋により引き起こされる力により歯周組織に生じた病的または適応性変化を示す用語である。かつては、歯の動揺を伴う垂直性骨吸収は咬合によるものだとするGlickmanら(1965,1967)の死体解剖により得られた所見に基づいた理論が広く信じられてきた。しかし、Waehaugら(1978)の同様の観察結果はその理論を支持しなかった。1970年代後半から1980年代初頭にかけて、Polsonらのニューヨーク、イーストマン研究所のグループはサルを用い、またLindheらのイエテボリ大学のグループは、ビーグル犬を用いて動物実験を行い、咬合性外傷の歯周組織に及ぼす影響、プラーク由来の歯周炎との関連などについて研究報告を行った。今回は、これらの科学的エビデンスを臨床でどのように応用していくべきか、解説する。

村樫悦子・講 師 歯周病学講座 T-25 Nd:YAGレーザーによる歯周病の治療について 近年、医療におけるレーザーの開発が進み、歯科分野でもその効果が注目され、数多くの臨床症例に応用されている。
 歯科医療の場においてここ数十年の動向を振り返ると、レーザーは急激にその普及率をのばし、多くの治療に重要な役割を持って携わってきた。そしてレーザーは多種多様の機種があり、波長、出力および照射時間の違いにより、照射される組織への影響が異なる。よって、治療を行う際、その治療に適したレーザーを選択するためには個々のレーザーの特徴を理解し、適切に使用することが重要である。
 今回報告する歯科用Nd:YAGレーザーは、その使用領域がう蝕治療、う蝕予防、歯内療法、歯周治療、審美歯科およびインプラント領域などと多岐にわたる。特に歯周領域においては歯周外科手術時の歯肉の切開・止血に止まらず、歯周ポケット内の殺菌、歯周ポケット掻爬、根面に付着する歯石や炎症物質の蒸散、歯肉切除、歯肉の審美障害となるメラニン色素沈着の改善、さらに低出力でレーザー照射することにより患部の疼痛緩和、血流促進など、多くの処置に応用することが出来る。
 そこで今回、他のレーザーの特徴を踏まえ、歯科用Nd:YAGレーザーにおける歯周治療の現状、および今後の展望について報告する。

T-26 再生療法の未来 −歯周組織は果たして回復するか?
21世紀に向けての未来戦略−
歯周治療の最終目標は、歯周組織の再生(regeneration)、つまり、歯周病によって破壊された歯周組織が歯周病罹患前の歯周組織構造に完全修復され、正常に機能することである。しかしながら、中等度 重度歯周炎によって高度の歯周組織破壊が認められる症例において歯周治療を行った場合、歯周組織の治癒形態は修復(repair)、つまり、組織にある一定量以上の実質欠損が生じた場合、歯周病罹患前の歯周組織構造には完全修復されず、失われた組織は他の細胞あるいは組織により置換される。歯周ポケット掻爬術、歯肉剥離掻爬術(フラップ手術)や歯肉弁根尖側移動術などの従来の歯周外科手術の治癒形態が修復(長い上皮性付着)である。
 歯周組織の再生療法として、1982年にNymanらが歯周組織再生療法(Guided tissue regeneration:GTR)の基礎となる研究、さらに1997年にHammarstr mがエナメルマトリックスタンパク質(エムドゲイン )についての動物実験報告を基盤に実用開発され、GTR法やエナメルマトリックスタンパク質を用いた歯周組織再生療法が歯科領域における再生療法として多くの臨床症例において用いられている。
 しかしながら、GTR法やエナメルマトリックスタンパク質を用いた歯周組織再生療法はすべての歯周病の症例に無条件に適応できるものではない。よって、より高度な次世代の再生療法を開発するべく、多くの研究者らが細胞実験、または動物実験を行い、国内外の学会で発表している。近年,分子生物学や細胞生物学の進歩により,細胞の増殖・分化および運動促進または抑制を調節する細胞増殖因子が,歯周病によって破壊された歯周組織の修復・再生に重要な役割を果たしている事が明らかとなった。以後,多くの歯周組織再生に関する細胞増殖因子の研究が報告され,特に血小板由来細胞増殖因子(PDGF),塩基性線維芽細胞増殖因子(b-FGF)もしくはb型トランスフォーミング増殖因子(TGF-b)などの細胞増殖因子を用いた歯周組織再生療法が検討されている。
 本講演では、当講座で研究された、次世代の再生療法と成りうる可能性のある基礎研究について紹介する。
志賀 博・教 授 歯科補綴学第1講座 T-27 健康寿命を延伸する有床義歯補綴臨床 介護を必要とせず自立して生活できる生存期間である健康寿命は、平均寿命との間
に約10年もの差があります。そこで、健康寿命を延ばす多くの試みがなされており、
厚生労働省の「健康日本21」では、健康寿命の延伸のために健全な口腔機能の維持及
び向上が設定されています。健全な口腔機能を維持するためには、良好に咀嚼できる
ことが求められます。
 有床義歯は、天然歯列とは異なり、義歯床に連結された人工歯列が1つのユニット
として顎堤粘膜に支持され、口腔内に維持されて機能を営みますので、義歯床の安定
が最優先条件であり、咬合状態が主要な役割を担っています。また、義歯を支持する
顎堤は、骨吸収が加齢とともに進行するのみならず、義歯の装着年齢や製作回数に
よっても影響を受け、ほぼ永久的に変化し続けます。したがって、有床義歯の咬合は
有歯顎の咬合とは異なった対応が必要であり、また機能的な面でも独自の咬合を構築
することが可能です。
 そこで、本講演では、臨床応用されている咬合様式の特徴を整理し、そのあらまし
を説明させていただくとともに噛める義歯のための咬合について、私見を述べさせて
いただきます。



五味治徳・教 授 歯科補綴学第2講座

T-28 材料特性を考慮した補綴装置選択のポイント 歯冠補綴装置は、金属・コンポジットレジン・セラミックスなどの材料から単体あるいは複合体として製作されています。金属は安定した物性の反面、審美性の観点や金属アレルギーの不安もあります。レジンは、その操作性の簡便さと物性の改善や接着技術の向上により、近年では小臼歯のCAD/CAM冠の保険導入やグラスファイバーとの併用によるコアやブリッジにも応用されています。セラミックスはCAD/CAMによる機械加工やプレス成型により応用範囲が広がっています。
 日常臨床で歯冠補綴装置と材料をどのように選択するべきか。当然症例や患者さんの背景により左右される部分も多く正解はないところでしょう。より安全・安心な治療のためにも、各種材料や補綴装置の短所を把握しつつ、長所をより十分に発揮できるように、材料特性を活用することが重要と考えます。
 本講演では、これら各種材料の特性と歯冠補綴装置製作法、臨床応用例を供覧させていただきます。
T-29 スポーツ歯学を学ぼう 歯科医師は、スポーツ外傷による歯・顎口腔領域の治療について、日常臨床で遭遇しうるものであるため、その知識を修得しておく必要があります。さらに、スポーツ傷害による歯や顎口腔の診断・治療だけでなく、その予防についても国民に知らせる義務もあります。また、口腔内防護装置であるマウスガードに関しても、その材質の特徴やデザインについての正しい知識をもっておくべきです。生命歯学部では、平成19年歯科医学教授要綱にスポーツ歯学に関する教授要綱が収載されたことを受けて、平成21年度から第2学年前期にスポーツ歯学の講義を行っていますが、大半の先生方は学生時代にスポーツ歯学の教育を受けていないのが現状です。
そこで本講演では、これらスポーツ歯学について、最低限知っておいていただきたい概要とキーワードをお話しさせていただきたいと思います。
新谷明一・准教授 歯科補綴学第2講座 T-30 CAD/CAM補綴との付き合い方 近年,歯科医療のデジタル化は目覚ましく,補綴装置の製作においても様々な工程がデジタル化されております.この技術から得られる恩恵は,補綴装置・材料の均一化・高品質化やデジタル化されたデータを保存することによる再製作の容易さ,トレーサビリティーの高さなどが挙げられます.平成26年4月にはいよいよCAD/CAMレジンクラウンが保険導入され,日常的にCAD/CAMを使用しなくてはならない時代となりました.このCAD/CAMレジンクラウンですが,特別な術式が求められるわけでもなく,現在まで広く利用されているCAD/CAM補綴と同様の製作方法が用いられております.しかしながら,セラミック系材料とレジンとでは,その材料の特性が大きく異なるため,それぞれに対する上手な使い方が存在いたします.本公演では,CAD/CAMによって製作された補綴装置を中心に,それぞれの特徴を紹介させていただくことで,会員皆様の日々の臨床に役立たせていただければと思っております.


八田みのり・講 師 歯科補綴学第2講座 T-31 これからの審美歯冠修復に向けて  材料特性をふまえた臨床について 近年,患者の高い審美性の要求から,臼歯部も含め歯冠色材料を使用した審美歯冠修復が第一選択となりつつあります.これらの歯冠修復材料はハイブリッド型コンポジットレジンからジルコニアを始めとするセラミック系材料まで各メーカーより多種販売されています.こうした中,私たち歯科医師は症例に応じてあらゆる知識を動員し,最適な材料を選択するわけですが,各材料の特性や使用方法の正しい理解が良好な予後と患者のQOLの向上に寄与すことを日々の臨床で実感できることと思います.
 本講演では,日々進化するこれらの歯冠修復材料について,当講座における現在までの材料研究データから得られた知見とともに,現在の歯冠修復材料の特性と臨床において必要なポイントについてお話したいと思います.



