演 者 名 所 属 演題記号1 演題 抄 録 演題記号2 演題2 抄 録2
井出良治・講 師 生理学講座 T-1 いまさら聞けない解剖生理学
先生方は多くの経験と知識を基に日々患者さんの治療に当たられていると思います。そんな中、ふと、「顎舌骨筋って下顎義歯作成に大事なのは知っているけれど、どんな運動機能だっけ?あれ、神経支配は何だっけ?」と疑問に思うことはありませんか?しかも、学生時代に苦手な分野で(演者もそんな学生の一人でした。)、日々の診療に追われ、なかなか基礎医学を学び直す時間も無く…といった具合に、後回しにされる事の多い分野でもあります。しかし、本当はじっくりともう一度学びなおしたい!と思われることがあると思います。そこで先生方には日々の臨床に役立つ解剖生理学分野から1、義歯・インプラントと顎運動 2、神経損傷と神経因性疼痛 3、ドライマウスの基礎と臨床 4、摂食・嚥下機能と障害 5、味覚と味覚障害、などについて、ご希望の内容についてお話させていただきたいと思います。



高橋幸裕・教 授 微生物学講座 T-2 口腔細菌の付着・定着因子 う蝕と歯周病は、どちらも口腔細菌が原因の感染症です。口腔常在菌が歯の表面に付着・定着し、口腔バイオフィルム、すなわちデンタルプラーク(歯垢)を形成することが、う蝕および歯周病発症の最初のステップとして必須です。さらに、これら口腔常在菌は、感染性心内膜炎や誤嚥性肺炎など他臓器の感染症の原因菌として注目されています。この講演会では、この感染の最初のステップを担う口腔細菌の付着・定着因子についてお話しします。最初に、歯周病原性細菌のPorphyromonas gingivalis、放線菌症や根面う蝕の原因となるActinomyces の線毛について、概要を説明します。また、口腔において最も優勢な細菌群で、う蝕の原因でもある、口腔レンサ球菌の付着に関わる様々なアドヘジン、強固な定着に重要な役割を果たすグルカン産生について、感染性心内膜炎の動物実験の結果などを交え、少し詳しいお話をいたします。


福田雅臣・教 授 衛生学講座 T-3 歯科健診(検診)再考 “骨太方針2022”において、生涯を通じた歯科健診(いわゆる国民皆歯科健診)の具体的な検討」が記述された。これを受けて、歯科健康診査(歯科健診)の在り方について、様々な立場から議論がなされるようになった。歯科健診法については、唾液等による間接診査法、質問紙調査によるリスク評価法等様々な手法が提案されてきたが、病変を直接見ることができる歯科疾患の特性から、視診型歯科健診法の主役であるといえる。しかし、視診型診査は歯科疾患の発見を目的とした疾病志向型歯科健診的色彩が強く、スクリーニング検査としての機能に欠けているという指摘がなされている。近年、スクリーニング検査機能を有し、受診者の健康問題に主眼をおいた問題志向型歯科健診への転換の必要性が生じてきた。そこで、講演では、国民皆歯科健診に向けて、地域保健的視点から、これからの歯科健診の在り方につて再考していく予定である。



新谷明一・教 授 歯科理工学講座 T-4 CAD/CAM補綴と接着技法 近年,歯科医療のデジタル化は目覚ましく,補綴臨床の場においても様々な工程がデジタル化されております.平成26年4月に小臼歯へ導入されたCAD/CAM冠は,第一大臼歯部を経てついに前歯部まで適応拡大され,最後臼歯を抜かしてすべての歯に適応可能なクラウンとなりました.また,近年のデジタル技術の発展から口腔内スキャナーの汎用性が向上し,いよいよデジタル印象も身近な存在となり始めております.この潮流は,今までCAD/CAMによって多くの技工作業がデジタル化されてきた時代から,チェアサイドでもその恩恵が受けられるようになってきたと言えます.しかしながら,このデジタル化された補綴臨床には,いくつかのコツが存在し,それらを知らずに使用すると円滑な臨床行うことが困難になるのみでなく,脱離や破折などの失敗を引き起こす可能性もあります.本公演では,デジタル化された補綴臨床について紹介し,その臨床的ポイントを接着技法と合わせて紹介させていただくことで,会員皆様の日々の臨床に役立たせていただければと思っております.



石田祥己・講 師 歯科理工学講座 T-5 ジルコニアの正体とその強さの秘密 ジルコニアは極めて強い審美的な材料として、歯冠修復に広く用いられており、日々の臨床でも目にする機会が多いかと思います。しかし、ジルコニアといっても、従来型、高透光型、TZP・PSZなど、様々な種類が存在しており、その性質は様々です。近年では、組成の異なるジルコニアを積層し、色調と透光性を変化させ、グラデーションを有する多層構造ジルコニアディスクが開発されており、より審美的な修復が可能となっており、今後もジルコニアは注目を集める材料であることは間違いないと考えられます。では、材料選択はジルコニアの一択で良いのでしょうか?答えはNoだと思います。今回は、ジルコニアとは何なのか?従来の陶材とは何が違うのか?なぜジルコニアは大きい強さを持っているのか?など、ジルコニアの強さの秘密を含めた基礎知識について解説したいと思います。また、ジルコニアを選択した際の臨床上の注意点も併せてお話できればと考えております。



岩原香織・教 授 歯科法医学講座 T-6 災害医学・災害医療の理解 歯科法医学で、災害医学・災害医療と言われると、被災により亡くなられた身元不明者の身元確認(個人識別)を想像されるかもしれません。しかし、災害時に歯科医療従事者が行える歯科医療救護活動は、死体への身元確認だけでなく、多くの命を救うための医療救護活動や被災によっても命をつなげられた方への歯科医療救護活動も重要となります。私たち歯科医療従事者に求められる活動のニーズは、災害の種類や規模、フェーズによって変化します。当講座では、災害医学・災害医療の正しい理解の上に立つ、災害への対応について学生教育や啓発活動を行い、歯科医師会や警察、他機関等へも協力を行ってきました。それらの知識や経験をもとに災害医学・災害医療の理解について解説いたします。正しい理解は正しい活動につながり、それらは被災者への利益、また、減災につながるはずです。
T-7 子ども虐待・マルトリートメント
児童相談所での児童虐待相談対応件数は、毎年、増加し続けていますが、その一方、虐待による死亡数は、この数年間、横ばいです。歯科医療従事者が虐待やマルトリートメントに適切に対応することで、虐待のハイリスクケースへの移行が防止できれば、子どもの死や重度の障害等を防ぐことができるはずです。虐待やマルトリートメントを受けている子どもの口腔顔面に認められる所見は、一般的な生活でも起こり得る疾病や偶発的な損傷の所見と同様で、それのみで虐待と診断することが難しい場合が多いのですが、歯科の眼を活用し、成傷機序(いつから、どのようにして、何によってできたものか。それができてから、そのくらい経過しているか。など)を考え、診断し、それぞれの対応を助言することができます。
講演では、虐待やマルトリートメントの気付き、診断、対応などについて解説いたします。
中原 貴・教 授 発生・再生医科学講座 T-8 “生命歯学”がもたらす新たな歯科医療 
〜バイオ再生医療による本学独自のアプローチ〜
材料修復や対症療法による従来型の歯科医療は、もはや画期的な治療法が生まれる余地がないほど、高度に成熟した医療を提供しています。一方、ノーベル賞の旗印のもと過熱した再生医療ブームは、iPS細胞の臨床研究に結実し、すでに患者に移植されるまでに至りました。この医学史における最大級のインパクトは、細胞をもちいる新たな医療、「バイオ再生医療」の到来を意味しており、これからの歯科医師は“生きた”細胞・組織を扱うバイオの素養を習得する必要があるのです。本講演では、バイオ再生医療の現状と未来について分かりやすく概説し、本学が独自にめざす再生医療ビジョン、そしてその将来ビジョンの実現には校友会員一人ひとりが重要な役割を担っていることをご説明します。



望月真衣・准教授 生命歯科学講座・発生・
再生医科学講座併任
T-9 『再生医療』とのふれあい方
日本の「再生医療」は、世界的に見ても先進的に取り組まれている最先端医療です。一方で、とりわけ日常の歯科臨床ではとっつきにくいワードに感じます。少なくとも、本学卒業後8年間にわたる私の勤務医としての歯科臨床では、根管治療や補綴治療などに比べて、極めて触れることの少ない先端医療でした。興味はあるのに疎遠な理由は、「再生医療」に対する世界的な関心の高まりにともなう、めまぐるしい研究成果の発展とそれをとりまく法律の整備でしょう。私は、歯科臨床医から大学院へ進学し、そこで幹細胞の魅力にとりつかれた「再生医療」の基礎研究者となり、そして「歯の細胞バンク」に従事しながら本学の教員として学生教育にも努めています。本講演では、勤務医から転身して基礎研究者ならびに教育者としても活動する私が、歯科開業医の目線から「再生医療」を現実的に理解し、それをどのように取り入れて患者さんに提供するべきか、『再生医療』とのふれあい方についてお話ししたいと思います。



五十嵐 勝・教 授 歯科保存学講座 T-10 「歯内療法学教育の変化からみた臨床の展望について」 歯の保存のための重要な範疇を担う歯内療法学は、より安全で効率的な新器材の開発、そして生体と環境に優しい治療法の確立を目指している。その結果、私が学生時代に受けた歯内療法の歯学部教育内容は、今では随分と変化してきている。昭和50年頃の当時は、リーマーやファイルがステンレススチールに変わり、またパラホルム糊剤を含有した水酸化カルシウムでの糊剤根管充填からガッタパーチャポイントを用いた加圧根管充填に変化していた時代である。それから30数年の時が流れた現在、教科書も改訂され、学部教育における座学と実習の内容が一変している。本講演では、現在の治療法に関わる考え方と処置法に関して提示することにより、将来の歯内療法の方向性を確認してみたいと思います。 T-11 「どう対応する根管治療の難治症例」 歯髄や根尖性歯周組織の疾患を治療する根管治療では、治療の場となる根管は極めて複雑な形態を持っています。さらに狭い口腔環境という条件下で、直視困難な根管内での作業は、まさに手探りの処置といわざるを得ない状況にあります。しかも、日常診療での時間制限のある中での根管治療は、治療を急いだ結果、様々な偶発事故を起こすこともあります。また、治療が計画どおりに奏効せず、根管充填の時期をなかなか迎えることの出来ない症例にも遭遇します。本講演では、多量の滲出液を伴う症例や臨床症状の消退しない症例などの難治症例に対して、その原因を考えながら対処法を考えてみたいと思います。また、器具破折、側方穿孔、湾曲根管でのステップ形成などに対する対処法について、マイクロスコープ導入による効果を含め、より確実な歯内治療を身につけるための考え方を提示したいと思います。
前田宗宏・准教授 歯科保存学講座 T-12 根管治療の基本的な考え方 従来から,根管治療は直視困難で複雑な形態を有する根管を介して根尖狭窄部までの十分な処置を行わなければならないため、経験や勘といった不確定な因子によって治療の予後が大きく左右されてきました。しかし、多方面にわたる基礎的研究データから、歯内療法の考え方も少しずつ変化しています。今回は、根管治療の基本的な考え方、最近のトピックス、新器材の話題などを中心に、解説を行う予定です。


T-13 歯内療法用薬剤の選択 治療用薬剤の種類は多岐にわたることから,各薬剤の特徴を十分に理解し選択使用する必要があります。この際に留意すべき薬剤選択の基準や安全性について、解説を行う予定です。
柵木寿男・准教授 接着歯科学講座 T-14 気になる歯のウエストのお話 誰しもがウエストは気になると思います。御自身のだけでなく、歯のウエスト、歯頸部疾患も大問題です。例えば「象牙質知覚過敏症」は、患者さんにとって冬季の冷たい空気だけでなく、飲食物によって気節を問わず生じてしまうことが苦痛です。一方、術者側からみれば、一過性誘発痛を主とする症状が患者さん御自身の感覚に基づく場合が多く、他覚的に認知し難いため、臨床的に意外と「厄介な症例」であるといえます。この他の歯頸部疾患としては、「くさび状欠損:歯頸部摩耗症」、さらには歯冠部すべてにも波及する「酸蝕症」などを含めた、いわゆる「第3の歯科疾患」とも呼称される「Tooth Wear:非齲蝕性硬組織疾患」、そして歯肉側の「根面齲蝕」も大問題です。それらの概要、診断から治療に至る最新情報を御紹介し、MID: Minimal Intervention Dentistryの実践を踏まえた臨床的対応についてお話しさせていただきます。 T-15 みんなにやさしい接着歯冠修復:2023 「MID:Minimal Intervention Dentistry」と「審美歯科」は歯科界の大命題となっていますが、この両者の結び付きは接着歯学によってなされています。患者さんの歯科治療に対する要望は、いかにも歯を治しましたという「人工的な美しさ」を求めるわけではなく、より自然感に富んだ審美性を要求しているといえます。しかし、同時に他人とまったく同じではなく、少々の差別化を求めるということもまた事実ではないでしょうか?さらに、MID的に侵襲の少ない=やさしい歯科医療の要求もあります。しかし現実には、材料や術式の技術革新、国際情勢など社会的背景や歯科用金属の高騰など経済状況の変化…等々も考慮する必要があります。患者さんに、私たち術者に、もちろん社会や環境に対しても「やさしい接着歯冠修復」とは? MIDと審美歯科を切り口としつつ、2023年における接着歯冠修復の現状と今後を柔らかくお話しさせていただきます。
前野雅彦・講 師 接着歯科学講座 T-16 信頼性の高いCAD/CAM修復のために−臨床手技・材料選択のポイント− 1980年代半ばに誕生したCAD/CAM修復は、材料・技術の飛躍的な発展によって、国内外問わず歯科臨床に欠かせない存在となっています。本邦では小臼歯CAD/CAM冠の保険導入(2014)を契機に大きく広まり、その後下顎第一大臼歯(2018)、上顎第一大臼歯・前歯(2020)への適応拡大、及びCAD/CAMインレーの導入(2022)が行われました。今や患者国民は、残存歯や咬合支持に係る制限はあるものの、歯列大部分に健康保険による歯冠色間接修復を受けられるようになっています。一方で、健康保険CAD/CAM修復黎明期に「CAD/CAM冠が装着直後に脱落した」との報告が相次いだことから「CAD/CAM修復は外れる」という印象を持ち、敬遠している方もおられるのでは…と推察します。今回は、CAD/CAM冠脱落の原因を切り口に、不良予後を招かないための臨床手技・材料選択のポイントをお話したいと思います。


