演 者 名 所 属 演題記号1 演題 抄 録 演題記号2 演題2 抄 録2
岡田康男・教 授 病理学講座 N-1 口腔がん 第一発見者になるために 口腔粘膜疾患には腫瘍,腫瘍類似疾患,自己免疫疾患,感染症,色素沈着,先天性疾患や口腔に症状をきたす全身疾患などがある.しかし,今日ではさらに薬剤の副作用や感染が加わり,病態がより複雑化しており,診断を困難にし,治療に苦慮することがある.口腔粘膜疾患を幅広く知ることは,口腔がんや全身疾患の部分症の早期発見につながり,日常臨床上,重要な意味を持つ.そこで,口腔がんを含め遭遇しやすい口腔粘膜疾患について,口腔病理専門医・指導医としての病理診断所見に加え,口腔外科専門医・指導医としての診療経験から得た臨床所見,検査から診断のポイントをわかりやすい内容で講演する.また,当教室が推進する肉眼診断,口腔内写真撮影による口腔がん早期発見のための粘膜検診の紹介,細胞診の実習も行う。 N-2 口腔内細菌叢(フローラ)のバランス破綻はどうなる
口腔内細菌叢(フローラ)は人類が長い年月をかけてヒトの口腔内環境に適応し,癌を含め,様々な疾患発現を抑制するシステムを構築してきた.演者のこれまでの研究から,口腔内フローラの異常(バランス破綻)により細菌が産生する癌増殖・抑制関連因子にもバランス異常をきたし癌発生に至ると考えている.そこで当教室で行っている口腔内細菌のDNA塩基配列・分子系統解析(16S rRNA)の結果をもとに,口腔癌におけるフローラのバランス破綻,多様性について,また,癌の大きさ,頸部リンパ節転移有無,組織学的悪性度の違いによるフローラの特徴についてわかりやすく解説し,さらに口腔癌発生を抑制する秘策についてもこれまでの研究結果にもとづき講演する.
柬理ョ亮・講 師 病理学講座 N-3 病理学よ、もう一度!唾液腺疾患編 嚢胞、歯髄炎、扁平上皮癌、多形腺腫、腺様嚢胞癌…学生時代、顕微鏡の操作に悪戦苦闘しながらプレパラートを観察し数々の疾患症例を苦労してスケッチした病理の実習帳。今、どちらにお持ちですか? 病理学講座では開業歯科から紹介される様々な口腔疾患に対応し、日夜診断の精度の向上を目指しています。今回は唾液腺疾患を中心に炎症性疾患、良性腫瘍、悪性腫瘍に大別し実際に当講座が診断してきた典型的な病理組織像と口腔内所見とを照らし合わせながら診療にあたって留意すべきポイントをわかりやすく解説いたします。また、近年の観察方法の変遷について当講座で学生教育に用いているVirtual Slide TMを実際に操作しながら知っていただきたいと思います。この機会にかつて接眼レンズの向こう側にみえた組織変化の世界を再び見直してみるのはいかかでしょうか


二宮一智・教 授 薬理学講座 N-4 「高齢者・有病者の留意点」 歯科治療時の偶発症は、そのほとんどが予防可能であること、また、ひとたび発症した偶発症に対する処置は、専門的な技能を要することも多いことから、偶発症の発生を未然に防ぐことは極めて重要です。超高齢化社会の到来や医療形態の変化に伴い、歯科医院を受診する患者さんも多様化しており、必然的に歯科治療に配慮すべき事項も多くなっています。一般の歯科治療において、適切な医科歯科連携により患者の全身状態や治療歴を正確に把握することが求められます。そのためには、必要な診療情報を得るための医学的基礎知識の修得がきわめて重要となります。当大学における医療安全の状況を紹介するとともに、有病者の歯科治療において、疾患・病態ごとの予防策や対処法、更に偶発症が発症した時の一般的な対処法について説明します。 N-5 いわゆる歯科用金属アレルギー患者の治療の現況 歯科用金属アレルギー患者に対する診査、診断と治療に関して当病院の歯科アレルギー治療外来の現況を紹介する。内容は(1)アレルギー疾患の基礎(2)診査・診断法(3)皮膚・粘膜関連疾患の概要(4)歯性病巣感染との鑑別(5)口腔内金属は交換するべきか?否か?のポイント(5)歯科アレルギー治療外来の現況
小松ア 明・教 授 衛生学講座 N-6 幼児期における効果的な口腔管理手法と歯科保健指導 近年,年少人口の減少とともに幼児を対象とする継続的な口腔管理の重要性が注目されるようになってきた。特に幼児期には、継続的な個人口腔保健管理と、セルフケアの