宮坂孝弘・准教授 口腔外科学講座 T-32 口腔外科小手術におけるトラブルを避けるには 最近の医療を取り巻く環境は、10年前に比べて大きく変化しています。医療事故とは、診療に伴って起きた不足の事態をいいます。不測の事態を全て含むので、患者さんへの説明不足や未承諾歯科治療など精神的被害も含みます。医療事故のうち、医療関係者に法律上の責任があるものを医療過誤といいます。
最近の報道をみても連日のように、医療事故や医療過誤の報道がされており、一般社会の受け止め方も大変厳しいものなってきているのが現状です。
そこで日常の歯科臨床の中で事故のリスクが高い口腔外科の小手術について具体的事例を挙げて説明したいと思います。
T-33 高齢者リスク患者の歯科治療への対応について わが国は世界に類を見ない高齢化社会へと移行し、日常の歯科診療や在宅訪問診療において高齢者を診る機会が増加しています。高齢者の多くは循環器疾患、糖尿病、脳血管障害などの重篤な全身的合併症を有している、いわゆる有病者です。これからの診療において、高齢者リスク患者に対する基本的な対処法を知っておくことは必要不可欠と考えます。
種々の身的合併症について基本的な問題点と対処法が理解できていれば、医療事故も防げます。また、種々の疾患をもつ患者さんの歯科治療を安全に行うには、医科との連携が重要です。日常歯科臨床の中で役立つ照会状の書き方の要点、医科から送られてきた診療情報提供書の読み方、併せて“歯科治療上のポイント”などもご説明したいと思います。
高松和広・非常勤講師 口腔外科学講座 T-34 歯科界はそんなに暗くない 〜繋がりを大切にするヒューマンマネジメント〜 厚生労働省の調査による、職業別人気ランキングでは歯科医師は100位内にも入っていない。「歯科界は本当に暗いのか?」という疑念に対して、1.外部環境 2.技術進歩 3.一般人からみた歯科医療 4.マインドという見地から検証し、「歯科界はそんなに暗くない」という結論に到達した。さらに「歯科界を明るくする」為の方略としてヒューマンマネジメントを紹介する。


砂田勝久・教 授 歯科麻酔学講座 T-35 聞くとよく効く麻酔のハナシ 太古の昔から、好んで痛い思いをするのは特殊な嗜好の持ち主に限られています。歯科を受診する患者さんは、少しでも痛くなく(可能であればまったく痛くなく)治療を受けたいと望んでいるはずです。「そんなときにはこれ1本」というわけにはいきませんが、毎日何気なくブスブス刺している麻酔だって、細かい心配りを積み重ねるとアーラびっくり結構痛くないものです。痛くなければ血圧だって上がりませんし、不整脈だって起きません、たぶん起きないはずです、起きないといいなぁ‥。というわけで、笑気の利用法から伝達麻酔の刺入点(そうそうそこが知りたいんだよ、という声多し)さらには、安全な患者管理のためにはどうしても欠かせないモニターの読み方まで、明日からの診療に役立つような秘伝の方法を?お話させていただこうと思います。 T-36 こんな患者さんが来院したら・・ ある日の診察
 患者さんA おらあこんな薬飲んでんだっけど。
 先生    えーっとなになに、「本患者さんは昨年労作性狭心症に対しDES挿入術施行、現在アスピリンとブラビックスでコントロールしております。抜歯の際には止血が困難となることが予想されますので云々」。えーっとね、今日は消毒だけね。
その日の午後
 患者さんB わたくし、かかりつけのお医者様からこのような手紙を頂戴しているのでござあますけど、なんですか歯科で治療の際には必ず担当の先生にお見せしろとのことで。
 先生    (またかよ、今日はついてないなあ)どれどれ、「本患者の喘息にフルタイド吸入を処方しております。また発作時にはメプチン吸入でコントロール可能ですがアスピリン喘息の疑いがあるためNSAIDsの投与には注意が必要と考えます」えーっとね、今日は消毒だけね、えっ昨日も消毒だけだった?いやあ消毒は大事だから、しょうどく、ショードク・・。

 医学の世界はまさに日進月歩、聞いたことの無い病気や治療法、薬剤などが次から次えと登場します。そこで今回は歯科治療を行う上でそうしても知っておかなければならない他科領域の疾患と緊急時の対応についてお話させていただきます。
篠原健一郎・講 師 歯科麻酔学講座 T-37 基本的な救急キット・救急薬の使い方  全身的症状の把握と救急キット・救急薬の選択とその使い方 各歯科医師会などで選定・配布され各診療所に所蔵されている「救急キット・救急薬セット」の詳細と具体的な使用法について今一度学び返してみましょう!
 配布されてもクリニックのどこかにしまいこまれて、その後いつしかその所在も不明となり何年後かの大掃除や棚卸しの際に再発見されるも、せっかくのクスリの使用期限は切れてしまっている….(涙)というのが、よくあるパターンと思われます。せっかく用意された「救急キット・救急薬セット」もこれでは可哀想ですし浮かばれません!
 本企画では、各地区で整備配布されている実際の「救急キット・救急薬セット」をモデルとして、各キットと各救急薬の具体的な使用法と使用状況を例示しながら解説させていただきます。本講演が各先生のお持ちになられている「救急キット・救急薬セット」についての理解を深めるきっかけとなり、各先生の日常診療におけるリスク管理の一助となれば幸いです。



筒井友花子・講 師 歯科麻酔学講座 T-38 「鎮静法のすゝめ」 「患者さんにはリラックスした状態で気持ちよく治療を受けて頂きたい」とお考えの先生方は数多く存在すると思います。われわれ歯科麻酔科医はそんな先生方の思いをサポート出来ます。今回私がご紹介させて頂くサポート方法は「鎮静法」です。歯科診療に対する付加価値として「鎮静法の導入」 を検討してみませんか?お話しする内容は、@鎮静法のやさしい基礎。A鎮静法適応患者さんの選定方法。Bそれぞれの診療所に合わせた鎮静法の導入方法。C緊急事態発生時の対処方法。の4点です。わかりやすく要点を絞ってお話しさせて頂きたいと思います。


新井一仁・教 授 歯科矯正学講座 T-39 混合歯列期の歯の異常  不正咬合の発現には、多くの要素が関与するため不明な点が多く残されており、教科書的にも「不正咬合は多因子疾患で、遺伝と環境が相互に作用して生じる」とあいまいに説明され、常に論争の的となってきています。
 近年、ポストゲノムと呼ばれる時代に入り、個々の患者さんの遺伝子を解析することで診断の精度を上げるという、新しい医療の時代に移行しつつあると言われています。
 歯科の分野でも、混合歯列期に見つかるごくありふれたいくつかの歯の異常について、相互の遺伝的な関連性が注目されるようになり、不正咬合の早期発見に関心が高まっています。
 講演では、最近の知見から、臨床的に興味深い混合歯列期の歯の異常の不思議な性質について、経験豊富な校友の先生方とともに考えてみたいと思います。
T-40 矯正歯科における抜歯  歯科医療の基本的な仕事は歯の保存にあるが、矯正治療では、不正咬合の治療のために健康な歯を抜去する場合がある。およそ100年前のアングルの時代に遡る、この抜歯か・非抜歯か、という一見単純な二者択一の問題は、現代の我々にとっても依然として難しく、解決ができていない面がある。
 そこで、いっそう安全で安心できる矯正歯科治療を提供するための臨床的な統計指標のひとつとしての抜歯頻度について考えてみたいと思います。
中村俊弘・客員准教授 歯科矯正学講座 T-41 矯正歯科と一般歯科のコラボレーション 「歯並びを治してよくかめるようにしましょう」これは歯科医師が患者さんに対してよく使う言葉です。また、「歯並びが悪いから顎関節症になっている」「矯正治療したから顎が痛くなった」などもしばしば耳にしますが、本当でしょうか。
 1907年、Angleは歯科矯正学の目的を「不正咬合をなおすこと」と定義しました。その後、成長発育の概念等が加わり、1974年に榎 恵は「歯科矯正学とは、歯、歯周組織、顎、さらにそれらを包含する顔の正常な成長発育を研究し、それら諸構造の不正な成長発育から引き起こされる不正咬合や顎の異常な関係を改善して、口顎系の正しい機能を営ましめ、同時に顔貌の改善をはかって、社会的、心理的に個人の福祉に寄与し、進んではそれら不正状態の発生を予防するための研究と技術とを含む歯科の一分科である」と述べ、歯並びだけでなく成長発育や心理学、さらに口腔の生理的機能にまでも言及されています。つまり、形態的に「歯並びを整えて」、機能的に「よくかめるように・・」、そして心理的に「ニコニコ笑顔・・」を示しているのでしょう。
 しかし、現実の歯科矯正治療において、機能的な改善についてはどうでしょう。歯並びなどの形態的変化は、口腔模型やレントゲン写真(セファロ)で治療前後の比較をして改善を示すことはできますが、機能的変化はうまく明示できていないのが現状ではないでしょうか。冒頭の疑問は、こんなところからおきているものと考えられます。
 そこで、矯正歯科と一般歯科のコラボレーションによる治療を中心に、形態的、機能的に改善した症例を提示し、疑問に答えようと思います。



苅部洋行・教 授 小児歯科学講座 T-42 小児期のTMDに対するマネジメント TMD(顎関節症)の症状は、小児期にもみられ、症状は経年的に頻度と重症度が増大すると報告されている。一方で、TMDはself-limitingな疾患であるといわれ、特に小児においては、成長発育の途上であること、症状が比較的軽度であることから、エビデンスに則った診査や診断が行われずに、安易に経過観察にされてしまうこともある。しかし、実際に来院した患者には、痛みや機能障害が存在し、日常生活に支障をきたしているケースもある。適切な鑑別診断が行われなければ、TMD以外の疾患を見過ごすことにより、より重篤な事態を招くこともあるだろう。また、仮に自然治癒していくようなTMDであっても、適切なホームケアを心がけなければ、再燃する可能性も大いに考えられる。小児期のTMDを管理するには、まず、他の疾患との鑑別診断を行い、さらにTMDの分類診断を行い、適切な治療と患者教育によりTMDの症状の悪化を予防していくことが重要である。



河上智美・准教授 小児歯科学講座 T-43 小児がん既往の患者さんが来院したら −口腔内症状と対応法− 小児がんは、近年では治療法の改良や薬剤の開発によって治癒率は上昇し長期生存が可能となっています。がんの治療法には、外科療法、化学療法、放射線療法、免疫療法、移植療法があり、これらが組合わされて行なわれます。しかし、小児の成長期に行われるこれらの治療法は子供の心身に様々な影響をおよぼし、口腔内にも障害が現れることがわかってきました。医科においては、治癒後の患者の健康維持や管理の重要性が唱えられて、定期的なフォローアップを行う体制がスタートしました。また歯科でも、既往を有する患者の来院機会が増えると考えられ、口腔疾患に対する対応が期待されています。
今回は、かかりつけ歯科医においての定期管理をふまえて、小児がんの発症時の症状から、がんの治療時期の歯科での対応法、がんの治癒後に現れる歯科的特徴や口腔診査のポイントについて解説します。