沼部幸博・教 授 歯周病学講座 T-17 命をねらう歯周病 -歯周病と全身疾患との関わり。全身の健康は口の中から-  「フロスか死か!」。これは、「プラークコントロールを励行し、元気に長生きしますか?それともそれを怠り歯周病になり、全身疾患を併発して早死にしますか?」という意味です。近年、歯周病患者において、歯周病原性細菌や炎症の産生物が全身を巡り、一部の癌、心臓病、肺炎、脳血管障害、早期低体重児出産など、各組織や臓器で生死に関わる病気の原因になることや、糖尿病などを増悪させる証拠が見つかり、マスコミでも大きく取りあげられています。すなわち歯周病は全身の健康にも関わる重要な問題で、それゆえに歯周治療で命を脅かす疾患を予防し、健康を維持できるのです。この概念は歯周病患者に対する治療への強力なモチベーションであり、また心臓疾患や肺炎、糖尿病患者、妊婦などに歯科検診の必要性を説き、歯科医院のドアを叩かせるキーワードです。本講演では、そのような結論に至った科学的根拠や社会的背景などを解説し、歯科医師またはコ・デンタルスタッフからの対応法を述べるとともに、医科の専門医との連携の方法にも言及する予定です。
T-18 「歯周病の診断と治療の指針」にそった歯周治療 
-歯科医学的根拠に基づいた保険請求のためには−
平成23年の厚生労働省の歯科疾患実態調査をみても、依然として歯周病の症状を持った人は成人の8割近く存在し、日常臨床の歯周病治療は不可欠です。日本歯科医師会と日本歯周病学会が「歯周病の診断と治療のガイドライン」を作成し、社会保険診療報酬点数改正で歯周治療にかかわる部分が大きく変更され、すでに20年近くが経過しました。そしてその際に検査結果に基づいた治療計画に沿って治療を進め、再評価で治療計画を修正しながら、最終目標である歯周病の治癒または症状安定を図る道筋が示され、本邦の歯周治療体系が確立されました。しかし歯周治療の保険算定に際しては様々な疑問点、問題点を抱えたまま推移しているものもあり、臨床現場からご質問を受けることが多々あります。本講演では、歯周治療の流れを辿りながらそれらの点を整理し、保険診療における歯周治療の歯科医学的解釈と法的な妥当性の両方の側面を捉えながら、解説を致します。 
伊藤 弘・准教授 歯周病学講座 T-19 歯周病の検査・診断−発症前診断を目指して 歯周病の検査・診断は、ポケットプローブを用い、その深さ(PPD)とそれに伴う出血(BOP)で評価することは、世界的に認知され、この方法を用いない臨床家は皆無に等しく、ほとんどのオフィスではポケットプローブで歯周病の検査・診断を行っていることと思います。つまり、歯周炎の定義が“付着の喪失を伴う歯肉の炎症”であることを鑑みると、PPDとBOPが最重要診査項目であることに異論はありません。我々の研究室では、ポケット内容物から歯周病の発症前診断を目指し臨床応用へ向けて取り組んでいます。今回の講演会では改めて、PPDとBOPの意義を再検討し、従来用いられてきた検査方法から得られた結果に対し再考察を加えてみたいと思います。


関野 愉・准教授 歯周病学講座 T-20 歯周基本治療を効率的に行うための戦略 歯周病の治療は、一般的には期間が長く、とくに歯周基本治療における歯肉縁下のSRPは操作が煩雑で、時間もかかり、さらに術後に知覚過敏などを起こす事もあり問題点も多い。これらを解決するため、様々な戦略が試みられている。
フルマウスディスインフェクション
超音波スケーラーによるデブライドメント
抗菌療法
Er.YAGレーザーの使用
EMDOGAIN の応用
 情報が氾濫し、何が必要で、を取り入れたらよいのか判断する事が困難である現在、拠り所の一つなりうるのは「科学的根拠」である。実際に、上にあげた治療法の中にはその効果が疑問視されているものある。今回は、歯周基本治療を効率的に行うためのアプローチ法について、改正された保険のガイドラインに沿った形を含めて、科学的に解説する。
T-21 咬合性外傷の理論とその臨床応用 「咬合性外傷」とは、咀嚼筋により引き起こされる力により歯周組織に生じた病的または適応性変化を示す用語である。かつては、歯の動揺を伴う垂直性骨吸収は咬合によるものだとするGlickmanら(1965,1967)の死体解剖により得られた所見に基づいた理論が広く信じられてきた。しかし、Waehaugら(1978)の同様の観察結果はその理論を支持しなかった。1970年代後半から1980年代初頭にかけて、Polsonらのニューヨーク、イーストマン研究所のグループはサルを用い、またLindheらのイエテボリ大学のグループは、ビーグル犬を用いて動物実験を行い、咬合性外傷の歯周組織に及ぼす影響、プラーク由来の歯周炎との関連などについて研究報告を行った。今回は、これらの科学的エビデンスを臨床でどのように応用していくべきか、解説する。

村樫悦子・講 師 歯周病学講座 T-22 Nd:YAGレーザーによる歯周病の治療について 近年、医療におけるレーザーの開発が進み、歯科分野でもその効果が注目され、数多くの臨床症例に応用されている。歯科医療の場においてここ数十年の動向を振り返ると、レーザーは急激にその普及率をのばし、多くの治療に重要な役割を持って携わってきた。そしてレーザーは多種多様の機種があり、波長、出力および照射時間の違いにより、照射される組織への影響が異なる。よって、治療を行う際、その治療に適したレーザーを選択するためには個々のレーザーの特徴を理解し、適切に使用することが重要である。
 今回報告する歯科用Nd:YAGレーザーは、その使用領域がう蝕治療、う蝕予防、歯内療法、歯周治療、審美歯科およびインプラント領域などと多岐にわたる。特に歯周領域においては歯周外科手術時の歯肉の切開・止血に止まらず、歯周ポケット内の殺菌、歯周ポケット掻爬、根面に付着する歯石や炎症物質の蒸散、歯肉切除、歯肉の審美障害となるメラニン色素沈着の改善、さらに低出力でレーザー照射することにより患部の疼痛緩和、血流促進など、多くの処置に応用することが出来る。そこで今回、他のレーザーの特徴を踏まえ、歯科用Nd:YAGレーザーにおける歯周治療の現状、および今後の展望について報告する。

T-23 再生療法の未来 −歯周組織は果たして回復するか? 21世紀に向けての未来戦略− 歯周治療の最終目標は、歯周組織の再生(regeneration)、つまり、歯周病によって破壊された歯周組織が歯周病罹患前の歯周組織構造に完全修復され、正常に機能することである。しかしながら、中等度 重度歯周炎によって高度の歯周組織破壊が認められる症例において歯周治療を行った場合、歯周組織の治癒形態は修復(repair)、つまり、組織にある一定量以上の実質欠損が生じた場合、歯周病罹患前の歯周組織構造には完全修復されず、失われた組織は他の細胞あるいは組織により置換される。歯周ポケット掻爬術、歯肉剥離掻爬術(フラップ手術)や歯肉弁根尖側移動術などの従来の歯周外科手術の治癒形態が修復(長い上皮性付着)である。歯周組織の再生療法として、1982年にNymanらが歯周組織再生療法(Guided tissue regeneration:GTR)の基礎となる研究、さらに1997年にHammarstr mがエナメルマトリックスタンパク質(エムドゲイン )についての動物実験報告を基盤に実用開発され、GTR法やエナメルマトリックスタンパク質を用いた歯周組織再生療法が歯科領域における再生療法として多くの臨床症例において用いられている。しかしながら、GTR法やエナメルマトリックスタンパク質を用いた歯周組織再生療法はすべての歯周病の症例に無条件に適応できるものではない。よって、より高度な次世代の再生療法を開発するべく、多くの研究者らが細胞実験、または動物実験を行い、国内外の学会で発表している。近年,分子生物学や細胞生物学の進歩により,細胞の増殖・分化および運動促進または抑制を調節する細胞増殖因子が,歯周病によって破壊された歯周組織の修復・再生に重要な役割を果たしている事が明らかとなった。以後,多くの歯周組織再生に関する細胞増殖因子の研究が報告され,特に血小板由来細胞増殖因子(PDGF),塩基性線維芽細胞増殖因子(b-FGF)もしくはb型トランスフォーミング増殖因子(TGF-b)などの細胞増殖因子を用いた歯周組織再生療法が検討されている。本講演では、当講座で研究された、次世代の再生療法と成りうる可能性のある基礎研究について紹介する。
五十嵐寛子・講 師 歯周病学講座 T-24 歯科用レーザーのテクニック! 〜エビデンスから臨床例まで〜 歯科用レーザーは保険診療へ導入されたこともあり、近年使用その頻度が高まっている。歯科用レーザーは各種、波長の違いからそれぞれ異なった特徴を有する。それぞれのメカニズムや特徴を整理し、解説を行いたいと思う。Er:YAGレーザーは組織表面の水分に吸収され瞬時に気化し小爆発を生じることから、軟組織だけでなく硬組織にも応用が可能である。さらに、組織内部に熱が浸透しづらいという特性がある。一方、Nd:YAGレーザーは生体内部に浸透・散乱し、凝固能や止血能に優れるレーザーである。ポケットからの出血は容易に止まり、ポケット内細菌も減少することからポケットキュレッタージや歯石除去などにも使用される。特にこれら、Er:YAGレーザーおよびNd:YAGレーザーについて臨床例を示しながら、安全に臨床応用できるように解説したいと思う。
T-25 喫煙者との付き合い方
〜喫煙が歯周組織に与える影響 エビデンスから禁煙指導まで〜
近年、受動喫煙禁止法の整備など分煙・禁煙傾向が推進され、喫煙者には厳しい環境となっている。しかし、臨床において患者の口腔内を見て喫煙者の多さを実感することもある。喫煙は全身的な健康を害するだけでなく、もちろん口腔に対しても為害作用を有する。喫煙者に対してインプラント治療や歯周外科治療をはじめとする外科的な治療を行う前には、禁煙指導を行うが、なぜ、禁煙する必要があるのか?禁煙できずに外科治療を行ったらどういう治癒をたどるのか?これらのエビデンスや臨床例を示し解説を行う。また、禁煙指導のアプローチの仕方、行動変容についても患者との接し方から説明を行いたいと思う。
倉治竜太郎・講 師 歯周病学講座 T-26 歯周病の新国際分類と最新エビデンスから考える歯周治療の進め方 近年、歯周治療に関するエビデンスが蓄積したことにより、歯周病の概念や診断、治療選択の基準が変わりつつある。2018年には、アメリカ歯周病学会・ヨーロッパ歯周病連盟 (EFP) が歯周病の新分類を共同で公表し、前回の国際分類策定から実に20年ぶりに歯周病が再定義された。その後、2020年には、新分類と予防・治療へのアプローチを関連づけるために、歯周治療のための臨床ガイドラインがEFPによって作成され、歯周基本治療から歯周外科までの新たな治療指針が提案されている。また、日本歯周病学会編「歯周治療のガイドライン2022」にも新分類を解説する項目が設けられた。しかし、新分類は、歯周病学研究の潮流や臨床のニーズに十分合致しているとは言い難い部分もあり、様々な観点において賛否両論がある。本演題では、新分類以降で変化した歯周病の概念を中心に、診断や治療方針の決定について、最新のエビデンスと共に解説する。
T-27 歯周病が引き起こす腸内細菌バランスの崩壊と全身への影響 糖尿病・冠血管疾患・アルツハイマー病・肝炎 歯周病が全身の健康状態を増悪させることは広く知られているが、そのメカニズムには不明な点が多い。近年、唾液と共に嚥下された歯周病原細菌と一部の口腔内常在菌が腸管に達し、腸内細菌のバランスを崩す「腸内ディスバイオシス」を引き起こすことが分かってきた。ディスバイオシスは、細菌の異常増殖や代謝物質の変化、腸管バリア機能の破綻を伴って、有害物質を腸から全身へと拡散させ、さらには糖尿病や心筋梗塞、脂肪肝炎などのメタボリックシンドローム関連疾患、およびアルツハイマー病の発症・進行に強く関連することが報告されている。また、我々の研究は、歯周病が臓器移植の予後に悪影響を及ぼす可能性を明らかにしており、プロバイオティクスなど腸内環境をコントロールする新たな治療法の開発が望まれる。本演題では、歯周病と腸内細菌叢の密接な関わりを中心に、様々な全身疾患への影響と今後の展望を最新のエビデンスと共に分かりやすく解説する。
横山正起・准教授 歯科補綴学第1講座 T-28 健康寿命を延伸する有床義歯補綴臨床 介護を必要とせず自立して生活できる生存期間である健康寿命は、平均寿命との間に約10年もの差があります。そこで、健康寿命を延ばす多くの試みがなされており、厚生労働省の「健康日本21」では、健康寿命の延伸のために健全な口腔機能の維持及び向上が設定されています。健全な口腔機能を維持するためには、良好に咀嚼できることが求められます。 有床義歯は、天然歯列とは異なり、義歯床に連結された人工歯列が1つのユニットとして顎堤粘膜に支持され、口腔内に維持されて機能を営みますので、義歯床の安定が最優先条件であり、咬合状態が主要な役割を担っています。また、義歯を支持する顎堤は、骨吸収が加齢とともに進行するのみならず、義歯の装着年齢や製作回数によっても影響を受け、ほぼ永久的に変化し続けます。したがって、有床義歯の咬合は有歯顎の咬合とは異なった対応が必要であり、また機能的な面でも独自の咬合を構築することが可能です。そこで、本講演では、臨床応用されている咬合様式の特徴を整理し、そのあらましを説明させていただくとともに噛める義歯のための咬合について、私見を述べさせていただきます。