習慣形成が重要視されている。本講演では、保育園園を対象として実施した連絡帳型口腔管理手法を紹介し,レーザー透光型機器を活用した咬合管理から得られた口腔診査のポイントについても解説する。また、保育園での指導管理と歯科医院での専門的管理の連携について考察を図り、地域に貢献できる歯科医院の今後の姿と,地域歯科保健活動の未来を考えてみる。



小野幸絵・准教授 衛生学講座 N-7 衛生学の立場から患者さんに伝えるべきこと 「歯科医師は、歯科医療及び保健指導を掌ることによつて、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする。」と歯科医師法第1条に規定されています。このことからわかるように歯科医師にとって公衆衛生の知識は必要不可欠であります。臨床が診断と治療に重きをおいているのに対して衛生学は予防に重点をおき、あらゆる健康状態の人を対象としています。私たち歯科医師が臨床と衛生学との関係を認識し、現在の歯科疾患の疫学的特徴、地域における保健活動などを知ることは臨床の場で患者さんに接する上で重要なことと思われます。本講演では現在の衛生学がどのように臨床にリンクし、患者さんに治療・説明するうえで重要かをお話してみたいと思います。


大熊一夫・教 授 歯科理工学講座 N-8 精確な補綴装置を作製するには!!
長期的な臨床的成功に補綴物の精度は大きな因子である。補綴装置に用いる材料も金属材料から、高密度焼結体の無機材料のジルコニアに変わってきた。鋳造によって製作される金属製補綴装置は、MODインレーような異方性の補綴装置を吸水ポリマーと穴開き鋳造リングを用いて、精度を高くしてた。また近年、審美性とメタルフリーの要求から、ジルコニアの高密度焼結体が補綴装置材料に導入されてきた。半焼結ブロックから切削加工し、後に焼成する作製工程は確立されているが、コントロールできない焼成時(20 30%の収縮)の歪みを大きなセメント層で対処しているので、オールセラミッククラウンの精度は劣る。そこで、完全焼結したジルコニアブロックからNd:YVO4レーザーで直接切削加工することにより、精度の高い補綴装置の作製を可能にした。補綴装置の材料および製作法の歴史的観点から、補綴装置の精度について詳しく解説したい。



五十嵐健輔・講 師 歯科理工学講座 N-9 口腔内スキャナーの現状とこれから 補綴装置を製作するにあたり、従来の印象材を用いる方法では印象材や石膏模型に変形が生じ、口腔内の状態を精確に表せていない。これまで、従来の製作方法が臨床で大きな問題を生じていないが、今後はさらなる精度が要求される。近年、歯科医療のデジタル化が発展し、口腔内スキャナー(Intra Oral Scanner: IOS)が応用されている。IOSは印象材を用いず、印象採得の時間を短縮できることから、患者負担を軽減できる。また、印象のデータ化が可能なため、補綴装置の再製作が容易となる。そのため、高齢化の進行で増加が予測される印象材の誤嚥や義歯の紛失に対応でき、さらなる歯科治療への導入が期待されている。しかし、IOSの精度は度々問題視されており、いまだに明らかとなっていないことが多い。そこで、本講演ではIOSの現状とこれからの発展の可能性に関して、当講座の研究と照らし合わせながら解説をする。



両角俊哉・教 授 歯科保存学第1講座 N-10 歯周治療における抗菌薬適正使用と光治療の応用 歯周病の主たる原因はデンタルプラーク(デンタルバイオフィルム)であり、予防や治療の基本原則はあくまでも機械的除去療法によるプラークコントロールです。一方、補助的なアプローチとして、抗菌薬・消毒薬・洗口薬等といった化学的プラークコントロールも日常臨床に根付いています。しかしながら、それらをどの時点で使用するか、どの薬を用いるかの判断は、経験則に基づいていることが多いのではないでしょうか。近年、抗菌薬の濫用による薬剤耐性菌出現が大きな社会問題となっています。本講演では、日本歯周病学会ガイドライン作成委員としての立場から、科学的根拠に基づいた抗菌薬の適正使用について解説いたします。加えて、「歯周治療が引き起こす菌血症とその対策」、同様に殺菌効果を有する「光治療(Er: YAGレーザー、フォトダイナミックセラピー)」についても触れ、この領域の情報整理を試みたいと思います。