名生幸恵・講 師 小児歯科学講座 T-44 CAMBRAで子どもも大人もみんな元気!
―リスク評価を応用した赤ちゃん時代からのう蝕予防―
ありとあらゆる情報が簡単に手に入るようになったいま、子育て世代の間では「虫歯予防のために赤ちゃんのときから歯医者につれていく」という考えが浸透しつつあります。このお子さんの最初の歯科医院訪問こそが、その親子(家族)にとっても私たち歯科医療者にとっても絶好のチャンスであることを、米国で提唱されたCAMBRA:Caries Management By Risk Assessmentの考えを通してお伝えします。この大切な機会を逃さないためのCAMBRA応用の実際から、う蝕予防にとどまらず、生涯にわたる口腔内の健康維持・管理に携わることで、末永く地域の皆さんのヘルスプロモーターとして活躍するためのヒントをお話しさせていただきます。


河合泰輔・准教授 歯科放射線学講座 T-45 歯科用コーンビームCTを有効に活用する 歯科における新しい画像診断の手段として歯科用コーンビームCT(歯科用CBCT)が注目され、普及している。歯科用CBCTは複雑な形態を持つ頭頸部の硬組織を任意の方向から三次元的に観察が出来ると同時に、従来のCTと異なり、開業歯科医でも簡便に利用できるメリットがある。
 一般的に歯科の画像診断は三次元の歯や顎骨を二次元で表現したデンタル、パノラマによる重積画像の観察を行い、不足した部分は術者の経験や撮影法の幾何学的な位置関係から推測して診断を行っている。そして、これがいわゆる読影能力といわれる一部であると思われる。歯科用CBCTはこれを補うことが可能であり、今まで以上に日常臨床において診断に寄与する一面を具備している。
 そこで講演では歯科用CBCTについて1)種類と基本的特徴の解説、2)正常解剖像、3)症例供覧、4)有効活用と注意点について述べ、歯科用CBCTについて基本から有効活用法まで一日で理解していただけるように説明する。
T-46 歯科臨床に必要なエックス線画像における正常像と異常像の見きわめ
〜正常な解剖学的指標の理解と画像の解釈〜
歯や骨などの硬組織疾患の多い歯科において、目で見えない病変を客観的に診断できるのはエックス線診断である。歯科放射線の教科書などには、腫瘍などの大きな疾患の診断についてより多くの記載がされている。しかし日常の歯科臨床では、小さな透過像(不透過像)に対処しなければならなかったり、あるいは何でこんなところに透過像(不透過像)があるのだろう?と疑問を抱いたりすることがある。
 そこで講演では、歯科のエックス線撮影で最も頻繁に用いられるデンタル、パノラマ、そして近年、加速度的に開業歯科医に普及している歯科用コーンビームCTの画像を用い、正常像を再確認しながら、経過観察するべき正常範囲内(ボーダーライン)のもの、異常(処置、あるいは他院紹介が必要)なもの、の見分けなどについて説明して、翌日からすぐ使える知識の習得を目指す。

浅海利恵子・講 師 歯科放射線学講座 T-47 デンタル・パノラマの診断を最新の三次元画像で検証する 近年、歯科の治療で三次元画像に触れる機会が増している。これはインプラントや顎関節疾患の診断・治療のための外部機関へのCT、MRIの撮影依頼、そして、保険導入され開業歯科医院に加速度的に普及している歯科用コーンビームCTによるものと考えられる。
ここ数十年来、歯科の画像診断は立体の歯や顎骨を二次元で表現したデンタル、パノラマによる重積画像で観察を行い、残りは術者の経験や撮影法の幾何学的位置関係などから行ってきた。本講演では、日常臨床でベースとなるパノラマ、デンタルで見える指標について、CT、MRI、歯科用コーンビームCTの画像と比較しながら、顎口腔領域の重要な解剖学的指標を中心に疾患も交えて説明し、すぐに使える画像観察の基礎を身に付けるようにする。また、CT、歯科用コーンビームCTの画像を活用方法として、シミュレーションソフトの利用、応力解析等についても簡単に説明する予定である。



北村和夫・教 授 総合診療科1 T-48 ここだけは押さえておきたい歯内療法の勘所  近年、湾曲根管への対応可能なRTファイルやNiTiロータリーファイルなどの多くの新しい根管拡大形成器具が開発・応用されています。根管充填では多くの新しい根管充填用機器が紹介され、歯科用CTと顕微鏡も根管治療に取り入れられるようになりました。歯内療法は20年前と比べて大きく変化しましたが、保健診療で行われる根管治療の成績に飛躍的な向上がみられないのが現状です。そこで通常の根管治療の成功率を高めるにはどうしたらよいかを先生方とともに考えていきたいと思います。
 講演では、臨床症例を供覧しながら髄質開拡大のコツ、根管拡大形成の勘所、根管清掃剤の効果的な使用法、水酸化カルシウムによる根管消毒、3D根管充填、接着根管充填の特徴、側方加圧充填時に注意すべき点などをステップごとに解説します。最新情報を交え、先生方の明日からの臨床に即生かせるような内容となっています。
T-49 エンド難症例への対応  多くの歯科治療が国内皆保険でカバーされているため、1日に多数の患者さんを診ることが一般的な歯科の診療スタイルとなっています。そのため、歯内療法は本来ある程度のまとまった時間が必要であるにも関わらず、一回の治療に費やせる時間に限りがあるのが現状です。このような状況下では、歯内療法の診断がその後の治療や予後に大きく影響します。
 多くの先生が、歯内療法の難症例でお困りではないでしょうか。まずは、その歯が根管治療のみで治せるか、外科的歯内療法を行うべきなのか、抜歯の適応なのかを再考してみましょう。その判断基準、治癒しない原因について臨床例を供覧しながら解説致します。
 講演では、専門医として私の実践している歯内療法、使用している器具器材、薬剤も紹介し、明日からの臨床に即生かせるような内容となっています。
 エンドで悩んでいる先生は、X線写真などの資料をご持参のうえご参加下さい。
仲谷 寛・教 授 総合診療科1 T-50 リグロス ってどうなの? 2016年末、新たな歯周組織再生薬として、本邦にて開発されたリグロスョが薬価収載、販売されました。リグロス は、遺伝子組換えbFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)製剤で、同様の製剤は既に褥瘡、皮膚潰瘍(熱傷潰瘍、下腿潰瘍)の治療薬として、既に医科で用いられています。これまでの研究から、リグロス は、エムドゲイン と比較しても、新生歯槽骨の増加量で優れているなど、歯周組織再生に有効であることが示されています。そして、使用方法も従来の歯周組織再生療法に比べ比較的容易であることや保険収載されていることから、臨床現場で用いやすくなりました。しかしながら、ただリグロス を塗布すれば歯周組織が元通りになるといった魔法の薬ではありません。術後早期の治癒状況も通常のフラップ手術やエムドゲインョを行った場合とは、少々異なる反応がみられます。そこで、リグロス の特徴、使用におけるテクニック、注意点等についてご紹介させていただきます。 T-51 歯周治療の基本テクニックを見直そう 日常臨床での歯周治療は、ブラッシング指導、スケーリング・ルートプレーニング、メインテナンスが主体であり、そこにフラップ手術が加わることがある。これらのことは、誰もが学生時代にはひと通り教わり、どの歯科医院でも当たり前に行っていることである。そして、なんとなく実施しても、とりあえずは大きな問題とはならない。しかし、プローブの挿入、キュレットの操作方向、歯肉弁の剥離など、確実に行おうとした場合に様々な盲点がある。実際にこれらの基本的テクニックは当病院において歯周病専門医を目指している若いドクター達でも犯す誤りや勘違いがある。そこで、自分の失敗をもとに歯周治療に必要な種々の基本テクニックについて解説し、先生方の日常臨床における歯周治療の精度をさらに充実させることができれば幸いである。
石井隆資・准教授 総合診療科1 T-52 それは本当に、歯の痛みですか? ある歯に痛みを感じた場合、その歯が原因であると考えるのが常識的でしたが、必ずしもそうではないことが判ってきました。これを非歯原性歯痛といいます。
非歯原性歯痛は、痛みを訴えている歯に歯科的な原因・異常が無いにもかかわらず、歯痛が感じられる状態のことをいいます。
この病態を理解していないと、不必要な抜髄や抜歯をおこなうこととなり、患者さんとのトラブルの原因となってしまいます。
非歯原性歯痛の診断には医療面接による疼痛症状の特徴の聞き取りが重要で、各疾患の痛みの特徴は決まっており、患者さんの痛みの状態を聴取すればある程度の予想がつきます。
 講演では、この病態の特徴、原因疾患の特徴をお話ししたいと思います。