五味治徳・教 授 歯科補綴学第2講座

T-29 材料特性を考慮した補綴装置選択のポイント 歯冠補綴装置は、金属・コンポジットレジン・セラミックスなどの材料から単体あるいは複合体として製作されています。金属は安定した物性の反面、審美性の観点や金属アレルギーの不安もあります。レジンは、その操作性の簡便さと物性の改善や接着技術の向上により、近年では小臼歯のCAD/CAM冠の保険導入やグラスファイバーとの併用によるコアやブリッジにも応用されています。セラミックスはCAD/CAMによる機械加工やプレス成型により応用範囲が広がっています。日常臨床で歯冠補綴装置と材料をどのように選択するべきか。当然症例や患者さんの背景により左右される部分も多く正解はないところでしょう。より安全・安心な治療のためにも、各種材料や補綴装置の短所を把握しつつ、長所をより十分に発揮できるように、材料特性を活用することが重要と考えます。本講演では、これら各種材料の特性と歯冠補綴装置製作法、臨床応用例を供覧させていただきます。 T-30 スポーツ歯学を学ぼう 歯科医師は、スポーツ外傷による歯・顎口腔領域の治療について、日常臨床で遭遇しうるものであるため、その知識を修得しておく必要があります。さらに、スポーツ傷害による歯や顎口腔の診断・治療だけでなく、その予防についても国民に知らせる義務もあります。また、口腔内防護装置であるマウスガードに関しても、その材質の特徴やデザインについての正しい知識をもっておくべきです。生命歯学部では、平成19年歯科医学教授要綱にスポーツ歯学に関する教授要綱が収載されたことを受けて、平成21年度から第2学年前期にスポーツ歯学の講義を行っていますが、大半の先生方は学生時代にスポーツ歯学の教育を受けていないのが現状です。そこで本講演では、これらスポーツ歯学について、最低限知っておいていただきたい概要とキーワードをお話しさせていただきたいと思います。
八田みのり・准教授 歯科補綴学第2講座 T-31 これからの審美歯冠修復に向けて  材料特性をふまえた臨床について 近年,患者の高い審美性の要求から,臼歯部も含め歯冠色材料を使用した審美歯冠修復が第一選択となりつつあります.これらの歯冠修復材料はハイブリッド型コンポジットレジンからジルコニアを始めとするセラミック系材料まで各メーカーより多種販売されています.こうした中,私たち歯科医師は症例に応じてあらゆる知識を動員し,最適な材料を選択するわけですが,各材料の特性や使用方法の正しい理解が良好な予後と患者のQOLの向上に寄与すことを日々の臨床で実感できることと思います.本講演では,日々進化するこれらの歯冠修復材料について,当講座における現在までの材料研究データから得られた知見とともに,現在の歯冠修復材料の特性と臨床において必要なポイントについてお話したいと思います.


里見貴史・教 授 口腔外科学講座 T-32 薬剤性顎骨壊死を再考する 知っておくべき薬・予防・対策 ビスフォスフォネート(BP)製剤に起因すると考えられた顎骨壊死・骨髄炎は、BP製剤以外の骨吸収抑制薬にもみられ、更には、抗血管新生薬等にもみられたことから、これらを日本版ポジションペーパー2016では、総称して薬剤関連顎骨壊死と呼んでいる。ポジションペーパーが改訂されて2年になるが、未だ顎骨壊死・骨髄炎を起こす原因・休薬の是非・治療法等々の一定のコンセンサスが得られていない上、医科と歯科の緊密な連携が極めて重要にも関わらず、残念ながら実際には、良好な連携が構築されているとは言えない。発症メカニズムは今なお不明であるが、近年、多くの臨床報告の集積により、その病態が解明され、対応策も講じられるようになってきている。本講演は、薬剤性顎骨壊死を中心に、顎骨に発生する骨髄炎について、現在までにわかっていることを解説し、一般歯科臨床で役立つ見分け方や問題点についてわかりやすく説明する。
T-33 日常臨床における「口腔がん」への対処のしかた 「口腔癌」は、肺癌、胃癌など異なり、直接、見ることができるため、『早期発見・早期治療が容易な“がん”』である。初期病変のうちに加療できれば5年生存率は90~95%と予後良好で、後遺症もほとんど残らないが、進行してからでは、最悪の結果は避けられても「食べる・話す・表情を作る」といった機能が大きく妨げられ、QOLが著しく低下する。口腔癌は他の癌同様、いやそれ以上に早期発見・早期治療が極めて重要であるといえる。本講演では、口腔内に発生する粘膜疾患や前癌状態である扁平苔癬、前癌病変である白板症・紅板症などとの口腔癌の鑑別ポイントや口腔癌の好発部位の基礎知識について教示し、また現状の“口腔癌検診”についても説明する予定である。
宮坂孝弘・准教授 口腔外科学講座 T-34 口腔外科小手術におけるトラブルを避けるには 最近の医療を取り巻く環境は、10年前に比べて大きく変化しています。医療事故とは、診療に伴って起きた不足の事態をいいます。不測の事態を全て含むので、患者さんへの説明不足や未承諾歯科治療など精神的被害も含みます。医療事故のうち、医療関係者に法律上の責任があるものを医療過誤といいます。最近の報道をみても連日のように、医療事故や医療過誤の報道がされており、一般社会の受け止め方も大変厳しいものなってきているのが現状です。そこで日常の歯科臨床の中で事故のリスクが高い口腔外科の小手術について具体的事例を挙げて説明したいと思います。 T-35 高齢者リスク患者の歯科治療への対応について わが国は世界に類を見ない高齢化社会へと移行し、日常の歯科診療や在宅訪問診療において高齢者を診る機会が増加しています。高齢者の多くは循環器疾患、糖尿病、脳血管障害などの重篤な全身的合併症を有している、いわゆる有病者です。これからの診療において、高齢者リスク患者に対する基本的な対処法を知っておくことは必要不可欠と考えます。種々の身的合併症について基本的な問題点と対処法が理解できていれば、医療事故も防げます。また、種々の疾患をもつ患者さんの歯科治療を安全に行うには、医科との連携が重要です。日常歯科臨床の中で役立つ照会状の書き方の要点、医科から送られてきた診療情報提供書の読み方、併せて“歯科治療上のポイント”などもご説明したいと思います。
小林真左子・講 師 口腔外科学講座 T-36 エビデンスから考える骨補填材の選択 インプラント治療にともなってGBRやサイナスリフト、ソケットプリザベーションを行う場合など、骨造成、骨吸収抑制のためになんらかの骨補填材を使いたい場面も多くあるかと思います。しかしながら、昨今、市場には数多くの骨補填材が出回っており、どの製品を使ったらいいのかその選択には頭を悩まされるのではないでしょうか。その選択基準は有名な先生が使っているから、知り合いの先生がいいと言っているから、業者さんに勧められたから、手に入りやすいから、価格が手軽だから、、、などと理由は様々だと思います。本講演を通して、どのメーカーのどの製品が一番いいかという答えが分かるわけではありませんが、私自身が行ってきた様々な製品の基礎研究の内容やヨーロッパでの骨補填材の使用状況を織り交ぜながら骨補填材の選択に有用な根拠となるエビデンス、今後の骨補填材開発の展望について紹介します。
T-37 歯科におけるPlatelet-rich fibrin (PRF)の可能性  Platelet-rich fibrin (PRF)はPlatelet rich plasma (PRP)に続く第二世代の血小板濃縮材料としてJoseph Choukrounらにより紹介されました。その加工の手軽さから2010年代から欧米で爆発的に使用されるようになり、歯科領域においてはPRPと同様に骨造成や創傷治癒に有用だと報告されています。近年、Leucocyte and platelet-rich fibrin (L-PRF)を応用し、Advanced PRF(A-PRF)、Injectable PRF (iPRF)、Concentrated PRF (C-PRF)など加工方法を工夫することで様々な形状で、よりGrowth factor の徐放が期待されるPRFが開発されています。本講演では、臨床に直結する研究データを織り交ぜながらPRF作製のポイントおよび、PRFの歯科領域への応用の有用性について解説します。
砂田勝久・教 授 歯科麻酔学講座 T-38 聞くとよく効く麻酔のハナシ 太古の昔から、好んで痛い思いをするのは特殊な嗜好の持ち主に限られています。歯科を受診する患者さんは、少しでも痛くなく(可能であればまったく痛くなく)治療を受けたいと望んでいるはずです。「そんなときにはこれ1本」というわけにはいきませんが、毎日何気なくブスブス刺している麻酔だって、細かい心配りを積み重ねるとアーラびっくり結構痛くないものです。痛くなければ血圧だって上がりませんし、不整脈だって起きません、たぶん起きないはずです、起きないといいなぁ‥。というわけで、笑気の利用法から伝達麻酔の刺入点(そうそうそこが知りたいんだよ、という声多し)さらには、安全な患者管理のためにはどうしても欠かせないモニターの読み方まで、明日からの診療に役立つような秘伝の方法を?お話させていただこうと思います。 T-39 こんな患者さんが来院したら・・・ ある日の診察
 患者さんA おらあこんな薬飲んでんだっけど。
 先生    えーっとなになに、「本患者さんは昨年労作性狭心症に対しDES挿入術施行、現在アスピリンとブラビックスでコントロールしております。抜歯の際には止血が困難となることが予想されますので云々」。えーっとね、今日は消毒だけね。
その日の午後
 患者さんB わたくし、かかりつけのお医者様からこのような手紙を頂戴しているのでござあますけど、なんですか歯科で治療の際には必ず担当の先生にお見せしろとのことで。
 先生    (またかよ、今日はついてないなあ)どれどれ、「本患者の喘息にフルタイド吸入を処方しております。また発作時にはメプチン吸入でコントロール可能ですがアスピリン喘息の疑いがあるためNSAIDsの投与には注意が必要と考えます」えーっとね、今日は消毒だけね、えっ昨日も消毒だけだった?いやあ消毒は大事だから、しょうどく、ショードク・・。
医学の世界はまさに日進月歩、聞いたことの無い病気や治療法、薬剤などが次から次えと登場します。そこで今回は歯科治療を行う上でそうしても知っておかなければならない他科領域の疾患と緊急時の対応についてお話させていただきます。
篠原健一郎・講 師 歯科麻酔学講座 T-40 基本的な救急キット・救急薬の使い方
-全身的症状の把握と救急キット・救急薬の選択とその使い方
各歯科医師会などで選定・配布され各診療所に所蔵されている「救急キット・救急薬セット」の詳細と具体的な使用法について今一度学び返してみましょう!
 配布されてもクリニックのどこかにしまいこまれて、その後いつしかその所在も不明となり何年後かの大掃除や棚卸しの際に再発見されるも、せっかくのクスリの使用期限は切れてしまっている….(涙)というのが、よくあるパターンと思われます。せっかく用意された「救急キット・救急薬セット」もこれでは可哀想ですし浮かばれません!
 本企画では、各地区で整備配布されている実際の「救急キット・救急薬セット」をモデルとして、各キットと各救急薬の具体的な使用法と使用状況を例示しながら解説させていただきます。本講演が各先生のお持ちになられている「救急キット・救急薬セット」についての理解を深めるきっかけとなり、各先生の日常診療におけるリスク管理の一助となれば幸いです。