N-11 歯科治療に伴う菌血症が生体に及ぼす影響と予防対策 歯周基本治療の目的は、歯周ポケット内からバイオフィルム(病因因子)や歯石などリスクファクターを可及的に排除することで歯周組織の炎症を改善し、その後の歯周治療の効果を高めることです。しかしながら、処置時にバイオフィルムがポケット内上皮の潰瘍面に押しつけられ、細菌が潰瘍面に露出した毛細血管に流入し、全身に拡散してしまうことがあります。すなわち「菌血症」の発生です。我々はこれまでに、@1/4口腔SRP後に高頻度で菌血症が起きること AEr: YAGレーザーを用いることで菌血症発生を予防できること BフルマウスSRPの 1日後に全身性急性期反応が起きるが、抗菌薬(アジスロマイシン)の事前投与で抑制できること を明らかにしてきました。本講演で、菌血症が禁忌となる感染性心内膜炎のリスクを有する患者への対策など、臨床現場で留意すべき事項と対策についてお話させていただきます。
北島佳代子・准教授 歯科保存学第1講座 N-12 近年の根管事情を踏まえた効果的な歯内治療〜ステンレススチール(SS)ファイルとニッケルチタン(NiTi)ファイルを上手に使い分ける〜 根管拡 形成 のSS製 リーマーやファイルは、国際規格(ISO)により刃部先端の 度、刃部の さ、テーパー等が規定されており、形状に基づいたリーミングやファイリング操作を うことにより理想的な拡 形成が可能であり、同規格のガッタパーチャポイントを正しく選択・調整することで緊密な根管充填と良好な予後が期待できます。しかし狭 な湾曲根管では、プレカーブやステップバック法などを いても、時に困難を極めます。一方、超弾性の形状記憶合 であるNiTi製ファイルは、湾曲根管の拡 形成に威 を発揮しますが、切削効率を めるために専 のロータリーエンジンに装着し、回転させて いるのが基本です。その際、破断抵抗を高めるためにファイルの断 形状やテーパーはメーカーによって特徴があり、必ずしもISOに準拠しているわけではありません。本講演では、石灰化傾向の強い根管が増加している近年の根管事情を踏まえ、SSファイルとNiTiファイルを上 に使い分け、効率的で安全な根管拡 形成と化学的清掃消毒、無菌状態維持のための緊密な根管充 を うためのポイントについて考えてみたいと思います。  N-13 高齢化社会に多発する狭窄根管へのアプローチ〜進化した根管治療の現状〜 近年、 腔衛 の向上、予防 科医学の発達、 の保存の推進などにより の寿命が延 し、ブラッシング励 の結果、 若を問わず、根管 部の 灰化、狭窄、閉鎖傾向の著しい が増加し、根管探索の困難な症例が増えています。さらに 齢化社会を迎え、根管の加齢変化に加え、 期にわたる機械的・冷温熱的・化学的刺激、齲触による細菌学的刺激、 周疾患の影響などによる狭窄傾向はますます強くなると予測されます。このような に対する 内治療は困難を極めますが、その成功の可否はその後の補綴治療を含め、 分の で 涯にわたり く咬むというニーズに反映することになります。必要のない根管治療は避けるべきであり、必要な治療は予後も含め成功率を めなければなりません。そのためには、 内治療の必要性の有無を正しく判断し、治療上の注意点を把握することが 切です。本講演では、最新の 内治療 機器を紹介しながら、 狭窄根管に対する効果的な根管治療のポイントを解説したいと思います。
佐藤友則・准教授 歯科保存学第1講座 N-14 歯内治療はなぜ長引く事が多いのか 日々の臨床で、診断に苦慮し、解剖形態や様々な誘発因子が、歯内治療において大きな障壁となっています。日進月歩しながらも、今昔抱える問題も多い分野ですが、その際、「解剖学的特徴」、「悪習癖等による咬合誘発因子や歯質の脆弱化」、「切削器具における拡大形成の目安と操作」、「丁寧な根管洗浄」、「症状にあわせた貼薬選択」、「根管形態にあわせた緊密な根管充填」、「無菌的操作」を考慮され進めているでしょうか?常識的な事かもしれませんが、歯内治療における難治化、難症例と言われるものでは、いずれかの欠如で長期症例になっているものも少なくありません。