川村浩樹・准教授 総合診療科1 T-53 開業医に役立つPMTC ‐その理論と実際− PMTCとはProfessional Mechanical Tooth Cleaningの略称であり、歯周病のSPTの一環として確立してきた方法です。近年、『PMTC』という言葉が、日本の歯科界において多く使われるようになり、『PMTC』といわれる処置も、多く行われるようになってきていますが、その内容については、個々の施設や先生方の判断により多岐にわたっているのが現状と思われます。今回の講演では、その理論的背景から実践について、解説を加えていく予定です。
T-54 歯周病と全身疾患 以前より、歯周疾患と全身疾患との関連は、糖尿病などを始めとして議論されてきましたが、それに加えて近年、誤嚥性肺炎、虚血性心疾患や脳卒中などの循環器の疾患、更には骨粗鬆症や、早産、低体重児出産などとの関連も議論の的となっています。また、糖尿病についても、その合併症としての歯周疾患というとらえ方と同時に、歯周疾患による糖尿病の増悪などの可能性についても新しい知見が明らかになってきています。
この様に口腔内の健康と全身との関連が明らかとなってきている今、歯周疾患のみならず、口腔内の健康を維持し、全身の疾患のリスクを減少させていくことが、今後の歯科臨床現場で大きな課題となっていくと思われます。講演ではこれらの事柄について、解説を加えていく予定です
大澤銀子・准教授 総合診療科1 T-55 臨床に役立つコミュニケーションスキル 近年,ビジネス分野で広い支持を得ているコミュニケーション技法に「コーチング」があります。コーチングとは,その人の自発的な行動を促すコミュニケーション技法のひとつで,その有用性から,医療分野においても広く応用され始めています。
 診療室では,医療者から患者さん,指導者から若手に対しては,指示・命令といった一方通行の会話が多くなります。その結果,患者さん,スタッフが自分の思うような行動を取ってくれないといった経験に繋がります。勿論,医療現場では,指示・命令が必要な時もあります。しかし,スタッフらが自ら考え行動できれば,患者さん自ら病気を治そうと頑張ってくれたら,どんなに良いでしょう。
そこで,コーチングを臨床現場や日常で意識的に活用していただくために,基本的なスキルについてワークをまじえながらお話したいと思います。
T-56 手際よくフラップ手術を行うために フラップ手術は進行した歯周炎の治療を行なう際の治療の選択肢の一つです。フラップ手術は,歯周ポケットの除去や歯石の除去を行なうことにより,歯周組織の改善を図る重要な処置です。しかしながら,「手術に時間がかかってしまう」,「うまく剥離できない」,「出血のコントロールができない」といった経験が手術を遠ざける要因となっていませんか?
 そこで,今回,フラップ手術を手際よく行なうための切開・剥離・縫合法のポイントやあると便利なインスツルメント,そして,それらのインスツルメントの効果的な使用方法についての解説を行いたいと思います。さらに,フラップ手術の応用として,昨今保険導入されたGTR法を行うためのポイントについても,お話しできればと思います。
石川明子・准教授 総合診療科1 T-57 スキルアップ! 失敗しないホワイトニングへの挑戦 歯を切削することなく色調を改善できるホワイトニングは、今や特別な治療ではなくエステティックな治療の一手段として日常臨床に取り入れられています。どのような変色歯が適応症なのか、はたして禁忌症というものはあるのか、オフィスホワイトニングとホームホワイトニングの選択基準は何か、各種市販されている薬剤の使い分けはどのようにしたら良いのかなど臨床を行うにおいて迷うことがあります。
患者さんの立場に立ち、患者さんからのニーズに対応できる最良のホワイトニングとは、安全で、不快事項の少ない、効果の高いホワイトニング方法だと考えています。
今迄ホワイトニングを行っていても治療効果のあがらない場合どのようにしたら良いのか、失敗しないホワイトニングにはどのような掟があるのかなど、スキルアップを目的とし、そのコツについて臨床例をあげながら解説します。
T-58 更なる美を求めて コンポジットレジンを使いこなそう! 審美的な歯冠修復において成形修復材コンポジットレジンは、毎日のように臨床に頻用されています。従来型のコンポジットレジンだけでなく、フロアブルコンポジットレジンが出現し、今ではこのフロアブルコンポジットレジンにも多種多様なものが市販され何をどのように使い分けていったら良いのか迷うことがあります。
フィラー含有量、粘性、流動性の異なるコンポジットレジンをその製品の特徴の沿ってうまく使いこなせるかが臨床における成功の鍵となっています。歯周病の固定に用いるもの、窩洞のベースとして用いるもの、隣接面や小さい窩洞に填入するものなどいろいろな使用方法があるコンポジットレジンの使い分けについて説明します。
また、2級コンポジットレジン修復において隔壁を用いた直接修復は、健全歯質の切削量をインレー修復に比べて最小限に抑えられる修復法でそのコツと研磨方法について解説します。
横澤 茂・准教授 総合診療科1 T-59 高度情報化社会と歯科医療マネージメント 「患者中心の医療」が社会に定着しましたが、大きな治療技術の進歩もさることながら、小さいながらもより身近な変化が感じられるのが医療者と患者、あるいは医療者間の人間関係です。ドクターを頂点としたピラミッド構造は過去のものとなり、患者と同じ平面上に多職種の医療者が在ることは、高度情報化とともにすっかり日本の社会に浸透して、かつて多かった「先生にお任せします」タイプの患者さんが徐々に減りつつあるようです。
 そうした社会の要求にあわせて、日本歯科大学を含む多くの医育機関では、従来なかった教育や運営の変化が起きています。私がこれまでに関わってきたコミュニケーション教育や医療情報の電子化などを中心に、歯科医療の「小さなこれから」についてお話しします。



大津光寛・准教授 総合診療科1 T-60 心の問題も考えてみよう −精神疾患と出会ったら− 情報が瞬時に飛び交い,プライバシーの範疇があいまいになり,常に時間に追われ,誰もがストレスを抱え,それに押し潰されないようになんとか生き抜いている現代社会において,うつ病等の精神疾患は以前のように特殊な,もしくは特別な人が罹る疾患ではなく,誰もがその可能性のある,ありふれたものになっています.
 先生方も必ずや,毎日やってきては曖昧な愁訴を繰り返してやまない患者さんや,受付で怒鳴り散らす患者さんなどで困惑なさった経験があると思います.もしかすると歯茎から針金が出てくる等という,にわかには信じ難い訴えを経験した先生もおられるかもしれません.このような患者さんには何が起きているのでしょうか?どう対応すれば良いのでしょうか?
 今回は不定愁訴や鬱病,奇妙な訴えをする体感異常などといった,歯科で見受けられる精神疾患とその具体的な対処法から,精神科紹介の仕方まで,臨床症例を交えてお話させて頂きます.



代田あづさ・講 師 総合診療科1 T-61 妊産婦と歯科治療~マイナス1歳からのオーラルケア~ 妊娠期は女性ホルモンバランスやつわりによる影響で唾液性状が粘性になり、う蝕や歯周炎が進行しやすくなります。とくに歯周炎が重症化すると早産や低体重児出産の原因となります。近年、早産や低体重児出産の原因は喫煙・飲酒よりも歯周炎による影響が大きいと考えられています。このことから歯科受診を勧める産科医も増えてきています。妊娠時の歯科治療は注意すべき点が何点かありますが、ほぼすべての歯科治療が可能です。
生まれたばかりの子供の口腔内には虫歯菌は存在しません。第一歩は、離乳食を与える大人から伝播していくのです。周囲の大人の口腔内環境を改善していくことで子供のむし歯予防の第一歩が始まると考えています。
妊娠期、特に女性は生まれてくる子供のあらゆる事に一番関心がある時期であると言えます。お母さん自身の口腔内環境を見直してもらう良い機会でもあり、子供のむし歯予防につなげていく良い機会でもあると考えます。



岡田智雄・教 授 総合診療科2 T-62 さあ、どうしよう? 対応に困る患者さんたち ―スタッフと共有する、振り回されないためのポイント― どの診療室にも「対応に困る患者さん」がいます。その患者さんは、どの医療者にとっても対応が難しい「Difficult patient(対応困難患者)」かもしれません。どのような医療者にも、強い陰性の感情、怒りや反発、不満や不愉快を引き起こす患者です。この中には、精神疾患などによる症状の場合があり、日常臨床で遭遇する頻度が高い、精神疾患の病態・対応法について、知っておくと対応し易くなります。また、コミュニケーションが取りにくい患者に対しては、「認知フレームへの対応」「感情への対応」「陰性感情への対応」等が効果的です。スタッフも含め診療室全体がこの内容を知っておくと、自然に解決に結びつくことがあります。講演ではこれらの、Difficult patientに対する対応法についてご紹介いたします。 T-63 心療歯科をご存知ですか? −心とお口の不思議な関係− 心身症の中で歯科医が診る心身症を歯科心身症あるいは口腔心身症と呼びます。顔・顎・口腔は、知覚神経に富み、感覚に関連した心身症が特徴です。@舌痛症:「一日中、舌の先がぴりぴりする」、A口臭症:「口臭が気になって人と話ができない」、B慢性疼痛:「歯の治療後、何ヶ月も痛みが続く」、C咬合違和感症候群:「噛み合わせが気になって何も手に付かない」、Dセネストパチー:「口の中に変なものが出てくる」、等様々な病態があります。
歯科心身症の診査・診断では、精神疾患との鑑別、心理面・社会面への配慮が重要となり、また治療法として、心理療法(サイコセラピー)と薬物療法が特徴といえます。これらの知識は、心身症では無いが、コミュニケーションの難しい患者のトラブル回避にも役立ちます。講演では、代表的な歯科心身症とともに、「何か変」な患者さんへの対応法をご紹介致します。
山瀬 勝・准教授 総合診療科2 T-64 メタルフリートリートメント2018〜知っておきたい知識と成功のポイント〜 優れた審美性を有し,金属アレルギーの問題からも解放されるメタルフリー修復は現代の歯科診療においてその存在価値が高まっています.さまざまな材料を用いることで,これまでメタルクラウンやメタルブリッジ,メタルセラミックスが担っていた修復治療を金属を使用せずに行うことが可能となりました.
2014年にCAD/CAM冠,2016年にファイバーポストが保険収載され,メタルフリー修復の流れは今後加速していくものと思われます.しかし治療を成功させるためには材料の特徴を把握し,表面処理や接着を含めた取り扱いを十分理解する必要があります.
講演ではセラミックスや高分子材料を含めたメタルフリー修復の種類と特徴,そしてその臨床応用について,最新の知識をエビデンスとともに解説します.
T-65 支台築造 Up To Date 支台築造は「人工材料によって欠損歯質を補い,支台歯形態を整える」ことであり,歯冠修復の予後を左右する重要な治療過程です.修復歯を長期的に機能させるためにも適切に支台築造を行うことは必須といえます.現在,私たち歯科医師は鋳造によるメタルコア,直接法によるレジンコア,既製ポストの併用などさまざま治療オプションを手にしています.しかし治療法の選択基準や実際の治療法についてはさまざまな考え方があり,明確な見解が得られていないことも事実です.使用する材料はファイバーがよいのかメタルがよいのか,築造方法は直接法か間接法かなど考慮すべき事項が数多く存在します.
講演では支台築造の基本と臨床術式について,エビデンスに基づいた最新の知見を解説します.
小川智久・准教授 総合診療科2 T-66 リグロスを用いた歯周組織再生療法  基礎知識と臨床応用でのコツ 平成28年12月に、歯周組織再生医薬品としてリグロスョが発売されました。従来の再生療法に用いられていた生物製剤ではなく、リグロスョは遺伝子組換えヒトbFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)製剤であり、発売前の臨床試験では有効な臨床結果が報告されています。特徴としては、血管新生促進作用が強く、未分化間葉系細胞が多分化能を有したままの状態で増殖していくため、再生医療の分野で注目されています。
 臨床応用するには2 3壁性の幅が狭く深い骨欠損が適応になります。半年間で数症例行いましたが、感覚としてはこれまでの再生療法に比べて治癒の速さなどが優れているように思われます。
 本講演ではリグロスョに関する基礎的な知識と、これまで行った臨床例について紹介するとともに、再生療法を行う際の切開や縫合などの基本的な手技に加え、リグロスを用いる際のちょっとしたコツについても解説します。