筒井友花子・講 師 歯科麻酔学講座 T-41 「鎮静法のすゝめ」 「患者さんにはリラックスした状態で気持ちよく治療を受けて頂きたい」とお考えの先生方は数多く存在すると思います。われわれ歯科麻酔科医はそんな先生方の思いをサポート出来ます。今回私がご紹介させて頂くサポート方法は「鎮静法」です。歯科診療に対する付加価値として「鎮静法の導入」 を検討してみませんか?お話しする内容は、@鎮静法のやさしい基礎。A鎮静法適応患者さんの選定方法。Bそれぞれの診療所に合わせた鎮静法の導入方法。C緊急事態発生時の対処方法。の4点です。わかりやすく要点を絞ってお話しさせて頂きたいと思います。



新井一仁・教 授 歯科矯正学講座 T-42 混合歯列期のパノラマエックス線画像検査 −歯の異常の診断と対応− 不正咬合の発現には、多くの要素が関与するため不明な点が多く残されており、教科書的にも「不正咬合は多因子疾患で、遺伝と環境が相互に作用して生じる」とあいまいに説明され、常に論争の的となってきています。近年、ポストゲノムと呼ばれる時代に入り、個々の患者さんの遺伝子を解析することで診断の精度を上げるという、新しい医療の時代に移行しつつあると言われています。歯科の分野でも、混合歯列期に見つかるごくありふれたいくつかの歯の異常について、相互の遺伝的な関連性が注目されるようになり、不正咬合の早期発見に関心が高まっています。講演では、最近の知見から、臨床的に興味深い混合歯列期の歯の異常の不思議な性質について、経験豊富な校友の先生方とともに考えてみたいと思います。 T-43 八重歯の不思議 歯科医療の基本的な仕事は歯の保存にあるが、矯正治療では、不正咬合の治療のために健康な歯を抜去する場合がある。およそ100年前のアングルの時代に遡る、この抜歯か・非抜歯か、という一見単純な二者択一の問題は、現代の我々にとっても依然として難しく、解決ができていない面がある。そこで、いっそう安全で安心できる矯正歯科治療を提供するための臨床的な統計指標のひとつとしての抜歯頻度について考えてみたいと思います。
苅部洋行・教 授 小児歯科学講座 T-44 小児期のTMDに対するマネジメント TMD(顎関節症)の症状は、小児期にもみられ、症状は経年的に頻度と重症度が増大すると報告されている。一方で、TMDはself-limitingな疾患であるといわれ、特に小児においては、成長発育の途上であること、症状が比較的軽度であることから、エビデンスに則った診査や診断が行われずに、安易に経過観察にされてしまうこともある。しかし、実際に来院した患者には、痛みや機能障害が存在し、日常生活に支障をきたしているケースもある。適切な鑑別診断が行われなければ、TMD以外の疾患を見過ごすことにより、より重篤な事態を招くこともあるだろう。また、仮に自然治癒していくようなTMDであっても、適切なホームケアを心がけなければ、再燃する可能性も大いに考えられる。小児期のTMDを管理するには、まず、他の疾患との鑑別診断を行い、さらにTMDの分類診断を行い、適切な治療と患者教育によりTMDの症状の悪化を予防していくことが重要である。 T-45 歯科恐怖を知る 歯科に対する恐怖心(歯科恐怖)は、歯科医院におけるとても重要な臨床的問題です。世界各国における疫学研究によると、高度な歯科恐怖の頻度は約12%とされています。歯科恐怖の原因を探ると、多くの人は自分が恐れているものを特定できます。過去の研究では、最も怖い歯科における刺激は、外科的処置、歯科用タービン、注射の順であり、これらの順位は、年齢、性別、人種によらず一定です。一方、恐怖心の強い患者の50%は、歯科医師自身に問題があると思っており、治療行為よりも歯科医師が恐怖の対象になっているのです。では、このような歯科恐怖を客観的に評価し、対処するにはどうしたらよいのでしょうか。恐怖によって引き起こされる生理的反応は、自律神経系の交感神経活動の増加と関連しており、その変化を評価した研究が数多く行われています。本講演において、これらの研究成果を紹介することで、歯科恐怖を知るための一助となれば幸いです。
河上智美・准教授 小児歯科学講座 T-46 小児がん既往の患者さんが来院したら −口腔内症状と対応法− 小児がんは、近年では治療法の改良や薬剤の開発によって治癒率は上昇し長期生存が可能となっています。がんの治療法には、外科療法、化学療法、放射線療法、免疫療法、移植療法があり、これらが組合わされて行なわれます。しかし、小児の成長期に行われるこれらの治療法は子供の心身に様々な影響をおよぼし、口腔内にも障害が現れることがわかってきました。医科においては、治癒後の患者の健康維持や管理の重要性が唱えられて、定期的なフォローアップを行う体制がスタートしました。また歯科でも、既往を有する患者の来院機会が増えると考えられ、口腔疾患に対する対応が期待されています。小児がんの発症時の症状から、がんの治療時期の歯科での対応法、がんの治癒後に現れる歯科的特徴や口腔診査のポイントについて解説します。


名生幸恵・講 師 小児歯科学講座 T-47 CAMBRAで子どもも大人もみんな元気!
―リスク評価を応用した赤ちゃん時代からのう蝕予防―
ありとあらゆる情報が簡単に手に入るようになったいま、子育て世代の間では「虫歯予防のために赤ちゃんのときから歯医者につれていく」という考えが浸透しつつあります。このお子さんの最初の歯科医院訪問こそが、その親子(家族)にとっても私たち歯科医療者にとっても絶好のチャンスであることを、米国で提唱されたCAMBRA:Caries Management By Risk Assessmentの考えを通してお伝えします。この大切な機会を逃さないためのCAMBRA応用の実際から、う蝕予防にとどまらず、生涯にわたる口腔内の健康維持・管理に携わることで、末永く地域の皆さんのヘルスプロモーターとして活躍するためのヒントをお話しさせていただきます。 T-48 食育はじめの一歩 ―誇りを持って踏み出そう!― 2005年に「食育基本法」が制定されてからおよそ15年。私たち歯科医療従事者も「食育」を推進する立場にあります。現在は「第4次食育推進計画」が進行中で、「第3次―」に引き続き、“よく噛む食べ方”を実践する国民を増やすことを目標に、各ライフステージに対応した食育支援が求められています。
日本歯科大学生命歯学部では令和元年度に新規科目として「食育学」が1年次のカリキュラムに導入されました。我が校は「『食育』の実践」と実は非常に深い関わりがあることをご存知ですか?「食育」という言葉が注目されていなかったころに学生時代を過ごした、いま「食育」に関心があるけれど何から始めたらよいかわからない、最近の学生講義内容に興味がある、そんな皆様を対象に本学最初の「食育学」担当責任者としてお話しさせていただきます。食育推進に携わる最初の一歩を本学卒業生としての誇りを持って踏み出してみませんか?
河合泰輔・教 授 歯科放射線学講座 T-49 歯科用コーンビームCTを有効活用するために必要な知識 歯科における画像診断の手段として歯科用コーンビームCT(歯科用CBCT)が注目され、加速的に普及している。歯科用CBCTは複雑な形態を持つ頭頸部の硬組織を任意の方向から三次元的に観察が出来ると同時に、従来のCTと異なり、開業歯科医でも簡便に利用できるメリットがある。一般的に歯科の画像診断は三次元の歯や顎骨を二次元で表現したデンタル、パノラマによる重積画像の観察を行い、不足した部分は術者の経験や撮影法の幾何学的な位置関係から推測して診断を行っている。そして、これがいわゆる読影能力といわれる一部であると思われる。歯科用CBCTはこれを補うことが可能であり、今まで以上に日常臨床において診断に寄与する一面を具備している。 そこで講演では発売以来まもなく20年を迎えようとしている歯科用CBCTの画像を、これからの歯科医療においてどのように有効活用されるか、また利用する際の注意点について、実例を交えつつ一日で理解していただけるように説明する。 T-50 この画像は正常ですか?何か対応は必要ですか?
〜歯科臨床に必要な基本的な画像解釈〜
歯や骨などの硬組織疾患の多い歯科において、目で見えない病変を客観的に診断できるのはエックス線診断である。日常の歯科臨床では、小さな透過像(不透過像)に対処しなければならなかったり、あるいは何でこんなところに透過像(不透過像)があるのだろう?と疑問を抱いたりすることがある。そこで講演では、歯科のエックス線撮影で最も頻繁に用いられるデンタル、パノラマ、そして近年、加速度的に開業歯科医に普及している歯科用コーンビームCTの画像を用い、正常像を再確認しながら、経過観察するべき正常範囲内(ボーダーライン)のもの、異常(処置、あるいは他院紹介が必要)なものを判断する際の基本的な考え方、注意するべきIncidental Findings(偶発的所見)などについて説明して、翌日から使える知識の習得を目指す。
浅海利恵子・准教授 歯科放射線学講座 T-51 デンタル・パノラマの診断を最新の三次元画像で検証する 近年、歯科の治療で三次元画像に触れる機会が増している。これはインプラントや顎関節疾患の診断・治療のための外部機関へのCT、MRIの撮影依頼、そして、保険導入され開業歯科医院に加速度的に普及している歯科用コーンビームCTによるものと考えられる。
ここ数十年来、歯科の画像診断は立体の歯や顎骨を二次元で表現したデンタル、パノラマによる重積画像で観察を行い、残りは術者の経験や撮影法の幾何学的位置関係などから行ってきた。本講演では、日常臨床でベースとなるパノラマ、デンタルで見える指標について、CT、MRI、歯科用コーンビームCTの画像と比較しながら、顎口腔領域の重要な解剖学的指標を中心に疾患も交えて説明し、すぐに使える画像観察の基礎を身に付けるようにする。また、CT、歯科用コーンビームCTの画像を活用方法として、シミュレーションソフトの利用、応力解析等についても簡単に説明する予定である。
T-52 そのエックス線検査の選択と撮影方法は適切ですか? エックス線撮影はアナログからデジタルへ、二次元から三次元へと変革を遂げている。日本はCTの高い普及率のために医療被曝の世界一である。歯科では、ほぼすべての歯科医院でエックス線撮影装置を所有し、近年では被曝線量の高い歯科用コーンビームCTが急速に普及している。国際放射線防護委員会ではALARA(as low as reasonably achievable)「すべての被ばくは社会的、経済的要因を考慮に入れながら合理的に達成可能な限り低く抑えるべきである」という防護の最適化の概念を示している。また低被曝化と診断のための画質のバランスが大事である。本講演では、歯科医院で主に利用されているデンタルやパノラマに加えて、歯科用コーンビームCT撮影の特徴や検査目的ごとに求められる必要最低限の各検査画質を提示し、日々の臨床で実行可能な放射線防護の最適化に向けた取り組み方法などを解説する予定である。
櫻井健一・教 授 外科学講座 T-53 癌化学療法と歯科診療について 本邦では過去30年以上にわたって死因の第1位は癌である。最近の診断・治療技術の進歩により、5年生存率・10年生存率ともに穏やかに向上している。各癌種別の10年生存率は部位別では、前立腺が99・2%で最も高く、乳(女性)87・5%、甲状腺86・8%、子宮体部82・3%、大腸69・7%と続く。癌の治療は進歩しており、最近では癌細胞だけを狙い撃ちする「分子標的薬」が使われる場面が増え、免疫の力を利用してがんを攻撃する「免疫チェックポイント阻害剤」も登場。今後はさらに生存率の向上が見込まれており、今後ますます「がんとの共生」(治療と仕事の両立など)が極めて重要な政策課題となっている。このような背景の中、治療中の癌患者さんに対する歯科診療の頻度も増加してくることが予想される。本講演では癌治療中(手術、内分泌治療、化学療法、放射線治療、分子標的治療)における歯科診療の注意点と対策について解説する。



平野智寛・准教授 外科学講座 T-54 癌治療と顎骨壊死について 最近の診断機器の進歩や検診受診の啓蒙により各癌種における早期発見例が増加し、本邦における悪性新生物の予後は向上しています。ほとんどの癌種で骨転移はおこり得ますが、甲状腺癌、前立腺癌、乳癌は高率に骨転移をおこすことが知られています。以前は骨転移をおこすとその先の臓器へと転移巣が広がり予後は不良でありました。現在ではビスフォスフォネート系薬剤やデノスマブを用いることにより大幅に予後は改善しています。これらの薬剤による重篤な有害事象として顎骨壊死があり、一度発症してしまうと著しくQOLを低下させます。デノスマブを4年以上使用すると顎骨壊死の頻度が急激に上昇するとされ、2012年から2016年に顎骨壊死の頻度が19倍に増加したとの報告もあり、その対策は待ったなしの状況です。このように癌治療と顎骨壊死は密接な関係があり、歯科診療において重要度は増しています。本講演では癌治療と顎骨壊死の関連について検証し、その対策について解説します。



鈴木周平・講 師 外科学講座 T-55 癌内分泌治療と歯科診療について 最近の各種悪性新生物の予後の向上は従来行われてきた手術療法、放射線療法に加えて、使える薬物療法の選択肢が増加したことよるところが大きい。薬物療法には従来の抗癌剤、内分泌療法剤、分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害剤などが含まれ、近年になって 治療の選択肢が増加している。また、各癌種の5年生存率、10年生存率も年々向上しているため、歯科領域では癌治療中の患者さんに遭遇する機会が増大している。本歯学会では乳癌、前立腺癌、甲状腺癌、婦人科癌の治療時に使用されることの多い内分泌療法剤(ホルモン治療薬)に焦点を当てて、内分泌治療中の癌患者さんにおける歯科治療の実際について講演する。