本講演では、これらを取り巻く環境の対応、注意点を交えながら歯内治療の基礎的分野から日常臨床での症例をお話させて頂く予定です。 N-15 歯科医師臨床研修制度の現状 平成18年度から歯科医師臨床研修制度が必修化され、現在の法制度では、卒後1年目の歯科医師は前年の秋に行われるマッチングシステムにより決定した研修施設で、管理型施設を中心に、協力型施設との協力のもと研修を行っています。また本制度は5年に一度の見直しが行われ、研修制度の充実化に向け様々な取り組みが行われています。歯科保健医療を取り巻く環境変化とともに、様々に変化している事も周知しなければ行けません。そこで本講演では、歯科医師臨床研修制度の現状と変遷、新潟病院における臨床研修について、協力型施設で行われている研修状況など研修指導医、研修歯科医から寄せられた意見も交え講演させて頂きたいと思います。
新井恭子・准教授 歯科保存学第1講座 N-16 実験結果からみたNiTiファイルの使用法について 超弾性を有するNiTiファイルによる根管拡大形成は、術前の根管の湾曲に沿って行うことができ、拡大形成前後の根尖孔の位置のずれが起きにくいことが分かっています。そのため湾曲根管の拡大形成に優れており、術者のスキルに関係なく良好な拡大を行うことができるため、日本でも普及が進んでいます。また、ファイルのテーパー、断面形態、使用方法、材質、トルクコントロールエンジン等の改良がなされ、現在でも進化を続けています。当講座では、主なNiTiファイルについて、透明湾曲根管模型を用いて実験を行い、その結果からNiTiファイルによる拡大形成後の根管の形態、拡大時にかかる荷重の大きさ、NiTiファイルの利点と欠点などについて考察を行ってきました。そこで、本講演では、当講座の実験結果に基づき、NiTiファイルの効果的な使用法について解説をしたいと思います。


佐藤 聡・教 授 歯周病学講座 N-17 歯周組織再生療法と審美的改善を考慮した歯周外科治療法の臨床応用 歯周外科治療では、歯根面に残存する感染源を除去し臨床的アタッチメントレベルを改善、さらにプラークコントロールの行い易い環境へと歯周組織を再構築することが求められる。従来この目的を達成するための術式として歯周組織再生誘導法(GTR法、エムドゲイン等)などを含む歯周ポケット減少法が臨床応用されてきた。近年、歯周治療、インプラント治療を含む歯科治療全般にわたる患者側の要求の多くは、疾患に対する原因の除去、機能回復に加え審美的な改善にある。日本国内においては、メンブレンを用いたGTR法が2008年から保険導入され、さらにエムドゲインを用いた再生療法も先進医療として承認され、臨床応用されるに至っている。
今回は、従来臨床に応用されている歯周組織再生療法に加え、審美的改善を目的とした露出歯根面に対する術式などのティッシュマネージメントの基本となる適応症とその術式、さらにその予知性について紹介をする。
N-18 メタボリックシンドロームと歯周病との関係 〜口からはじまる体の健康〜 歯周病の罹患率は、平成17年歯科疾患実態調査によると45〜54歳で88%と高い水準となっている。歯周病は口腔内に棲息する細菌に対する歯周組織局所の生体防御機構の反応により炎症が惹起されるバイオフィルム感染症といわれている。さらに歯周病の発症または進行過程では、バイオフィルムの感染に加え、環境因子、宿主因子が関与している。一方、メタボリックシンドロームは、内臓脂肪症候群などと呼ばれ国内において2005年の内科系8学会の診断基準でも内臓脂肪型肥満を基本に血糖、脂質、血圧の異常の内2項目以上あるものと定義されている。2005年の国民健康調査では慢性歯周炎の発症時期とほぼ同じ40〜70歳で有病者920万人と考えられている。今回は、歯周病の病態とその発症のメカニズムを通し、近年明らかとされてきたメタボリックシンドロームとの関係を解説するとともに、歯周治療における予防と炎症のコントロールについて述べたい。