石田鉄光・准教授 総合診療科2 T-67 テレスコープシステムの基礎と臨床 1989年に厚生省の成人歯科保健対策検討会が中間報告で「8020運動」を提言してから15年が経過し,高齢者において現在歯数が増加している。しかし,平成11年の歯科疾患実態調査においては,80歳における1人平均現在歯数は8.21本,80歳で自分の歯を20本以上有する者の割合は15.25%と推定される。このことから,まだまだインプラントや局部床義歯により補綴を行なわなければならない状況である。
 日本の保険制度の中では半年毎に義歯の再製作が可能であるが,機能的,審美的に満足のいく補綴物を製作することは不可能にちかい。
 そこで,生理的な口腔諸機能を十分に発揮し,より審美的であり,衛生的配慮を取り入れ,長期間の使用に耐えられるような方法を応用し,患者さんのニーズに応えなければならない。いろいろな方法がある局部床義歯の維持装置の中でもテレスコープシステムは,義歯の維持,支持,把持といった機能を単純な構造で実現することができ,着脱等の扱いが簡単であるため,特に高齢者に対して応用するには最適であると考える。
 テレスコープシステムというとコーヌスクローネが全盛であり,コーヌスクローネ イコール テレスコープシステムのようになっているが,実際には他の方法も存在する。そこで,今回はテレスコープシステムの基礎について解説を行なうとともに,実際の臨床例を通して製作方法等についても解説する予定でいる。



原 節宏・准教授 総合診療科2 T-68 顎関節症のとらえ方・接し方  顎関節症の基本概念・診査・診断・治療に関しては、1990年代後半から大きく様代わりをし、世界的に再検討されるようになりました。これまで原因とされていた顎関節円板の偏位、周囲組織の炎症などの構造的損傷モデルが主体でなく、筋膜痛(Myofascial pain)を主体とした生物医学的因子、疼痛時に無意識にとってしまう行動や不適切な思い込みなどの心理・行動学的因子、家族関係・労働環境などの社会・経済的因子が絡み合って発症する生物心理社会的疼痛症候群モデルであるという見解に大きく変化し、治療法は患者さんにとって、安全で非浸襲的であることが最優先されるようになりました。日本においても日本顎関節学会監修の「診断と治療のガイドライン」を見直す必要が生じ、再検討が始まっています。
 講演では、当診療センターで行っている各種療法と指導について触れながら、顎関節症のとらえ方・接し方について供覧します。



鈴木麻美・准教授 総合診療科2 T-69 妊娠中の歯科治療を安全に行うために 日本歯科大学附属病院マタニティ歯科外来に来院する妊娠中の患者さんの状況から、どのような治療が必要とされているかについての報告を行います。また、う蝕や歯周病が妊婦さんや赤ちゃんへ悪影響を及ぼすものであることを再確認します。
さらに、いかに安全に妊娠中の歯科治療を行うかについて、マタニティ歯科外来での取り組みと治療を行う際の注意点、産婦人科との医療連携について解説を行います。
かかりつけ歯科医院の重要な役割として、妊娠前に患者さんへの口腔内への関心を高めてもらう必要性、生まれてくる赤ちゃんの一生につながる口腔内の健康について再確認を行っていきます。
T-70 歯周病と全身疾患との関連について −オミックス情報からのメカニズムの解明と歯周病治療の重要性− 近年、歯周病と糖尿病、心疾患、早産・低体重児出産などの全身疾患との関連が注目されてきています。生命現象を網羅的・包括的に解析・解明しようというオミックス研究の情報から、歯周病とそれらの疾患との関連性とメカニズムについて、バイオインフォマティクス(生命情報科学)の手法を用いた研究結果から、エビデンスに基づいた解説を行います。
さらに、健康に生活していくために、歯周病の本当の恐ろしさ、歯周病治療の重要性について、再確認を行っていきます。
小林隆太郎・教 授 口腔外科 T-71 口腔がんを見落とさない  色と形からみる口腔粘膜病変 口腔粘膜に発生する病変に「気づき見落とさないこと」は、歯・歯周組織を管理するのと同様に重要なことです。
現在、日本では年間約7,000人以上が口腔がんに罹患しているといわれています。年々増加し今後もその傾向がみられるようです。口腔がん検診も地域的、組織的に展開されていく方向ではありますが、私たちが、日常の臨床の場で、まずは「見落とさないこと」、「発見すること」、「相談に対応出来ること」がとても大切だと考えます。
口腔がんを知ることは、まず口腔粘膜病変を知ることから始まります。まず目に飛び込んでくるのは「色」そして「形」という情報です。講演では「白」「赤」「黒」「黄」「紫」という色を基本に、多くの症例について先生方と確認していき、日常臨床に直ぐに役立つ内容にしたいと考えています。