北村和夫・教 授 総合診療科1 T-56 歯内療法を成功へと導くための考え方とテクニック 歯内治療の分野は、歯内療法の三種の神器(マイクロスコープ、歯科用コーンビームCT、NiTiファイル)とバイオマテリアルの応用などによって、近年大きな進化を遂げ、歯内療法の専門性は以前よりも高まってきています。一方、難治症例にお困りの先生方は、依然として多いと思います。最新器材を使用しても、歯内治療の基本は感染との戦いであることに変わりはありません。戦いには攻め(感染源の除去)と護り(感染の防止)があり、その両立が歯内療法成功のカギとなります。本講演では、歯内治療の基本的手技や考え方について、現在のスタンダードといえる方法を改めて確認していただいたうえで、大学病院での症例をもとに、マイクロスコープや歯科用コーンビームCTを活用した難症例への対応についてもご紹介させていただきます。本講演における豊富な症例供覧は、先生方の明日からのエンドの臨床において、必ずお役に立てる内容であると確信しております。 T-57 根管充填のパラダイムシフト 支台築造の主流は、メタルポストコアからファイバーポストレジン築造へと大きくシフトしています。ファイバーポストレジン築造する症例において、根管充填に使用するシーラーは酸化亜鉛ユージノール系セメントのままでよいのでしょうか?先生方は、CR修復を行う際に酸化亜鉛ユージノール系セメントで裏層するでしょうか?多くの先生方の答えはNOでしょう。ファイバーポストレジン築造の場合も同様のはずです。従来のシーラーは硬化収縮するため、ガッタパーチャを加圧してシーラー層を薄くする必要がありました。近年、シーラーも飛躍的に進歩し、根管壁の象牙質と密着するシーラーから接着・結合するシーラーへと変化しています。特に、近年注目されているバイオセラミック系シーラーは、生体親和性が高く、硬化時に微膨張します。講演では、各種根管充填法の特徴と臨床例を紹介し、シーラーが微膨張する時代の根管充填についてお話しする予定です。
横澤 茂・准教授 総合診療科1 T-58 医療現場のコミュニケーションと情報の安全管理 「患者中心の医療」という単語を耳にする様になって、医療の現場で変化が感じられるのが医療者と患者や、医療者間の人間関係です。患者と同じ平面に多職種の医療者や介護者があり、情報や目標を共有するチーム医療が定着し、高度な医療技術と安全や安心に同等な価値観を持つ人が多くなりました。医療に必要な情報収集だけでなく、安全管理や危機回避のために重要なコミュニケーションの技術は、医療に限らず多くの業種で、かつては現場を経験すれば自然に身に付くと思われていましたが、現在は初等教育の段階から正規カリキュラムとして、グループ学習やプレゼンテーション、社会体験などを通して積極的に学ぶべき能力であると考えられる様になり、そうした社会の変化にあわせて、日本歯科大学を含む多くの医育機関では教育の変化が起きています。私がこれまでに関わってきたコミュニケーション教育、医療情報の電子化や情報セキュリティについてお話しします。



石井隆資・准教授 総合診療科2 T-59 それは本当に、歯の痛みですか? ある歯に痛みを感じた場合、その歯が原因であると考えるのが常識的でしたが、必ずしもそうではないことが判ってきました。これを非歯原性歯痛といいます。非歯原性歯痛は、痛みを訴えている歯に歯科的な原因・異常が無いにもかかわらず、歯痛が感じられる状態のことをいいます。この病態を理解していないと、不必要な抜髄や抜歯をおこなうこととなり、患者さんとのトラブルの原因となってしまいます。非歯原性歯痛の診断には医療面接による疼痛症状の特徴の聞き取りが重要で、各疾患の痛みの特徴は決まっており、患者さんの痛みの状態を聴取すればある程度の予想がつきます。講演では、この病態の特徴、原因疾患の特徴をお話ししたいと思います。


滑川初枝・講 師 総合診療科2 T-60 「顎関節症について」 私は、1994年3月に歯科保存学教室第二講座の大学院を修了いたしました。その後、大学の機構改革で、総合診療科への配置換えがありました。総合診療科で初診患者さんを担当すると、顎関節症の患者さんのなんと多いこと、多いこと!顎関節症の患者さんは、センターに紹介し診て頂いておりましたが、あまりの多さに、これ、自分で診れたら良いんじゃないの?という考えが浮かんだのが、約10年前。私の顎関節症との出会いです。それまでは、顎関節症は、得体の知れないよくわからないもの、自分には関係なーい…という認識でしたが、センターで勉強させて頂く中で、とてつもない怖い病気というより、なんだか身近なヤツという認識になりました。こんな私でも、たくさんの顎関節症の患者さんを診させて頂き、治って喜んで下さる患者さんを経験することができました。少しでも、日々の臨床にお役に立てることがあると思いますので、お話させていただきます。



新田俊彦・講 師 総合診療科2 T-61 「失敗しないための接着性修復の実践」 高頻度の歯科治療として、コンポジットレジン修復が挙げられる。広範囲に健全象牙質を削ること無く、齲蝕象牙質のみを削除した後に、接着システムを併用しコンポジットレジンを填塞することで修復出来る極めてシンプルな治療である。しかし、周囲歯質との色調不適合や二次齲蝕・冷水痛の発生、破折・脱落など様々な術後のトラブルにも度々遭遇することがある。このようなトラブルの発生は、審美的ニーズの高い患者様の信頼を損なう原因に直接繋がっていく。また歯科治療における接着性修復は、コンポジットレジンに限らず、歯科用合金の高騰によりCAD/CAM冠などに移行する治療方針の転換からさらにニーズが増している。今回、接着性修復を実践する際、後のトラブル発生を出来る限り減らし、その特性を最大限に生かした審美修復を行って頂ける一助となるように、知識と手技のポイントを説明させて頂く。



代田あづさ・講 師 総合診療科2 T-62 妊産婦と歯科治療~マイナス1歳からのオーラルケア~ 妊娠期は女性ホルモンバランスやつわりによる影響で唾液性状が粘性になり、う蝕や歯周炎が進行しやすくなります。とくに歯周炎が重症化すると早産や低体重児出産の原因となります。近年、早産や低体重児出産の原因は喫煙・飲酒よりも歯周炎による影響が大きいと考えられています。このことから歯科受診を勧める産科医も増えてきています。妊娠時の歯科治療は注意すべき点が何点かありますが、ほぼすべての歯科治療が可能です。生まれたばかりの子供の口腔内には虫歯菌は存在しません。第一歩は、離乳食を与える大人から伝播していくのです。周囲の大人の口腔内環境を改善していくことで子供のむし歯予防の第一歩が始まると考えています。妊娠期、特に女性は生まれてくる子供のあらゆる事に一番関心がある時期であると言えます。お母さん自身の口腔内環境を見直してもらう良い機会でもあり、子供のむし歯予防につなげていく良い機会でもあると考えます。


仲谷 寛・教 授 総合診療科3 T-63 歯周治療のエビデンスは重要です...が... 今日、EBM(根拠に基づく医療)という言葉を一般的となっています。学術論文、テキスト、ガイドラインなどは治療方法の決定には大変参考になります。しかし、「統計学的に有意である」という文言で思考停止に陥っていないでしょうか。例えば、歯周治療のガイドライン2022には、歯周外科治療を行うにあたって、喫煙していないことが条件の1つとなっていますが、禁煙できない患者さんの治療は放棄するのでしょうか。そこで、あたりまえと思っていた歯周治療のエビデンスを違う角度から少しだけ深掘りしてみましょう。また、患者さんは合理的な判断を下してくれる訳ではないので行動経済学的な視点から患者さんを考えてみましょう。経験的にそのようなことができている先生方もいらっしゃるかと思いますが、一歩引いた視点で臨床現場を考えることでエビデンスと不合理な患者さんとのバランスがとりやすくなるかもしれません。一緒に考えてみましょう。 T-64 歯周治療の基本テクニックを見直す
日常臨床での歯周治療は、ブラッシング指導、スケーリング・ルートプレーニング、メインテナンスが主体であり、そこにフラップ手術が加わることがある。これらのことは、誰もが学生時代にはひと通り教わり、どの歯科医院でも当たり前に行っていることであり、なんとなく実施しても、とりあえずは大きな問題とはならない。しかし、プローブの挿入、キュレットの操作方向、歯肉弁の剥離など、確実に行おうとした場合に様々な盲点がある。特に基本治療のテクニックの盲点を把握すれば、自院の若手歯科医師や衛生士にも還元できるはずである。自分の失敗をもとに気付いた歯周治療に必要な種々の基本テクニックについての解説が、先生方の診療室の活性化に繋がれば幸いである。
小川智久・准教授 総合診療科3 T-65 円滑な医療連携を行なうための診療情報提供の活用法 
―意外と知られていないポイントー
数年前から「医療連携」という言葉はよく聞くようになり、その重要性も理解しているのだが、実際どのようにやればよいか迷われている方も多いと思われます。我々歯科医がおこなう医療連携には、歯科治療における病診連携(開業医と大学病院など)と、医科歯科連携が挙げられ、いずれにしても診療情報提供書や診療情報提供依頼書などの記入が必要であり、その書き方や内容が良くわからず踏み込めないのではないでしょうか。確かに煩わしいのですが、やり始めると効率性の良さや、診療においても特に有病者などは情報提供があることにより現状を理解しながら治療がおこなえるなどの多くのメリットがあります。
 そこで本講演では、他施設との医療連携が円滑におこなえるための基本的な知識と文章の記載法、また得られた情報の活用法などについて解説していきます。