水橋 史・教 授 歯科補綴学第1講座 N-19 口腔機能の評価と対応 口腔機能には、咀嚼、嚥下、発音などがありますが、高齢者はう蝕、歯周病、義歯不適合に加え、加齢や全身疾患によって口腔機能が低下しやすく、オーラルフレイルを生じやすいです。オーラルフレイルは放置すると咀嚼障害や摂食嚥下障害をもたらし、全身的な健康を損なう原因となります。補綴装置を装着することの大きな目的として咀嚼機能の回復が挙げられますが、咀嚼機能を維持・回復できているのか、客観的に評価を行いながら補綴治療を行うことが大切です。この講演では、明日からの臨床で使える口腔機能低下症の検査と評価について解説するとともに、補綴装置装着者の口腔機能として咀嚼機能と咬合力についてお話したいと思います。現在の超高齢社会において適切な検査と介入によりオーラルフレイルを予防し、健康寿命を延伸できるよう日常臨床に活かして頂きたいと思って居ります。 N-20 スポーツマウスガードの設計・製作 近年の予防歯科の発展により、齲蝕や歯周病による歯の喪失は減少してきている一方で、スポーツ外傷は増加傾向を示しています。スポーツ外傷は1年間に約10万人が受傷しており、その予防にはスポーツマウスガードの装着が有効です。スポーツマウスガード装着により、歯、口腔軟組織、顎骨や顎関節の傷害防止効果、脳振盪の防止効果のほか、競技者が本来の力を発揮できる効果を期待できます。この講演ではスポーツマウスガードの種類と材料、設計および構成する咬合接触関係、製作方法、調整と指導について、スポーツ競技による違いも含めて解説させて頂きます。明日からの臨床で使える、スポーツマウスガードの設計および製作法を習得して頂き、日常臨床に活かして頂きたいと思って居ります。
渡會侑子・講 師 歯科補綴学第1講座 N-21 新たな下顎位安静位誘導法と安静空隙量設定の指標について 適正な下顎位で咬合採得をすることは、顎口腔系と調和した歯科治療を行ううえで重要であり、その際に臨床では、機能的決定法である下顎安静位利用法が広く用いられています。下顎安静位への誘導法では、安静時における患者固有の下顎位を維持させる方法が主に用いられていますが、下顎安静位は頭位、身体姿勢など、様々な因子によって変化するといわれております。よって、適正に咬合高径を決定するためには再現性の高い下顎安静位誘導法が必要となります。また、咬合高径の決定に用いる安静空隙量には個人差があるとされており、適正に咬合高径を決定するには、個人に適した安静空隙量を用いる必要があります。そこで、本講演では、新たな下顎安静位誘導法として閉口時口唇接触位による方法の有用性と、各個人の適正な安静空隙量を設定するための基準として上唇赤唇部の面積が有効であることについてお話させていただければと存じます。


上田一彦・教 授 歯科補綴学第2講座 N-22 トラブル症例から学ぶインプラント治療 現在,インプラント治療は欠損修復法の1つの治療オプションとして日常臨床に広く取り入れられ,口腔関連QOLの向上に重要な審美,機能回復において治療後の患者満足度は高いものになっています.その反面,インプラント治療において様々なトラブルが起っている事実もあり,なかでも上部構造に関するものは,頻度が高いとの報告があります.そこで今回,私が新潟病院口腔インプラント科にて経験した上部構造関連をはじめとする種々のトラブルについて,また,そのトラブルについてどのように対処したかを供覧させていただき,皆様とともにインプラント治療について考えてみたいと思います.
N-23 審美補綴歯科治療における固定性補綴装置を考察する 現在,補綴歯科治療における急速なデジタルトランスフォーメーションにより,治療方法,補綴装置製作材料および方法が目覚ましく進化しています.なかでも1990年代より本格的に臨床応用が開始されたジルコニアは,時代時代に必要とされた異なる諸性質を有した多くの種類のものが開発され,現在,臨床応用されています.補綴歯科治療において最も重要なことは,患者にとって補綴装置装着時が治療のゴールではなく,審美・機能回復のスタートであることを我々は十分に認識することです.そのため,補綴装置の材料選択や形状について,長期安定した状態を維持出来るよう熟慮の上で治療を行う必要があります.そこで今回,審美補綴歯科治療におけるジルコニアを用いた固定性補綴装置を中心に,長期安定した良好な治療結果の獲得に必要な事項は何かについて,皆様と一緒に考えてみたいと思います.