足立雅利・准教授 口腔外科 T-72 歯科診療室での投薬 ー抗菌薬、鎮痛薬を使いこなすー 抗菌薬や鎮痛薬は一般歯科診療室では日常的に処方されていると思います。ですが先生その薬、飲んだ後どこにいって、どうやって効くのかご存じですか?鎮痛薬はロキソニンョがあれば十分?最近(細菌?)ペニシリンが効かない?抗菌薬で下痢が止まらない?
本講演を機会に、薬の世界にもう一歩足を踏み入れてみませんか?
T-73 EBM思考でとらえる口腔粘膜疾患 「口腔粘膜疾患って良くわからない。だけど、白板症は学生の時に前癌病変だって習ったから、いまでも注意しています。」こういった声を良く耳にします。たしかに口腔白板症は今でも前癌病変として考えられ、そのように教育されています。しかし白く見えるのはみな白板症?どれくらい癌化するの?そもそも白板症の治療って?よくよく考えてみると、いろいろな疑問がわいてきますね。
本講演では口腔白板症治療を題材に、ワークショップのエッセンスも取り入れ、EBMの思考改訂を体験していただきたいと思います。
荘司洋文・准教授 口腔外科 T-74 顎変形症の診断と治療 顎変形症とは、先天的または後天的な要因で上下顎を中心とした骨格性の形態・位置異常からくる機能障害と審美障害を併せ持つ疾患です。発症する部位によって上顎前突症、下顎前突症、開咬症、上下顎非対称、下顎非対称、下顎後退症などと分類されます。実際の臨床においては、それぞれの症例に適応した診断の許、各障害の改善を目的に口腔外科治療・歯科矯正治療・補綴治療など広範囲にわたる連携した診療体系により円滑に行うことが重要となります。そのため当院では顎変形症に対し、口腔外科医、矯正歯科医、歯科麻酔医、医師、歯科衛生などが参加する集学的診療体制のもと診断・治療にあったっています。具体的には顎変形症患者に関係する各科、各部門が参加する合同カンファレンスを行い、治療方針を検討・決定しています。また、顎変形症に対する診断は、頭部エックス線規格写真や歯列模型に加え、適時、3次元CTを用いて立体的に解析し治療の参考にしています。手術の際は、原則歯科矯正医の立ち合いで、顎位、咬合位を決定しています。手術時の骨片固定は主としてチタンミニプレートを用いていますが、症例に応じて吸収性プレートも使用しています。当院での治療の概略は顎矯正手術と術前・術後の歯科矯正治療を含む総括的なもので、基本的な診療内容は、歯科矯正治療(術前・術後)と顎矯正手術(10日前後の入院の上、全身麻酔)で、治療期間は通常、2〜3年以上要します。
T-75 口腔がんの診断と治療 口腔がんは、全身に発生するがんの2〜3パーセントと云われ、年々増加傾向にあると考えられています。口腔がんにおいても早期発見、早期治療が重要であることは言うまでもなく、当院では口腔白板症などの前癌病変に対しても、積極的に細胞診、組織診を行い、がんの早期診断に努めています。また、口腔がんに対する画像診断はCT、MRI、PET検査および超音波検査により詳細に検索を行っており、結果は当院専任の読影医や技師により速やかに担当医に知らされ、診療方針が決められています。口腔がんの治療には手術、放射線治療および化学療法(抗がん剤治療)があります。当院では早期のがんに対しては外科的切除を第一とし、また、進行癌に対しても微小血管吻合を用いた遊離組織移植による即時口腔再建手術や化学療法や提携施設と連携のもと放射線療法を併用し治療を行っています。
外科治療後は、たとえ再建手術を施行しても口腔や顎、顔面に少なからず機能障害を伴います。当院は口腔リハビリテーション部門をを有しており、これを中心に手術が終った患者さんには、口腔衛生状態、咀嚼、嚥下のリハビリテーションや栄養管理について、医師、歯科医師、歯科衛生士、栄養士、言語聴覚士などの多職種が介入し、早期の社会復帰を目指しています。
吉田和正・講 師 口腔外科 T-76 有病者に対する歯科小外科手術前の対応 日本において超高齢化社会になるにつれて、有病者の割合が急速に増加している。
 内科的疾患では、心疾患、冠動脈疾患、脳血管疾患、糖尿病患者などの代謝系疾患や、骨粗鬆症患者や乳癌、膀胱がん骨転移のBP製剤服用または注射投与患者、精神科的疾患では、うつ病や統合失調症などの患者も問題になる。
 上記の疾患での、経口抗凝固薬、抗血栓薬、抗血小板薬、降圧薬、糖尿病薬、抗アレルギー薬、骨粗鬆症薬等が日常的に処方され、服用され続けている。また、精神疾患患者は、増加の一途を辿っており日常診療で遭遇することも珍しくない。内科的疾患の患者ばかりでなく、精神疾患患者の薬剤も、常に改良され、また、新規薬剤が採用されている。
 今回は、一般的な内科的問題ばかりでなく、精神疾患患者の病態とその投薬内容、口腔外科小手術に対しての注意点なども焦点にし、述べていきたい。
T-77 歯科小外科手術の臨床のコツ 口腔外科領域の手術部位は、視野が非常に狭く、血管や神経が豊富な手術野であり、それ故、出血、知覚異常、術後感染など偶発症へのリスクとも関係が深いことから、適切で繊細な技術と器具の種類の把握と適切な器具・器材の使用方法を学ぶべきである。
 埋伏抜歯では、口腔外科の基本術式が入っていると考える。まずは、確実な局所麻酔の奏功、きれいなメスによる切開、骨膜起子による剥離、ラウンドバーによる骨削除、ゼックリアバーによる歯牙分割、へーベルによる歯の脱臼、鉗子による歯の抜去、縫合糸、縫合針による縫合、ガーゼ等による圧迫止血まで一通りの診療の流れについて説明したい。
演者は、今回前半では、はじめに抜歯などの硬組織小手術について講演を行い、後半では軟組織小手術については、インプラント手術の上顎臼歯部で必要になることもあるサイナスリフトの上顎洞開洞、粘膜挙上についても簡単に講演したいと考えている。
小森 成・教 授 矯正歯科 T-78 新材料を応用した予知性の高い限局矯正治療 限局矯正治療は日常臨床での適応が多く、その治療効果による患者さんの利益は極めて高い。欠損部分をインプラントではなく自分の歯で咬合回復できるという点においても患者さんの満足につながる。限局矯正治療の基本は、移動する歯以外の咬合を確実に維持することである。従来の矯正装置ではこの基本を達成することが難しく、歯を移動したが咬合が変化したり、限局矯正治療を断念するという事例が少なくない。なお、KommonBaseレジンは既成ブラケットをカスタム化する材料で、ブラケット接着時の位置精度や適合性の向上、さらに接着強さの向上に寄与することを目的に開発された。このKommonBaseレジンを応用して簡単に固定源を確保して、目的とする歯のみの限局矯正が可能になった。その結果、複雑なメカニクスを工夫することなく限局矯正治療を行なうことができる。今回は限局矯正治療の基本概念をふまえた上で、KommonBaseレジンを応用した予知性の高い限局矯正治療を紹介する。
T-79 埋伏歯への対応 成長発育期、成人を問わず、埋伏歯の存在は頭を悩ます。埋伏歯が隣接歯に影響を及ぼさずに、摘出するだけで問題が解決することは稀で、隣接歯の歯根吸収や歯数異常に伴う咬合異常や審美障害を示すことが多い。しかも、経過観察することが状況を困難にすることもあり、埋伏歯の対応には包括的歯科治療としてのビジョンが求められる。さらに、埋伏歯の挙動は予測困難で、矯正的に牽引する際にも歯根の骨性癒着により治療が効果を奏さないこともある。そこで、検査・分析・診断の過程と治療選択肢の提示方法、ならびに患者さんへの適切な情報提供が大切で、これがリスクマネージメントにつながる。講演では矯正治療を併用した包括的歯科治療の診断方法を紹介し、様々な症例を参考にしながら部分矯正を含む矯正治療のメカニクスの組み立て方を供覧する。さらに、埋伏歯を開窓した後に矯正的に牽引する際の手技上のポイントや材料選択の基準についても言及する。
後藤尚昭・准教授 矯正歯科 T-80 外科的矯正の適応と臨床 近年の外科的矯正治療の進歩や矯正治療の保険導入により、本学の顎変形症センターでは年間約130名の治療を行っている、そこで外科的矯正の適応患者の鑑別および治療例について供覧する。


小林さくら子・准教授 矯正歯科 T-81 フッ素徐放性材料の矯正治療への応用 矯正臨床では,ブラケット接着時の酸処理によりエナメル質表層が脱灰されることや,固定式装置周辺が不潔域になりやすいことから,う蝕に罹患する危険性を無視することはできない.また,患者の母親から「矯正をするとムシ歯になるのではないか?」というような質問を投げかけられることも少なくはない.近年,う蝕予防の概念が普及するにつれ,我々も再認識し正しく対応していく必要がでてきた.そのためには,PMTCはもとよりフッ素徐放性材料を応用し歯質を保護することで口腔環境を整え,矯正治療に対する評価を高めることが肝要となる.本講演では,矯正治療で用いられているフッ素徐放性材料を紹介し,今後の可能性について考察していく.



宇塚 聡・准教授 矯正歯科 T-82 睡眠時無呼吸症候群患者への歯科治療について 近年、山陽新幹線の脱線事故などにより閉塞型睡眠時無呼吸症候群(OSAS)が注目されるようになりました。この疾病は、入眠により気道が閉鎖して低呼吸や呼吸停止を引き起こします。そして、睡眠不足によるストレスホルモンや免疫因子増大による耐糖能低下や動脈硬化、高血圧などを誘引し生活習慣病を発症させます。治療法としては一般的にnasal Continuous Positive Airway Pressure(nCPAP)が適用されますが、補助的装具として口腔内装置(OA)が汎用されます。このOAは下顎を前方へ誘導することから、上気道を物理的に拡大することにより気道の気流抵抗を減少させることを目的として適用されます。ナイトガードと類似した材料から構成されており、比較的容易に製作することができますが、医師からの紹介が必要であることや調整方法などについて幾つかのポイントがあります。そこで、本研修ではOSASの病態、検査、医科との連携、治療方法などについて実際の診療請求とともにご説明したいと思います。
T-83 混合歯列期に必要な矯正歯科治療とは 乳歯から混合歯列期における矯正治療いわゆる早期治療では、将来、永久歯の抜歯や外科的矯正治療への移行を減少させることが可能であるといわれています。さらに、学校歯科検診において不正咬合の項目が存在することからも、この時期に歯列や咬合の異常を主訴として歯科医院を受診する患児は少なくありません。さらに、子供の口腔衛生状態に関心が高い保護者にとってはう蝕に加えて不正咬合に対する不安も大きく、地域医療を実践する歯科医院への期待は計り知れません。しかし、どのように診断し、どのような目的でどこまで治療を実施するのか、あるいはいつ矯正歯科専門医を紹介するかについては施設ごとに差異があるようです。そこで、今回は本院矯正歯科における早期治療の考え方や実際の治療内容を供覧する中で一般歯科の日常臨床にどのように矯正治療を取り入れてゆくかなど、明日からの診療に活かせるように理論と実践を踏まえてご説明したいと思います。
安藤文人・准教授 矯正歯科 T-84 医療安全 歯科診療における誤飲・誤嚥 先生方はインレーやクラウン等を患者さんに飲ませてしまった場合,どのようになさっているでしょうか。『何かあったら連絡してください』と説明して,その後問題が生じないことがほとんどでしょう。実は,日本における不慮の死亡事故件数1位は窒息で,窒息の原因1位は誤飲・誤嚥,その中で歯科関連が2番目に多いという事実があります。誤飲・誤嚥は歯科領域では歯科治療中に発生することがほとんどです。すなわち医原病の様相を呈しています。それゆえ適切な予防策により防ぐことが可能で,逆に適切な対応を怠ると訴訟に発展する可能性があります。歯科での公表されている事例から,異物が自然排出して数万円,内視鏡による取り出しで数十万円,外科的摘出で数百万円の賠償金が必要とも報告されています。
 講演では,誤飲・誤嚥事例の概要と転帰等についてお話させていただきたいと考えております。



宮下 渉・講 師 矯正歯科 T-85 顔面の正常形態・審美性・魅力度について 口腔外科、補綴、ならびに矯正をはじめとした歯科治療により、患者の顔貌は口元を中心に変化する。また、顔貌の改善を主訴として歯科へ来院する患者もいる。したがって、顔貌の形態変化をともなう治療前後の顔貌評価は重要となるが、臨床の場において顔貌評価は主観的になされることが多い。しかし、術者の主観的評価と患者自身の評価が一致するとは限らず、客観性を有した定量的な評価を行うことが望ましいと考える。
 特に近年は、患者の要望が整容的な分野に及ぶことも多くみられるため、歯科の範囲にとどまらず幅広い情報を持ち合わせる必要がある。
 以上を踏まえて、古来より試みられてきた顔面審美の基準の確立や顔面の評価・計測方法に加えて、最近の人類学、心理学、および解剖学の報告も交えて、顔面形態の正常形態(normality)、審美性(esthetics)、ならびに魅力度(attractiveness)に関して講演する。