大澤銀子・准教授 総合診療科3 T-66 歯周治療のABC ‐Anatomy・Bacteria・Cleaning‐ 「8020運動」の啓発の成果により,平成28年度の歯科疾患実態調査では,80歳で20本以上の歯を保有す人の割合は飛躍的に伸びて,約51%に達しました。しかし,その反面,4o以上の歯周ポケットを有する人の割合は増加しています。そのため,超高齢社会に突入した日本では,かかりつけ歯科医による日々の口腔内のケアは非常に重要となってきます。そこで,今回,「歯周治療のABC」と題して歯周治療の基本についておさらいしたいと思います。歯周治療のA即ち「Anatomy」と題し治療に必要となる解剖を,Bは歯周病の原因である「Bacteria」について,Cは治療の基本である「Cleaning」について,キュレットの使用方法やSRPの重要性などを説明いたします。日々の臨床で欠かすことのできない歯周治療の基本を見直して,是非,実践の場で生かして頂ければと思います。
T-67 手際よくフラップ手術を行うために フラップ手術は進行した歯周炎の治療を行なう際の治療の選択肢の一つで、歯周ポケットの除去や歯石の除去を行なうことにより、歯周組織の改善を図る重要な処置です。しかしながら、「手術に時間がかかってしまう」、「うまく剥離できない」、「出血のコントロールができない」といった経験が手術を遠ざける要因となっていませんか?そこで、今回、フラップ手術を手際よく行なうための切開・剥離・縫合法のポイントやあると便利なインスツルメント,そして,それらのインスツルメントの効果的な使用方法を解説したいと思います。また、応用編として歯周組織再生療法を行う時のポイントについても説明する予定です。
鈴木麻美・准教授 総合診療科3 T-68 妊娠中の歯科治療を安全に行うために 日本歯科大学附属病院マタニティ歯科外来に来院する妊娠中の患者さんの状況から、どのような治療が必要とされているかについての報告を行います。また、う蝕や歯周病が妊婦さんや赤ちゃんへ悪影響を及ぼすものであることを再確認します。さらに、いかに安全に妊娠中の歯科治療を行うかについて、マタニティ歯科外来での取り組みと治療を行う際の注意点、産婦人科との医療連携について解説を行います。
かかりつけ歯科医院の重要な役割として、妊娠前に患者さんへの口腔内への関心を高めてもらう必要性、生まれてくる赤ちゃんの一生につながる口腔内の健康について再確認を行っていきます。
T-69 歯周病と全身疾患との関連について
−オミックス情報からのメカニズムの解明と歯周病治療の重要性−
近年、歯周病と糖尿病、心疾患、早産・低体重児出産などの全身疾患との関連が注目されてきています。生命現象を網羅的・包括的に解析・解明しようというオミックス研究の情報から、歯周病とそれらの疾患との関連性とメカニズムについて、バイオインフォマティクス(生命情報科学)の手法を用いた研究結果から、エビデンスに基づいた解説を行います。さらに、健康に生活していくために、歯周病の本当の恐ろしさ、歯周病治療の重要性について、再確認を行っていきます。
岡田智雄・教 授 総合診療科4 T-70 しない、させないハラスメント!―裁判例から見たハラスメントにならない対応とは?― ハラスメントは「人を悩ますこと、地位や立場を利用したいやがらせ」のことです。パワーハラスメントやセクシャルハラスメントは、ニュース報道等でも取り上げられ、様々な場面で問題となっています。ハラスメントは、被害者はもちろん、その行為者や周囲の人々、診療所等を含む事業所のいずれにも甚大な悪影響を与えます。2020年6月には労働安全衛生法第71条の2が施行され、事業者は快適な職場の形成に法的責任を負うことになりました。この法律には労働者へのハラスメントだけではなくカスタマーハラスメント(顧客からのハラスメント)への対応も必要とされています。ハラスメント対応は法的責任を果たすだけではなく、職員のメンタルヘルスに配慮した明るい職場を作り、診療所(事業所)も守り、評判を挙げることにも役立つ内容です。講演では法律や裁判例に基く、ハラスメントをしない、させない対応法をご紹介したいと思います。 T-71 患者さんとのコミュニケーションギャップの処方箋 
―歯科診療に応用するカウンセリングテクニックー
日常臨床ではコミュニケーションが取り難い患者さんに遭遇します。例えば、なかなかこちらの意図が伝わらない患者さん、頑固に自分の習慣を変えない患者さん、正しい方法を教えても実行してくれない患者さん、最新の方法や知見を紹介しても信用されず診療に不信感をもち続ける患者さん等は、総じてコミュニケーションの行き違い、いわゆるコミュニケーションギャップが生じていると言えます。このようなコミュニケーションギャップには、心理学のカウンセリングテクニック(サイコセラピー)が有効です。カウンセリングには400を超える様々な方法があると言われています。この中で認知行動療法はエビデンスがある療法として知られており、報告も数多く挙げられています。今回の講演では、認知行動療法を中心に、最近話題となることが多い「動機付け面接法」「対人関係療法」等も紹介します。講演を機会に患者対応の引き出しを増やしていただければ幸いです。
石垣佳希・教 授 総合診療科4 T-72 日常臨床で知っておきたい有病者の歯科治療 現在我が国では、超少子高齢社会の到来による疾病構造の変化に対して適切な医療提供のための具体策が求められており、歯科界においても大きな転換期を迎えています。有病者歯科医療とは、何らかの医学的配慮が必要な患者に安全で適切な歯科医療を提供することであり、これまでの有病者歯科医療システムは医科歯科連携を基盤として一般歯科臨床医と後方支援病院との病診連携により進められてきました。つまり医科主治医と医療情報を共有し、全身状態の把握あるいは状態により対応可能な施設での実施が適切との考えから大学や病院歯科で行われてきました。しかし近未来に構築されるであろう新たな医療システムでは、一般歯科診療医も多職種連携の中で一定の有病者歯科医療に対応する知識とスキルの習得が求められることが予測されます。この来るべき時代の要請に備えて一般歯科診療医も知っておくべき全身疾患を有する患者への対応について解説したいと思います。
T-73 歯科医院で行う医療安全 〜院内感染・医療事故・緊急時対応〜 安心・安全な歯科医療の提供には、さまざまな医療安全対策を講じなければなりません。医療の提供においては、事故の発生を未然に防ぐことが原則であり、また事故が発生した場合は、救命措置を最優先するとともに、再発防止に向けた対策に取り組む必要があります。また厚生労働省では患者が安心して歯科医療機関を受診する体制の整備として、適切な院内感染対策の推進を医療安全の一環として推奨し、基本診療料の施設基準の要件にもなっています。医療安全は個人の努力で改善することもありますが、医院に従事する全員がお互いをカバーできるチームワークが必要です。また医院全体に安全文化を根付かせることも大切で、そのためには基本的知識とスキルを繰り返し学ぶこと、そして新しい情報の収集が欠かせません。本講演では、歯科医療安全対策について説明するとともに、医療事故の具体例とその対応について解説したいと思います。
山瀬 勝・准教授 総合診療科4 T-74 メタルフリートリートメント2023〜知っておきたい知識と成功のポイント〜 優れた審美性を有し,金属アレルギーの問題からも解放されるメタルフリー修復は現代の歯科診療においてその存在価値が高まっています.さまざまな材料を用いることで,これまでメタルクラウンやメタルブリッジ,メタルセラミックスが担っていた修復治療を金属を使用せずに行うことが可能となりました。CAD/CAM冠やファイバーポスト,高強度硬質レジンブリッジが相次いで保険収載され,メタルフリー修復への流れは今後も加速していくものと思われます.しかし治療を成功させるためには材料の特徴を把握し,表面処理や接着操作を含めた取り扱いについて十分理解する必要があります.本講演ではセラミックスや高分子材料を含めたメタルフリー修復の種類と特徴、そしてその臨床応用について、最新の知識をエビデンスとともに解説します。 T-75 支台築造Up-To-Date 支台築造は「人工材料によって欠損歯質を補い,支台歯形態を整える」ことであり,歯冠修復の予後を左右する重要な治療過程です.修復歯を長期的に機能させるためにも適切に支台築造を行うことは必須といえます.現在,私たち歯科医師は鋳造によるメタルコア,直接法によるレジンコア,既製ポストの併用などさまざま治療オプションを手にしています.しかし治療法の選択基準や実際の治療法についてはさまざまな考え方があり,明確な見解が得られていないことも事実です.使用する材料はファイバーがよいのかメタルがよいのか,築造方法は直接法か間接法かなど考慮すべき事項が数多く存在します.本講演では支台築造の基本と臨床術式について,エビデンスに基づいた最新の知見を解説します.
石田鉄光・准教授 総合診療科4 T-76 テレスコープシステムの基礎と臨床 1989年に厚生省の成人歯科保健対策検討会が中間報告で「8020運動」を提言してから15年が経過し,高齢者において現在歯数が増加している。しかし,平成11年の歯科疾患実態調査においては,80歳における1人平均現在歯数は8.21本,80歳で自分の歯を20本以上有する者の割合は15.25%と推定される。このことから,まだまだインプラントや局部床義歯により補綴を行なわなければならない状況である。日本の保険制度の中では半年毎に義歯の再製作が可能であるが,機能的,審美的に満足のいく補綴物を製作することは不可能にちかい。そこで,生理的な口腔諸機能を十分に発揮し,より審美的であり,衛生的配慮を取り入れ,長期間の使用に耐えられるような方法を応用し,患者さんのニーズに応えなければならない。いろいろな方法がある局部床義歯の維持装置の中でもテレスコープシステムは,義歯の維持,支持,把持といった機能を単純な構造で実現することができ,着脱等の扱いが簡単であるため,特に高齢者に対して応用するには最適であると考える。テレスコープシステムというとコーヌスクローネが全盛であり,コーヌスクローネ イコール テレスコープシステムのようになっているが,実際には他の方法も存在する。そこで,今回はテレスコープシステムの基礎について解説を行なうとともに,実際の臨床例を通して製作方法等についても解説する予定でいる。



原 節宏・准教授 総合診療科4 T-77 顎関節症のとらえ方・接し方  顎関節症の基本概念・診査・診断・治療に関しては、1990年代後半から大きく様代わりをし、世界的に再検討されるようになりました。これまで原因とされていた顎関節円板の偏位、周囲組織の炎症などの構造的損傷モデルが主体でなく、筋膜痛(Myofascial pain)を主体とした生物医学的因子、疼痛時に無意識にとってしまう行動や不適切な思い込みなどの心理・行動学的因子、家族関係・労働環境などの社会・経済的因子が絡み合って発症する生物心理社会的疼痛症候群モデルであるという見解に大きく変化し、治療法は患者さんにとって、安全で非浸襲的であることが最優先されるようになりました。日本においても日本顎関節学会監修の「診断と治療のガイドライン」を見直す必要が生じ、再検討が始まっています。
 講演では、当診療センターで行っている各種療法と指導について触れながら、顎関節症のとらえ方・接し方について供覧します。



大津光寛・准教授 総合診療科4 T-78 心の問題も考えてみよう −精神疾患と出会ったら− 情報が瞬時に飛び交い,プライバシーの範疇があいまいになり,常に時間に追われ,誰もがストレスを抱え,それに押し潰されないようになんとか生き抜いている現代社会において,うつ病等の精神疾患は以前のように特殊な,もしくは特別な人が罹る疾患ではなく,誰もがその可能性のある,ありふれたものになっています.先生方も必ずや,毎日やってきては曖昧な愁訴を繰り返してやまない患者さんや,受付で怒鳴り散らす患者さんなどで困惑なさった経験があると思います.もしかすると歯茎から針金が出てくる等という,にわかには信じ難い訴えを経験した先生もおられるかもしれません.このような患者さんには何が起きているのでしょうか?どう対応すれば良いのでしょうか?今回は不定愁訴や鬱病,奇妙な訴えをする体感異常などといった,歯科で見受けられる精神疾患とその具体的な対処法から,精神科紹介の仕方まで,臨床症例を交えてお話させて頂きます.


猪俣 徹・講 師 総合診療科4 T-79 口腔前癌病変の取り扱い 〜経過観察と切除をどのように判断するか〜 口腔前癌病変は、「正常な組織よりも癌を発生しやすい形態学的に変化した組織」(WHOの定義より)で、白板症や紅板症がこれに相当します。2017年に第4版へ改訂されたWHO頭頸部腫瘍分類では口腔前癌病変と口腔前癌状態(扁平苔癬、梅毒性舌炎など)の概念が統合され、口腔潜在的悪性疾患(12種類)に分類されました。とくに口腔前癌病変は、歯科医院でも遭遇することが多く、早期に悪性化する病変もあるため適切な診断と対応が必要となります。口腔前癌病変は局所所見、患者背景を考慮して切除か経過観察かを十分に判断する必要があります。また、蛍光診断装置、NBIなども活用し異型の評価をする事で切除するか否かを判断することも可能であります。本講演では、白板症、紅板症を中心として症例を供覧しながら、診断と治療法について解説し、口腔がん早期発見の一助になればと考えております。
T-80 歯科診療に必要な抗菌薬の知識
口腔領域の細菌感染は、歯の疾患に由来する歯性感染症がほとんどであり、由来および起炎菌がほぼ同じであることから、細かい病名に分けられている疾患を4群にまとめた抗菌薬適応のガイドラインが設けられています。また抗菌薬の投与目的には治療抗菌薬と予防抗菌薬があります。治療抗菌薬に関しては、嫌気性菌をターゲットにした強い抗菌力をもつ薬剤を選択し、局所処置を併用することが重要です。予防抗菌薬では易感染性の基礎疾患のない患者では、局所の状況をみて投与するべきかを判断し、不必要な投与は避けるべきで、歯科口腔外科領域における標準術式に対する術後感染予防抗菌薬の適応に関しては術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドラインを遵守する必要があります。本講演では歯性感染症における初期対応や診断、治療法、抗菌薬の適正使用について症例を提示しながら解説させていただきます。

石川結子・講 師 総合診療科4 T-81 新しい「デンタルバイオフィルム」のとらえ方 ―微生物と「共生」するために― 人体では、皮膚、口腔、鼻腔、腸や膣などそれぞれの部位で細菌が固有の生態系(マイクロバイオーム、常在細菌叢)を築いています。そのうち、口腔内には700種類以上の微生物が生息しており、それらの一部がう蝕や歯周病といった感染症の原因となることは既知の通りです。「バイオフィルム」は耳慣れた言葉ですが、近年ではその概念が変わりつつあります。デンタルバイオフィルムの存在がう蝕や歯周病の直接的な原因ではなく、その中の細菌叢の乱れ(dysbiosis)が疾患を助長するという考え方です。今般の感染症パンデミックを経験する前から、我々歯科界では微生物との「共生」を選んできたのです。講演では、「デンタルバイオフィルム」の概念の変遷、う蝕や歯周病の病因論について、最新の知見を交えながら分かりやすく解説していきたいと思います。



松野智宣・教 授 口腔外科 T-82 見直そう 歯科における抗菌薬・鎮痛薬の投与法
「抜歯後の投薬は?」との質問にどうお答えされますか。「1日3回毎食後、フロモックスとロキソニンを3日分」とお答えされる先生は決して少なくありません。「サワシリンとカロナールでしょ!」とわかっていても、やはり「これまでずっとこの処方で問題なかったから」とついつい同じ処方をされていませんか?
抗菌薬の処方は、感染予防のためと歯性感染症治療のための2つ目的があり、それぞれ用法用量が異なります。これからは薬剤耐性や重複投与など不要で過剰な抗菌薬の使用を避けることが求められ、これはSDGsにもつながります。併せて、ロキソニンだけに頼らない鎮痛薬の使い方についても分かりやすく解説いたします。