瀬戸宗嗣・講 師 歯科補綴学第2講座 N-24 CAD/CAMが主流となった現在の補綴歯科治療の流れ 近年,補綴歯科治療におけるデジタル化は目覚ましいものがあり,印象採得,補綴装置の製作や,インプラント治療における術前シミュレーションソフトなど,臨床で使用頻度の高い作業が精度よく簡単にできるようになりました.そのデジタル化の恩恵の一つであるCAD/CAM法は,工業的に均一に製作されたブロックやディスクを削り出して製作するため,材料が本来もつ優れた物性をそのまま引き継いだ補綴装置の製作が可能となりました.2014年より,ハイブリッド型コンポジットレジンブロックから削り出される,いわゆる「CAD/CAM冠」が保険導入され,その後適応症は拡大し,現在ではCAD/CAMインレーが保険適応されました.本講演では,各種CAD/CAMで製作する材料の物性や製作方法,支台歯形成から接着方法など,基礎と臨床のポイントを,臨床例を交えて話をさせていただき,皆様と一緒に考えてみたいと思います.
N-25 インプラント治療における長期的な安定を獲得するために必要なこと 欠損補綴において長期的な安定を獲得することは,患者にとって重要なことです.特に患者のQOLの向上につながりやすいインプラント治療は,欠損補綴に必要不可欠な治療と言って過言ではありません.しかしその裏で,インプラント治療に対するさまざまな偶発症が存在しています.知識と経験で解決できる偶発症も存在する一方,対処法を知らないことにより新たな偶発症が起きてしまう現状があります. どのようなポイントを考慮し治療計画を立案し,外科手技や補綴材料をどのように選択するべきなのでしょうか.そして,治療後のメインテナンスをどのように行うべきなのでしょうか.本講演では,私が日本歯科大学新潟病院口腔インプラント科で経験した症例や,口腔インプラント治療の経験の少ない先生が起こしやすい偶発症を提示し,その要因を考察し長期安定性を獲得するためにどのようなポイントを考慮するべきか皆様と一緒に考えてみたいと思います.

田中 彰・教 授 口腔外科学講座 N-26 地域包括ケアシステムに向けた歯科診療所のあり方と基本的な知識 現在、各地域において地域包括ケアシステムの構築が進められている。これは、要介護高齢者が、住み慣れた地域で最後まで暮らせることを目的に、医療・介護・予防・住まい・生活支援などの様々なサービスを一体的に提供する体制で、様々な職種が関わりながら、各地域で体制づくりが行われている。この実現に向けて、急性期医療と在宅医療、医療と介護・福祉の連携強化が重要となり、歯科も医療介護ネットワークの一員としての役割分担が求められている。地域の歯科医師に対して、患者にとって生涯を通じて身近な「かかりつけ歯科医」としての医療機能の向上への期待が高まっている。歯科疾患の管理が必要な患者に対し、定期的かつ継続的な口腔の管理を行う高度な診療機能と医療環境が求められるようになった。本講演では、来るべき新時代にマッチした歯科医師として求められる種々の基本的事項として、システムの概要と必要なスキルを概説したい。 N-27 日常臨床で遭遇するがん患者の口腔症状と口腔管理 各種がん治療で様々な要因から発生する口腔環境の悪化と継発する合併症により、治療完遂率の低下や治療(入院)期間の延長、QOLの低下が生ずることが問題視され、がん患者の口腔衛生・歯科的管理の重要性が増している。特に周術期や抗がん剤治療、造血幹細胞移植等における感染防止予防策、口腔粘膜炎軽減策として、口腔管理・口腔ケアが注目されている。平成24年4月の診療報酬改定により、がん患者等の周術期等における歯科医師の包括的な口腔機能の管理等が評価され、周術期口腔機能管理料などが新規収載された。全国各地でナショナルテキストを用いた医科歯科連携講習会による研修が行われているが、内容は多岐にわたり、実際の臨床では不安材料も多いのが現状である。そこで、新潟県立がんセンターにおける医科歯科連携の経験から、周術期口腔管理の要点と基本的な対応について平易に講演する予定である。
佐久間要・講 師 口腔外科学講座 N-28 抗血栓療法患者における外科処置の注意点と臨床における実際
すでにわが国は超高齢社会の時代を迎えており,さらに生活習慣病の増加やライフスタイルの変化なども加わってアテローム血栓症や心房細胞に伴う心原性脳塞栓症,あるいは静脈血栓・塞栓症など様々な血栓性疾患が急増しています. これらの患者さんは, 実際に抗血小板薬や, 抗凝固薬(ワルファリンKやDOAC)の内服治療をしています. 実際にこられの病気を持っている, 患者さんが日々歯科外来を受診することは日常的であり,その外科処置に関しては特に全身を含め注意が必要です. これらの患者さんの特徴としては, 健常者と異なり予備能が少なく, 連用薬剤との関係から簡単な抜歯や小手術でも深刻な事態を引き起こし易いことが挙げられます.そこで, ワーファリンやアスピリン, DOAC等の抗血栓療法中の患者さんに対する抜歯や小外科手術の具体的な注意点について解説させて頂き, 安全な臨床に役立てて頂ければと思います.