内川喜盛・教 授 小児歯科 T-86 子どもの口の診かた,考え方 少子化,齲蝕発症率の低下と小児患者が減少している昨今,小児歯科学の存在価値は減少? 数的に考えるとその通りかもしれません。しかし,出生率が減少した分,親の子供への関心はより高くなり,齲蝕予防はもちろん,歯並び,機能などの将来への影響を心配し,診査を希望して来院する割合が高くなり,より高度な知識を必要とされてきています。
小児は成長,発達途中にあり,大人の縮小版ではありません。口腔諸器官の機能の発達,顎顔面の成長は,胎児期から成人に至るまで,それぞれの時期に特徴をもって行われています。したがって,小児期のわずかな異常や障害が将来に大きな不正に移行することがあります。よって定期的な,将来を予想した診査は重要であり,また,指導は機能の発達に適した時期に行うことがより効果的であり,必要となります。
そこで今回,小児期の各時期のチェックポイントとその評価法,また予防と処置法についてお話したいと思います。
T-87 カリオロジー最前線 最新の齲蝕発症の過程やカリエスリスク評価に関したエビデンスは,従来の窩洞形成を中心とした齲蝕処置を変換させるのには十分であり,齲蝕治療の目標を大きく変えつつあります。
齲蝕は感染症であり,その原因菌であるミュータンスレンサ球菌の感染による齲蝕原性バイオフィルムの形成から始まります。成熟したバイオフィルムは炭水化物によりpHの低下を生じ,歯の脱灰を起こします。また,唾液の緩衝能によるpHの上昇は再石灰化を歯の表面で生じます。カリオロジーはこの脱灰と再石灰化のバランスをコントロールする学問であり,これにかかわる因子を理解することが重要となります。
今回,ミュータンスレンサ球菌の感染とその病原性,唾液の作用,フッ素の作用とフッ化物の応用について日常臨床に有効な最新知識をまとめ,報告したいと思います。
白瀬敏臣・准教授 小児歯科 T-88 小児の外傷歯にどう対応するべきか? 近年、学校歯科健診ではう蝕の減少と軽症化が進む中、前歯部の破折や変色、舌側部充填をよく目にします。子供達は身体的成長が著しい反面、運動機能や反射神経が低下からか、歯を受傷することが多いようです。歯の外傷は小児期に多発するにもかかわらず、現状の歯科健診では見落としがちな項目の一つではないでしょうか。
 子供達の口の中では、発育する顎骨の中で歯はダイナミックに形成・吸収・萌出し、乳歯列から永久歯列へと推移していきます。その中で小児期の歯の外傷は、永久歯列を形成する上で多大な影響を及ぼします。受傷歯の予後は、受傷時に行う処置や対応により大きく左右されるのです。
 今回は「小児の歯の外傷」について、「実際にどう対応すればいいのか?」という疑問に対し、臨床例と基礎的データーを踏まえてわかりやすく解説します。
T-89 口腔機能の発達と歯科的支援 近年、小児の口腔は二極化していると言われています。う蝕のない小児が大多数を占める中、一部の小児では低年齢からう蝕の重症化がみられます。重症化する原因として、食生活の乱れや不十分な口腔清掃、スポーツ飲料など過剰摂取などが挙げられます。これ以外にも「咀嚼や嚥下が上手にできない」小児の口腔機能の発達や口腔習癖も、う蝕の重症化に関連しているようです。特に障害のある小児では、口腔機能の発達の遅れから口腔清掃を嫌がり、う蝕だけでなく歯列不正を誘発し、その結果「うまく食べられない、飲み込めない」悪循環となります。
本講演ではヒトの口腔機能の発達を通して、う蝕を予防し健全な永久歯列へ導くために必要と思われる歯科的支援法について解説します。
楊 秀慶・講 師 小児歯科 T-90 的確な歯の外傷への対応 歯の外傷は初期の対応に予後が大きく影響を受けることが示唆されていますが、これまで施した処置が正しかったと確信できますか?
本邦では卒前の外傷に関する実習は皆無である事に加え、臨床実習でも均等に体験する事は困難であるため対応に苦慮されてきたのではないでしょうか。一般的に歯の外傷は小児期に起こることが多く、咬合・審美性・顎顔面の成長発育に大きく影響するために長期の予後観察が必要とされます。近年は保護者の歯科治療全般に対する知識が向上していますので、保護者の納得できる治療方針で的確に対応できれば、信頼関係が深まり、仮に予後不良となっても継続して一般的歯科治療や矯正治療に来院する傾向があります。
今回は、患者さんとの信頼関係を構築するために、種々の歯の外傷に関する効果的な対応法について臨床例を提示し、歯の外傷用模型を用いて的確な整復法、簡便な固定法を体験していただきます。
T-91 障害児の嚥下機能障害と歯科治療 近年の障害児(者)に対する歯科治療の質に対する欲求は確実に高まってきています。現状の高次医療機関集約型の障害者歯科治療は限界に達しており、今後は地域の歯科医療機関との医療連携を密に行うことで、一人の患者さんに対して、歯科治療における役割分担をすることが必要になると考えています。一方、通常下での障害児に対する歯科治療においては、必要な処置の選別と、不慮の事故の予防を最優先に、的確に可能な限り短時間で行うことが重要ですが、そのために、様々な障害についての基礎知識、また種々の障害における歯科的対応法を学ぶことが不可欠となります。
本講演では、障害児の摂食嚥下機能障害と歯科治療の関連についても交えながら、脳性麻痺、てんかん、自閉症、ダウン症、知的能力障害のある患者の、地域の歯科医療機関での対応に必要な知識とポイントを、臨床例の動画を使って解説したいと思います。
梅津糸由子・講 師 小児歯科 T-92 乳幼児期のう蝕予防のポイント 乳幼児のう蝕は、お子さんの生活環境が大きく左右します。
医療面接にて保護者からのお話に耳を傾け、上手に伺う事から始まります。
歯が生え始める時期より歯齢に合わせた保護者への対応およびう蝕予防のポイントに絞りご説明いたします。また患者教育、患者説明にチェアーサイドで実施できるいくつかのう蝕活動試験も紹介いたします。
T-93 障害児への歯科的対応 発達障害時は歯科適応がその特性からしばしば歯科的対応に苦慮する場面に遭遇する
 そこで今回は医療面接時に聴取するポイント、保護者への対応、患児への対応を具体的に説明する。
山崎てるみ・講 師 小児歯科 T-94 フッ化物による齲蝕予防の最先端を取り入れる! 今や好みに応じて何でも作れるカスタマイズ時代。そこで、私からアイデアがあります。患児一人ひとりに合わせたフッ化物(F)製剤メニューを考案、カスタマイズ方法を保護者の方にご提案するというのはいかがですか。先生方にとっても、新鮮で挑戦し甲斐があることは間違いないでしょう。
現在、ホームユースF配合歯磨剤市場シェアは約90%です。そこで必要なのは一歩進んだFの説明です。剤形はペースト、ジェル、スプレーまたはフォーム状など様々で、F濃度も薬事法で定められた上限1500ppmで様々な濃度の製剤があります。その効果や作用の違いをスマートに説明出来たら、より手応えを感じるでしょう。そこで、近年のF製剤応用についてホームケアとプロフェッショナルケア両面から、新しい考え方や応用方法などを理解しやすくお話します。先生方自身の深い理解が、患児や保護者の方々の安心と信頼につながるようにお手伝いさせていただきます。
T-95 伝わると嬉しい・理解できると楽しい 「何度言ったらわかるの?」「どうして言うことを聞いてくれないんだろう。」
 障がいを持つ患者さんたちへの対応には悩みます。そこで、その方法を振り返ってみましょう。「言葉」だけでコミュニケーションをとろうとしていませんか。世の中には多様な補助代替コミュニケーション(ACC)方法があります。アイテムを取り入れるのは難しいかも知れません。けれども、実は私たちの体そのものがアイテムの塊です。手の動き、声のトーン、表情もACCのひとつでしょう。
 歯科受診は、障がいを持つ患者さんたちにとって、心地良いことではないかも知れません。しかし、視点を変えて歯科受診が楽しくなる環境作りにチャレンジしてみませんか。患者さんのコミュニケーション意欲を引き出すことでお互い歩み寄ることができ、安心・安全な歯科診療につながります。今回は、歯科診療場面で簡単に取り入れられるACCをサインランゲージを中心にご紹介いたします。
村松健司・講 師 小児歯科 T-96 外傷歯に対する簡便かつ適切な固定方法 外傷歯の治療方法に関してはガイドライン等に示されているが、実際の臨床においては、低年齢児での外傷も多く、受傷直後で不安を隠せない患児の対応や口腔内の唾液や出血で適切な治療が困難な場合も少なくない。特に脱臼を起こし、動揺を認める歯の固定は困難で、対応次第では歯の動揺が治まらず、予後不良を招き患児の不利益につながる。そこで外傷歯の受傷様式による対応方法を含め、動揺歯に対して簡便かつ適切な固定法を行うにはどうするべきかを臨床症例と図解でわかりやすく説明する。



中村仁也・准教授 歯科麻酔・全身管理科 T-97 歯科診療室における全身的偶発症への対応 歯科治療中に起こる偶発症、神経性ショック、過換気症候群、エピネフリン過敏症、局所麻酔薬中毒、そして既存の基礎疾患の増悪として高血圧症、虚血性心疾患、脳血管障害、アレルギー(アナフィラキシーショック)、糖尿病、喘息およびてんかんの緊急時の対応について救急薬品の使用法および予防法についてについて解説します。

※各地区で配布された救急薬品をお伝えください。判りやすい救急処置と薬剤使用マニュアルを製作いたします。
T-98 ハイリスク患者の対応と注意点について −より安全な診療のために− 今まで診療してきた患者さんが、「最近高血圧で薬を飲むようになった。」とか、「血液をさらさらにする薬を飲むようになった。」さらに、突然心筋梗塞で入院したとか、かかりつけ歯科医として経験したことがあると思います。今後このようなケースが増えると思います。そしてこのような患者さんを自医院で継続的にみていくことが非常に重要だと考えています。
最初に、有病者は必ず薬を内服しています。この内服薬についての併用注意、相互作用について、特に1/8万エピネフリン添加リドカインとの併用禁忌について確認することの重要性について述べます。次に神経性ショック、過換気症候群、添加される血管収縮薬による反応そしてアナフラキシーショックの成因、予防法、対処法について述べます。次に高血圧症、虚血性心疾患、心臓疾患、脳血管障害、気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患、糖尿病、腎疾患、そして甲状腺疾患の歯科治療時の注意点について述べます。特に高血圧症患者及び狭心症患者の対応について実際の臨床時のビデオクリップを使用し紹介します。さらに抗血栓療法を受けている患者さんの対応についても述べます。
菊谷 武・教 授 口腔リハビリテーション科 T-99 オーラルフレイル、その概念と対応方法 −患者の口腔機能低下をどう支えるのか?− ある調査よると、約7割の高齢者が75歳を境に徐々に自立度を低下させ、10年ほどかけてほぼ全ての介助が必要となることが示されている。まさにフレイルという状態から要介護状態に至る課程を示していると言える。ここでみられる自立度の低下の原因となる身体機能の低下や認知機能の低下は、口腔機能の低下の原因にも結果にもなりうる。この課程の中でも特に比較的早期にみられる口腔機能の低下は、より重症な摂食機能障害に対して回復可能な余地を大いに残す領域と考えられ、地域歯科診療所に通院期間中に起こる変化であるとも言える。よって、歯科診療所において早期からのそして合理的な介入が求められる。本講演では、「歯科診療室からオーラルフレイルを考える」と題し歯科診療室での診断、対応法について述べる。