澁井武夫・教 授 口腔外科 T-83 再確認!歯科開業医における唇顎口蓋裂患者の治療に関して  実はその症例、放置しているかも? 唇顎口蓋裂患者の治療に関しては、外科治療、言語治療、矯正治療が必須であることは学生時代に学んではいるものの、一貫治療に関して正しく理解できている方は少ないと思われます。また、昨今の治療成績の向上により口唇裂・口蓋裂患者と気付かずに治療している症例もあるのではないでしょうか。私はこれまで、「顎裂部骨移植術が施行されないままであった症例」や、「発音障害が残存し手術適応であるにも関わらず、適切な医療が施されずに放置されている症例」を何例も経験してきました。患者本人が治療可能であることを知らなかったことだけが原因だけではありません。皆、歯科治療は受けているのにも関わらず、かかりつけ医から適切な医療機関の受診を勧められなかったことに起因していると思われます。 講演では追加の治療が必要であるのに、放置されてしまった症例をもとにかかりつけ歯科医師としてどのように対応するべきかを解説させていただきます。
T-84 歯科開業医における口腔外科 〜ストレスフリーな治療のために〜 簡単な抜歯だと思って手をつけたら予想以上に困難で、なかなか抜けない。次の患者も待たせてしまっている。やっと抜けたと思ったら出血が止まらない・・・。なんていうことは「抜歯あるある」ではないでしょうか?時間がかかっても、「結果良ければ全て良し」と問題ない症例もあれば、術後出血で再来院となる症例もあります。時にはオトガイ神経知覚異常が生じてしまうことも・・・。その様な事態の対応には大きなストレスを抱えてしまうことになります。なぜその様なことが生じてしまうのでしょうか。それはきっと手術の難易度と、種々のリスク判断の甘さからくるのではないでしょうか。講演ではリスクの高い症例か否か、歯科開業医でどのレベルの外科処置まで許容されるのか、各種ガイドラインの再確認、手術後の経過や合併症とその対応について具体的な症例を提示して皆さんと「ストレスフリーな口腔外科診療」について考えてみたいと思います。
荘司洋文・准教授 口腔外科 T-85 口腔白板症を中心にした口腔がん早期病変の診断と治療 口腔を観察する機会を与えられたわれわれ歯科医師は,日常臨床において口腔粘膜の変化について常に注意を払い,口腔がんの早期発見に努めることが責務の一つであると考えます。口腔は直視直達が可能な臓器であり,潰瘍や硬結を伴う典型的な口腔がんについては視診や触診と言った臨床所見のみで診断が可能です。しかし,前癌病変や上皮内癌などの口腔がんの境界病変,早期病変に対して臨床所見のみで適切に診断することは容易ではありません。特に近年,前癌病変としての上皮異形成の解釈や表在癌の存在などが指摘されており,それらの診断,治療法については私たち専門医の間においても完全な総意が得られているわけではありません。
 本講演では日常臨床で比較的遭遇する機会が多いと思われる白板症を例に,口腔前癌病変および上皮内癌を含む口腔がん早期病変について,用語の解説と当院で行なわれている診断と治療法について解説いたします。



藤城建樹・講 師 口腔外科 T-86 日常臨床に潜む顎変形症 通常、顎変形症治療は外科的矯正治療を行う事が大半でありますが、日常臨床において多数歯欠損を伴う顎変形症患者も存在します。日本は超高齢社会になり8020達成者は非達成者と比べ栄養摂取能力・運動能力・医療費に差がでています。20本無い場合は義歯でも20本維持している機能を持っている事が重要です。8020達成ということは健康寿命を延ばすことでもあり咬合状態、特に骨格性咬合異常を治療することは重要です。
8020達成者の咬合及び顔面形態が正常に近く咀嚼機能が良好であることから、個々の歯の疾患に囚われることなく咬合状態や口腔機能を含む一口腔単位のオーラルヘルスを考えることが8020達成に必要であると報告されています。今回、日常臨床に潜む顎変形症を症例を提示しながら講演させていただきます。



宮下 渉・准教授 矯正歯科 T-87 顔面の正常形態・審美性・魅力度について 口腔外科、補綴、ならびに矯正をはじめとした歯科治療により、患者の顔貌は口元を中心に変化する。また、顔貌の改善を主訴として歯科へ来院する患者もいる。したがって、顔貌の形態変化をともなう治療前後の顔貌評価は重要となるが、臨床の場において顔貌評価は主観的になされることが多い。しかし、術者の主観的評価と患者自身の評価が一致するとは限らず、客観性を有した定量的な評価を行うことが望ましいと考える。
 特に近年は、患者の要望が整容的な分野に及ぶことも多くみられるため、歯科の範囲にとどまらず幅広い情報を持ち合わせる必要がある。以上を踏まえて、古来より試みられてきた顔面審美の基準の確立や顔面の評価・計測方法に加えて、最近の人類学、心理学、および解剖学の報告も交えて、顔面形態の正常形態(normality)、審美性(esthetics)、ならびに魅力度(attractiveness)に関して講演する。



宇塚 聡・准教授 矯正歯科 T-88 日常臨床で活かす開窓牽引と限局矯正 埋伏歯は周囲の歯の位置に影響を及ぼし、不正咬合の原因となることが多いと考えられます。しかし、混合歯列期では歯の交換が遅延することも散見されるため、埋伏歯の存在に気が付かないまま時間が経過し、適切な牽引の時期を逸することで、その後の歯の配列に難渋を来すことがあります。特に、上顎前歯が埋伏すると機能面とともに審美性を大きく損なうものの、適正な時期を逸すると埋伏歯の短根化や、萌出させるスペースが不足するなど大きな問題を引き起こします。そこで、臨床の場面で遭遇しやすい前歯部の埋伏歯に対して、混合歯列期における経過観察時の注意点や埋伏歯を牽引する場合の開始時期および推奨される治療内容について、さらに、保険診療で埋伏歯を牽引できる条件や注意点など、明日からの診療に活かせるように理論と実践を踏まえてご説明したいと思います。
T-89 不正咬合別に考える小児矯正の開始時期について 乳歯から混合歯列期における矯正治療いわゆる早期治療では、将来、永久歯の抜歯や外科的矯正治療への移行を減少させることが可能であるといわれています。さらに、学校歯科検診において不正咬合の項目が存在することからも、この時期に歯列や咬合の異常を主訴として歯科医院を受診する患児は少なくありません。そして、子供の口腔衛生状態に関心が高い保護者にとっては不正咬合に対する不安も大きく、骨格的な不正を有する小児期の矯正治療は一様に早期介入が必要と思われがちです。しかし、乳歯列期から永久歯列の完成まで小児患者の口腔内は多様性があり、発育段階を考慮した治療計画が求められます。そこで、日常臨床で散見される小児患者の叢生、上顎前突、反対咬合に焦点を当て、治療の開始時期や推奨される治療内容について、明日からの診療に活かせるように理論と実践を踏まえてご説明したいと思います。
内川喜盛・教 授 小児歯科 T-90 子どもの口の診かた,考え方 少子化,齲蝕発症率の低下と小児患者が減少している昨今,小児歯科学の存在価値は減少? 数的に考えるとその通りかもしれません。しかし,出生率が減少した分,親の子供への関心はより高くなり,齲蝕予防はもちろん,歯並び,機能などの将来への影響を心配し,診査を希望して来院する割合が高くなり,より高度な知識を必要とされてきています。
小児は成長,発達途中にあり,大人の縮小版ではありません。口腔諸器官の機能の発達,顎顔面の成長は,胎児期から成人に至るまで,それぞれの時期に特徴をもって行われています。したがって,小児期のわずかな異常や障害が将来に大きな不正に移行することがあります。よって定期的な,将来を予想した診査は重要であり,また,指導は機能の発達に適した時期に行うことがより効果的であり,必要となります。
そこで今回,小児期の各時期のチェックポイントとその評価法,また予防と処置法についてお話したいと思います。
T-91 カリオロジー最前線 最新の齲蝕発症の過程やカリエスリスク評価に関したエビデンスは,従来の窩洞形成を中心とした齲蝕処置を変換させるのには十分であり,齲蝕治療の目標を大きく変えつつあります。齲蝕は感染症であり,その原因菌であるミュータンスレンサ球菌の感染による齲蝕原性バイオフィルムの形成から始まります。成熟したバイオフィルムは炭水化物によりpHの低下を生じ,歯の脱灰を起こします。また,唾液の緩衝能によるpHの上昇は再石灰化を歯の表面で生じます。カリオロジーはこの脱灰と再石灰化のバランスをコントロールする学問であり,これにかかわる因子を理解することが重要となります。
今回,ミュータンスレンサ球菌の感染とその病原性,唾液の作用,フッ素の作用とフッ化物の応用について日常臨床に有効な最新知識をまとめ,報告したいと思います。
白瀬敏臣・准教授 小児歯科 T-92 認知と口腔機能から紐解く小児の歯科的対応
― 子どもを上手に治療するためのヒント ―
本学小児歯科を受診する患児は少子化にもかかわらず近年増加しており、その多くは一般開業医からの紹介で占めている。紹介患児は低年齢や多数歯齲蝕等で治療の協力が得られない場合が多く、近年においては全身麻酔下での治療を勧める傾向にある。この理由には、トレーニングは労力の割に効果の確約がない、身体抑制は歯科恐怖症へつながる、治療を早く進めたいなどがある。では、この中から外来でも治療ができる患児をスクリーニングにはどうすればいいのか?筆者は「認知させて学習効果があるか?」、「口腔機能に異常はないか?」の2つの視点から歯科的対応法を選択している。平成30年度の保険診療の改定では、新たに小児の「口腔機能発達不全症」の傷病名が加わり、指導加算の対象となった。今回は、外来でも治療が受け入れられる小児のスクリーニング法と、小児が上手に治療を受けられるようになる簡便で効果的なトレーニング法を解説する。
T-93 もう慌てない!小児の歯の外傷 ―かかりつけ歯科医に必要な知識のアップデート― 小児が歯の外傷で急患来院した場合、早急な対応を迫られ戸惑うことはないでしょうか。乳歯や幼若永久歯の外傷に対する治療方針が明確でないことや、低年齢では歯科的対応が困難なことも、その理由かもしれません。小児の外傷では、歯が歯槽骨中に埋入することがあります。元の位置に整復するべきか? 固定法は? 固定をはずす時期は? 変色した乳歯は後継永久歯の萌出の妨げになる?明確な根拠のないまま治療を進めてはいないでしょうか。小児の歯の外傷は受傷状況により、処置することが必ずしも良好な予後へとつながるわけではありません。小児ならではの成長発育と生体治癒力をいかに利用するがポイントとなります。本講演では、乳歯ならびに幼若永久歯の外傷の対応法について、最近の考え方を解説するとともに、診療時に「やるべきこと / 待つこと」を整理して解説します。かかりつけ歯科医として、子どもたちの笑顔と保護者からの信頼を獲得しましょう。
村松健司・講 師 小児歯科 T-94 外傷歯に対する簡便かつ適切な固定方法 外傷歯の治療方法に関してはガイドライン等に示されているが、実際の臨床においては、低年齢児での外傷も多く、受傷直後で不安を隠せない患児の対応や口腔内の唾液や出血で適切な治療が困難な場合も少なくない。特に脱臼を起こし、動揺を認める歯の固定は困難で、対応次第では歯の動揺が治まらず、予後不良を招き患児の不利益につながる。そこで外傷歯の受傷様式による対応方法を含め、動揺歯に対して簡便かつ適切な固定法を行うにはどうするべきかを臨床症例と図解でわかりやすく説明する。



梅津糸由子・講 師 小児歯科 T-95 口腔ケアから始める医療的ケア児の歯科診療について 現在医療の進歩から医療的ケア児は増加しています。令和3年に医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律が公布、施行されました。地域の小児科を中心に小児在宅医療の連携が広がっています。口腔ケアとは口腔の疾患の予防,口腔の健康の保持,口腔機能のリハビリテーションによるQOLの向上を目指すことです。歯科医師として在宅医療ケアが必要な小児や外出が困難な在宅療養児への出来ることから始めてみましょう。医療的ケア児の歯科治療は,患児も保護者も我々歯科医師も大変です。歯科医師が早期に介入することで歯科疾患の予防,口腔機能の発達,誤嚥性肺炎の防止を支援することができます。
小児在宅医療の現状から小児在宅歯科医療の必要性,実施するための基本的知識や実際の注意点等症例を提示しながら,小児歯科専門医の目から支援方法を提案いたします。本講義は,小児歯科医による小児在宅診療の症例を提示しながら解説します。



菊谷 武・教 授 口腔リハビリテーション科 T-96 口の終い方 ー8020の先に見えてきたものー
人口の高齢化が叫ばれ、医療費、介護費の高騰が叫ばれる中、歯科は60歳代をピークに受診患者を大きく減少させています。人口構成が大きく変わり、歯科疾患の病態も急激に変化していくなか、歯科は外来診療を中心とした、ある意味限られた人へサービス提供を行っているにすぎません。一方で、歯科サービスから見放された在宅療養を行っている患者の口腔内は、荒れ果て、天然歯、補綴物が、口腔内細菌の温床になり、歯肉に噛み込むといった状況です。日本人は女性で12年、男性で8年もの長い間、『不健康寿命』とよばれる時期を過ごさなければなりません。この通院不可能となる期間を、どう支えていくのか?歯科にとって喫緊の課題だと思っています。歯科が社会から見放されないように、、。



田村文誉・教 授 口腔リハビリテーション科 T-97 小児の在宅訪問歯科診療 超高齢社会となり、歯科訪問診療が数多く行われるようになりました。しかし、平成23年度の患者調査によると、ある調査日に訪問歯科診療を受けた在宅患者16,500人のうち0〜14歳の小児は0人という実態にあります。小児患者に対する訪問歯科診療は全く行われていないと言っても過言ではありませんが、その一方、在宅療養中の重症心身障害児は口腔疾患があっても受診できない場合が多く、小児の訪問歯科診療のニーズは想像以上に多いと考えらます。そこで、在宅療養中の重症心身障害児の口腔と摂食嚥下機能を支援することを目的に、地域歯科医師(開業医)と地域の基幹病院の連携システムを構築することが重要となります。患家から近隣にある歯科医院が口腔管理のゲートキーパーとなり、後方支援病院と連携していくシステムが必要と考えらえます。本講演では、地域ぐるみで子どもの口を守り、その子どもの将来的な健康に繋げていけるような連携の取り組みについて、実際の事例を含めてお話ししたいと思います。