田村文誉・教 授 口腔リハビリテーション科 T-100 小児の在宅訪問歯科診療 超高齢社会となり、歯科訪問診療が数多く行われるようになりました。しかし、平成23年度の患者調査によると、ある調査日に訪問歯科診療を受けた在宅患者16,500人のうち0〜14歳の小児は0人という実態にあります。小児患者に対する訪問歯科診療は全く行われていないと言っても過言ではありませんが、その一方、在宅療養中の重症心身障害児は口腔疾患があっても受診できない場合が多く、小児の訪問歯科診療のニーズは想像以上に多いと考えらます。そこで、在宅療養中の重症心身障害児の口腔と摂食嚥下機能を支援することを目的に、地域歯科医師(開業医)と地域の基幹病院の連携システムを構築することが重要となります。患家から近隣にある歯科医院が口腔管理のゲートキーパーとなり、後方支援病院と連携していくシステムが必要と考えらえます。本講演では、地域ぐるみで子どもの口を守り、その子どもの将来的な健康に繋げていけるような連携の取り組みについて、実際の事例を含めてお話ししたいと思います。


児玉実穂・講 師 口腔リハビリテーション科 T-101 妊娠期の口腔環境の変化と歯科治療 妊娠をすると胎児が順調に発育するように女性ホルモンが増加して、女性の体に変化がみられるようになる。女性ホルモンの増加は口腔内にも同様に影響を及ぼし、妊娠関連歯肉炎などを引き起こす。また、つわりの影響で口腔清掃が不良になったり、後期には増大した子宮に胃が圧迫されて少量頻回の食事を摂るようになり、口腔環境は悪化する。妊娠してからでも母親の口腔環境を整えることで、生まれてくる赤ちゃんへのミュータンス菌の母子伝播を遅らせることができる。しかし、妊娠自体は疾患ではないが、胎児時への影響を考え、妊婦の歯科治療を踏みとどまる傾向がある。以上より、本講演では安心して妊婦の歯科治療を行えるように、妊婦の体・口腔環境の変化や歯科治療時の注意事項について述べる。 T-102 摂食嚥下機能の獲得と食支援 口から食べるためには、歯が萌出して口腔環境が整うだけではなく、舌など口腔機能の発達や、手と口の協調運動などの発達が必要となる。また、成長発育は個人差が大きく、教科書通りの暦年齢に合っているわけではない。障害が伴えば更に差が大きくなる。口腔機能に合った食形態が提供されないと、間違った摂食嚥下機能を獲得する可能性が出てくる。以上より、本講演では摂食嚥下機能の獲得順序と見極め方、機能に合った食形態について述べる。
町田麗子・講 師 口腔リハビリテーション科 T-103 摂食嚥下機能の発達と障害 近年、食べる機能の困難さや障害に対する指導を早期から行うことのできる地域歯科診療所が求められている。食べる機能は哺乳から離乳食を通じて獲得されていくため、その困難さは出生直後から出現する。発達期の摂食嚥下障害への対応は、食べる機能に合わせて食形態をすすめ、機能獲得を目的とした訓練を行っていく。毎日くりかえされる哺乳や離乳食の困難さから、食べる機能が誤った動きとして定着することを予防するためには、まさに哺乳や離乳を行っている早期への関わりが重要となる。
本講演では、出生直後に哺乳を開始し、離乳食を食べ始め、成人と同じような食べる機能を獲得していく発達過程について、また機能獲得が障害された際の対応について述べる。



戸原 雄・講 師 口腔リハビリテーション科 T-104 食べるを支えるということ 平成28年人口動態統計よれば日本人の死因の第三位は肺炎で年間に死亡者は年間に約12万人と推計されている。特に80歳以上の老人における肺炎は死因の多くを占め、老人の肺炎の多くは誤嚥性肺炎と考えられている。また同調査では窒息による死者は年間に約9000人と推計されている。肺炎や窒息の原因の多くは食べ物などの誤嚥と言われており、摂食嚥下障害患者に対する対応は喫緊の課題である。
摂食嚥下障害は、適切な対応によって改善されることが期待されるが、嚥下障害が重症化し、全身の機能が低下した状態からの回復は困難である。そのため嚥下障害が顕在化する前の段階での介入が重要とされている。このことから、通院中に口腔機能の低下を来した患者、今後機能の低下が疑われる患者を早期に発見し、適切な対応を取ることが極めて重要な意味を持つ。本講演は、歯科外来における口腔機能の評価方法、対応法について述べる。



柳井智恵・教 授 インプラント診療科 T-105 内科疾患患者のインプラント治療をより安全に進めるためには 超高齢社会を迎え、高齢者にインプラントを埋入する機会が増えています。インプラント治療をより安全に進めるには、患者の全身疾患を十分に理解することが重要と考えます。演者はインプラント治療やその関連手術を行うにあたって特に注意を要する内科疾患について解説いたします。 T-106 知っておきたいインプラント治療のための骨造成法 ー外科手術の基本手技から臨床応用までー 近年、インプラント治療は予期性の高い治療法として、歯の欠損症例のみならず、外傷や腫瘍などによる顎骨欠損症例までも幅広く応用されています。
実際、日常臨床においてインプラント治療を行うにあたり、しばしば骨造成を要するケースに遭遇することがあります。今回、演者は口腔外科の立場から、骨造成をより安心・安全に行うために、知っていただきたい様々な骨造成法の基本知識や外科の基本手術手技、そして注意すべき局所解剖や偶発症などについて解説するとともに、臨床症例をも供覧いたします。
小倉 晋・准教授 インプラント診療科 T-107 インプラント治療のトラブルシューティング インプラント治療は欠損補綴の第1の選択肢であるといっても過言ではない.しかし,他の歯科分野と比べてまだまだ歴史が浅いにも関わらず,トラブルに至っている症例・事例が散見される.現在,我が国で使用できるインプラントは約30システムであり当院にも様々なシステムのインプラント治療後の問題を主訴に来院する患者も少なくない.
 本講演では,大学病院での問題時の対応方法の概要を例に挙げ,再度,安心・安全なインプラント治療を行う際の診査診断,治療計画の重要性を確認したい.



大島克郎・教 授 東京短大・歯科技工学科 T-108 地域における歯科保健医療政策への関わり方 現在、わが国の歯科保健医療政策は、大きな転換期を迎えている。平成23年に歯科口腔保健の推進に関する法律が制定され、併せて、全国レベルにおいても、歯科口腔保健に関する条例が相次いで制定されている。これに伴い、歯科保健医療サービスの重要性が多くの関係者に認識されるようになり、各都道府県や市町村では様々な取組が進められている。
また、平成26年には、医療・介護サービスの提供体制改革を推進するため、地域医療介護総合確保基金が創設され、各都道府県では歯科も含め様々な事業計画が設定されたところである。
しかし、行政におけるこれらの取組を進める上で、歯科専門職としてどのように関わっていくべきか苦慮することは少なくないと考えられる。
本講演では、演者の厚生労働省や県庁の勤務経験を踏まえ、歯科保健医療政策決定のプロセスや関わり方等について解説を試みたい。



北原和樹・講 師 歯学教育支援センター T-109 耐性菌を作らない!! 〜診療室における抗菌薬(化学)療法〜 抗菌薬療法は何らかの理由で生体内に細菌が増殖したものに対し、抗菌薬の投与により殺菌あるいは病原性を低下させていく治療法です。しかし、抗菌薬に対して抵抗力を持つ細菌も出現してきました。いわゆる耐性菌です。この耐性菌は徐々にですが、確実に増加しています。その結果、今臨床で効果のある抗菌薬が今後も感染症治療薬として有効であるという保証はなく、抗菌薬が効かない時代が来る可能性があります。それは我々臨床医の脅威となります。
 現在の抗菌薬療法の基本的な考え方は、体内動態(Phamacokinetics;以下PK)と時間依存性殺菌作用・濃度依存性殺菌作用(Phamacodynamics;以下PD)を考慮します(PK-PD理論)。この理論によりそれぞれの抗菌薬に特性が出てきますが、これを考慮しないでただ漫然と抗菌薬の使用を続けていきますと、耐性菌の産生にもつながります。従いまして、感染症治療を継続させていくためにも、改めて抗菌薬療法についてお話ししていきたいと思います。
T-110 高齢者歯科臨床の留意点 −高齢者の心身の特性を踏まえて− 我が国の人口は2010年で1億2,806万人になりました。その内訳は年少人口(15歳未満)が1,680万人(全人口の13.1%)、生産年齢人口(15〜64歳)は8,103万人(63.3%)、老年人口(65歳以上)は2,925万人(22.8%)でした。全人口に対する老年人口の割合は2005年に20%を超え、2030年頃には30%を越えると予想されています。
 2011年厚生労働省からは、「患者調査の概況」で様々な疾患の総患者数が発表され、総患者数が多い傷病は高血圧性疾患、糖尿病、脊柱障害、高脂血症、心疾患(高血圧性を除く)という順でした。これらの傷病の65歳以上の割合はそれぞれ、70%、61%、65%、60%、77%で、どの傷病も半分以上は65歳以上であることも判明しました。
 従いまして、歯科医院を訪れる患者はさらに高齢化し、何らかの全身疾患を合わせ持つ患者の割合も増加していくと考えられます。そこで今回は、高齢者に多い疾患を持つ患者が歯科医院を来院したときの対応についてお話ししたいと思います。