高橋賢晃・講 師 口腔リハビリテーション科 T-98 「地域における食支援に対する歯科の役割」 在宅療養高齢者は口腔咽頭機能の低下のために摂食嚥下障害に陥るリスクが高く、重篤化した場合は、低栄養に伴う免疫機能の低下、脱水、窒息および誤嚥性肺炎を引き起こし、予後不良になりやすい。よって、摂食嚥下障害が顕在化する前の早期における適切な機能評価、安全な食事の提供が重要となる。
実際、家族やケアマネジャーからの摂食嚥下評価の依頼を受けて、訪問診療を行うケースがあるが、摂食嚥下障害が顕在化した状態では、全身状態も低下していることが多く、積極的な訓練やリハビリテーションを行うことが難しいことが少なくない。つまり、かかりつけ歯科は、口腔機能の軽微なおとろえを察知して、機能評価を行い、関係職種への働きかけを行い、多職種協働の中で食支援に携わる必要があると言える。本講演では、食べる機能の評価のポイントや適切な対応法について紹介し、地域の食支援に対する歯科の役割について考えていきたいと思う。



戸原 雄・講 師 口腔リハビリテーション科 T-99 食べることを歯科がどう支えるか 口から食べることは生命維持の方法、それ以上に人生の楽しみやコミュニケーションとして極めて重要な意味を持つ。様々な疾患を持つ高齢者は全身の機能が低下するとともに食べる機能が低下した結果、口から食べ物を取る、水を飲むことが難しくなる場合があり、適切な対応を誤嚥性肺炎や窒息などの生命に係る問題を引き起こすことがある。本年4月から導入された口腔機能低下症の病名が導入された。これは歯科に対して国民の安全で楽しい食事を支えるため、口の機能自体そのものにアプローチをしてほしいということの期待の表れである。安全に食べるためには適切な摂食嚥下機能の評価と、評価に基づいた対応を行う必要がある。摂食嚥下機能の評価には精密検査と、外部観察があるが、実際の食事場面を観察し、食べることの問題を抽出するという外部観察は非常に有益である。食べる機能の評価と問題点に対しての対応を行うかを学んでいきたい。 T-100 これでわかるミールラウンド
食事を口から食べること、これは人間として生命を維持するための極めて重要な行動であるとともに、人生の最も重要な楽しみである。国民が安全かつ楽しい食事をすること、これを守ることは我々歯科医療従事者の責務である。嚥下の評価として、嚥下内視鏡検査や嚥下造影検査のような精密検査が代表的だが、あくまで精密検査は検査の場面における評価である。実際には、どのような食べ物を、どのような方法で、どのような環境で、どれくらいのペースで食べているかといった外部観察が重要であり、外部観察をもとに多職種と連携することで患者の食べる安全を守っていくことは十分に可能である。特に施設においては集団生活の場であることから、短時間多くの患者の評価が必要となるためミールラウンドが有効である。今回は外部観察の方法、多職種とのカンファレンスの方法、カンファレンスを通じてどのようなプランを立てていくかといった方法について学んでいきたい。
山田裕之・講 師 口腔リハビリテーション科 T-101 子どもの歯科訪問診療 子どもの歯科訪問診療は、誰に何をするのか?そんな疑問が浮かぶかと思います。しかし、実際に在宅に行ってみないと解からないことが多いと思います。そこで、歯科訪問診療を必要としている子どもは、どんな子どもなのか確認していきます。また、誰が何のために歯科が必要とされているのか?主訴に対して何をすれば良いのかも含めて考えていきます。在宅で過ごす子どもが風邪を引いた場合は、近所のかかりつけ医へ外来で通える環境がないため、在宅主治医が訪問診療しています。歯科はどうでしょう?子どもの訪問診療を行っている件数は、増えては来ていますがまだ少ないです。子どもの歯科訪問診療は、在宅で過ごす子どもの笑顔をつくる仕事です。誰に何をするのか?がわかれば、子どもの多職種連携の輪に歯科が参加でき、より、子どもの歯科訪問診療が広がると考えております。
T-102 子どもの摂食機能から診た口腔機能管理 子どもの食べることに関して、歯科からは2つの病名でアプローチできます。『口腔機能発達不全症』と『摂食機能障害』です。何が違うかと言うと、健常児で食べることに困っている場合は、『口腔機能発達不全症』を疑い、チェックリストを用いて評価して診療します。一方、食べることに支障が出る疾患がある子どもには『摂食機能障害』で診療します。口腔機能管理は、口腔衛生管理ではないため、どの様に口腔機能を管理すれば良いのかは、診慣れていないと難しいところです。また、口腔機能の発達や習熟をしていない子どもを対象に、口腔機能の発達を支援するので、対応方法は成人とちょっと違ってきます。
 そこで、子どもの摂食機能をから診た口腔機能管理を、『口腔機能発達不全症』『摂食機能障害』の視点から基本を学んでいきましょう。
児玉実穂・講 師 口腔リハビリテーション科 T-103 妊娠期の口腔環境の変化と歯科治療 妊娠をすると胎児が順調に発育するように女性ホルモンが増加して、女性の体に変化がみられるようになる。女性ホルモンの増加は口腔内にも同様に影響を及ぼし、妊娠関連歯肉炎などを引き起こす。また、つわりの影響で口腔清掃が不良になったり、後期には増大した子宮に胃が圧迫されて少量頻回の食事を摂るようになり、口腔環境は悪化する。妊娠してからでも母親の口腔環境を整えることで、生まれてくる赤ちゃんへのミュータンス菌の母子伝播を遅らせることができる。しかし、妊娠自体は疾患ではないが、胎児時への影響を考え、妊婦の歯科治療を踏みとどまる傾向がある。以上より、本講演では安心して妊婦の歯科治療を行えるように、妊婦の体・口腔環境の変化や歯科治療時の注意事項について述べる。 T-104 摂食嚥下機能の獲得と食支援 口から食べるためには、歯が萌出して口腔環境が整うだけではなく、舌など口腔機能の発達や、手と口の協調運動などの発達が必要となる。また、成長発育は個人差が大きく、教科書通りの暦年齢に合っているわけではない。障害が伴えば更に差が大きくなる。口腔機能に合った食形態が提供されないと、間違った摂食嚥下機能を獲得する可能性が出てくる。以上より、本講演では摂食嚥下機能の獲得順序と見極め方、機能に合った食形態について述べる。
町田麗子・講 師 口腔リハビリテーション科 T-105 一次医療機関が担う障害児の摂食嚥下リハビリテーション ―外来・在宅― 摂食嚥下リハビリテーションの分野においては、他職種連携が重要であるのに加え、歯科においても一次医療機関と高次医療機関との連携が欠かせない。そこで、一次医療機関として外来や在宅で行うことのできる摂食嚥下リハビリテーションを学ぶ。 障害児に対する摂食嚥下リハビリテーションの評価は、実際の安静時や食事場面の外部観察評価や、特別な機器を必要としないスクリーニング検査が中心となる。そして、その評価をもとに、必要な食環境や食形態、機能訓練などを指導する。この一連の流れは、外来通院が可能な子どもだけでなく、在宅で医療的ケアを日常的に必要とする通院困難な子どもでも同様である。ともに、嚥下造影検査などの精密検査や、摂食嚥下リハビリテーション計画の立案などは、随時、高次医療機関と連携して進めることもできる。子どもの食べる機能は、障害の有無に関わらず、多くはその機能がゆっくりではあるものの、力強く成長していく。その過程において、悪習癖を身につけることなく育むことが指導の重要なポイントとなる。障害児の食べる機能の育ちに対する地域医療が充実することを期待したい。
T-106 子どもの食べる機能を育む
子どもの哺乳や食事は、毎日の楽しみであると同時に、保護者の心配や困りごとにもなる。また、食事時の問題は、障害児だけでなくどの子どもにも起こりうる可能性がある。さらに、「食べる、飲む」機能が獲得されていく乳幼児期の子どもは未熟であり、子ども自身と保護者が会話などのコミュニケーションを通じ、その困りごとを解消していくことは困難である。そのため、保護者が子どもの食べる機能の成長を知りながら日々の食生活の困りごとに対応していくことが望まれ、歯科はその指導を担うことができる。食べる機能の発達を踏まえ、まずは子どもの哺乳や離乳など食べることに関する困りごとが、どのような発達段階の遅れや問題であるのかを外部観察評価や特別な機器を必要としないスクリーニング検査などから評価する。そしてその評価をもとに、必要な指導(適切な食形態の選択、食事介助方法、筋訓練など)を選択する。地域の様々な子どもたちの食べる機能の育ちの支援をするために、その発達過程における問題と対応を学ぶ。
柳井智恵・教 授 口腔インプラント診療科 T-107 内科疾患患者のインプラント治療をより安全に進めるためには 超高齢社会を迎え、高齢者にインプラントを埋入する機会が増えています。インプラント治療をより安全に進めるには、患者の全身疾患を十分に理解することが重要と考えます。演者はインプラント治療やその関連手術を行うにあたって特に注意を要する内科疾患について解説いたします。 T-108 知っておきたいインプラント治療のための骨造成法 
ー外科手術の基本手技から臨床応用までー
近年、インプラント治療は予期性の高い治療法として、歯の欠損症例のみならず、外傷や腫瘍などによる顎骨欠損症例までも幅広く応用されています。実際、日常臨床においてインプラント治療を行うにあたり、しばしば骨造成を要するケースに遭遇することがあります。今回、演者は口腔外科の立場から、骨造成をより安心・安全に行うために、知っていただきたい様々な骨造成法の基本知識や外科の基本手術手技、そして注意すべき局所解剖や偶発症などについて解説するとともに、臨床症例をも供覧いたします。
小倉 晋・准教授 口腔インプラント診療科 T-109 インプラント治療のトラブルシューティング インプラント治療は欠損補綴の第1の選択肢であるといっても過言ではない.しかし,他の歯科分野と比べてまだまだ歴史が浅いにも関わらず,トラブルに至っている症例・事例が散見される.現在,我が国で使用できるインプラントは約30システムであり当院にも様々なシステムのインプラント治療後の問題を主訴に来院する患者も少なくない.
 本講演では,大学病院での問題時の対応方法の概要を例に挙げ,再度,安心・安全なインプラント治療を行う際の診査診断,治療計画の重要性を確認したい.



安藤文人・准教授 歯学教育支援センター
矯正歯科併任
T-110 医療安全 歯科診療における誤飲・誤嚥 先生方はインレーやクラウン等を患者さんに飲ませてしまった場合,どのようになさっているでしょうか。『何かあったら連絡してください』と説明して,その後問題が生じないことがほとんどでしょう。実は,日本における不慮の死亡事故件数1位は窒息で,窒息の原因1位は誤飲・誤嚥,その中で歯科関連が2番目に多いという事実があります。誤飲・誤嚥は歯科領域では歯科治療中に発生することがほとんどです。すなわち医原病の様相を呈しています。それゆえ適切な予防策により防ぐことが可能で,逆に適切な対応を怠ると訴訟に発展する可能性があります。歯科での公表されている事例から,異物が自然排出して数万円,内視鏡による取り出しで数十万円,外科的摘出で数百万円の賠償金が必要とも報告されています。
 講演では,誤飲・誤嚥事例の概要と転帰等についてお話させていただきたいと考えております。



小林隆太郎・教 授 東京短大・口腔外科併任 T-111 口腔がんを見落とさない  色と形からみる口腔粘膜病変 口腔粘膜に発生する病変に「気づき見落とさないこと」は、歯・歯周組織を管理するのと同様に重要なことです。現在、日本では年間約7,000人以上が口腔がんに罹患しているといわれています。年々増加し今後もその傾向がみられるようです。口腔がん検診も地域的、組織的に展開されていく方向ではありますが、私たちが、日常の臨床の場で、まずは「見落とさないこと」、「発見すること」、「相談に対応出来ること」がとても大切だと考えます。口腔がんを知ることは、まず口腔粘膜病変を知ることから始まります。まず目に飛び込んでくるのは「色」そして「形」という情報です。講演では「白」「赤」「黒」「黄」「紫」という色を基本に、多くの症例について先生方と確認していき、日常臨床に直ぐに役立つ内容にしたいと考えています。 T-112 ウイルスに対抗する歯科の重要性 ウイルスと口腔の関係について、「口腔内細菌が出すタンパク分解酵素は、ウイルスが口腔粘膜細胞の中に感染することを促進する」と考えられ、特に歯周病菌は強力なタンパク分解酵素を持っています。そこで、新型コロナウイルス感染症またその重症化などのメカニズム、そして今後の院内感染対策など多岐にわたり考えていきたいと思います。また今後の歯科界の展望についても、口腔健康管理をテーマにその潮流についてお話をさせていただきます。