大橋 誠・教 授 歯科麻酔学講座 N-29 「局所麻酔と全身疾患」有病者歯科医療の安全性を高めるには 昭和22〜24年生まれの団塊世代が65歳以上になった平成24年以降,日本は世界でも類を見ない高齢社会に突入した。歯科医院に来院される患者も基礎疾患を持たない患者がむしろ珍しい時代の到来である。そのため、これからの歯科臨床では神経原性ショックやアナフィラキシーショック等,従来言われてきた全身的偶発症への対応だけでなく,高血圧や狭心症,脳卒中など基礎疾患の急性増悪への対処も必須となる。本講演では日本歯科麻酔学会の報告で歯科患者の死因分析の1・2位を占めた心不全・脳血管障害を中心に有病者歯科医療の安全性について、医科歯科連携を含め概説する。 N-30 新しいJRC心肺蘇生法Guideline2020 Covid-19下のBasic Life Support  令和3(2021)年7月、日本の救急救命に関係する学会・団体などが構成する日本蘇生協議会(JRC)は、遅れていた心肺蘇生法Guideline2020を発表した。蘇生法のガイドラインについては、2000年から国際蘇生連絡評議会(ILCOR)がアメリカ心臓学会(AHA)の発表するGuidelineをもとに国際コンセンサス(CoSTR)を発表、5年おきに改訂版を出しており最新のCoSTR2020に対応する日本のGuidelineも同時に発表の予定であったが、多くの委員が昨年来のCovid-19感染対策に従事したため本年度にずれ込んだものである。なお今回の改訂にあたって収集された学術情報は2020年1月迄のものであり、Guidelineに含まれるCovid-19下における救急蘇生法のアルゴリズムに関しては医学的エビデンスに基づいたものではなく、今後の知見の集積によって変わりうるものであることを予めお断りしておきたい。またJRC Guideline2020には含まれないがCoSTR20220で強く推奨されている「救命の連鎖(Chain of Survival)」では実際の救命処置と同等に「予見と早期認識」が重視されていることから、患者の状態を把握する基本手技、Vital signの測定についても言及する。
井口麻美・講 師 歯科麻酔学講座 N-31 医療面接から得られる情報 ― 歯科医師に必要な他科との連携 ― 現在、高齢社会となり、有病者の来院、最近ではパニック障害、不安神経症などの患者さんも増加しています。このような患者さんは、病院に通院してコントロールされている、健康診断などで指摘されているが病院には行っていない、途中で自己判断によって通院を中止しているなど様々です。歯科臨床では、神経原性ショック、過換気症候群、アナフィラキシーショック等の全身的偶発症への対応だけでなく、高血圧や心疾患など基礎疾患の急性増悪への対応も必須となっています。そのためには事前に患者さんから医療面接で情報を得ることが重要となってきます。本講演では、日常臨床で遭遇する全身的疾患を中心に“どのような医療面接を行い、どのような治療方針が良いのか”について実際の症例を通して解説し、さらに安全への対策等についてお話をしたいと思っております。


黒木淳子・教 授 小児歯科学講座 N-32 美味しく食べるために―成長発育に応じた口の健康を食から考える― 近年、子どもの食生活を取り巻く社会環境は変化しています。すなわち朝食を食べない、個食が増えている。肥満傾向の増大、逆に過度の痩身等といった事に伴い、子どもの食生活の乱れや健康に関する懸念事項がみられるようになりました。特に成長期にある子どもにとって、健全な食生活は健康な心身をはぐくむために欠かせないものであると同時に、将来の食習慣の形成に大きな影響を及ぼします。このような現状を踏まえ、現在歯科からの食育支援は、歯科疾患の治療や予防に留まらず、摂食機能の発達支援や美味しい食べ方の支援へと広がりを見せています。そこで今回は小児歯科医の立場からの食育支援について五感を使った美味しい食べ方、口腔の成長発育にあわせた食べ方への支援を中心にお話しさせていただきたいと思います。 N-33 小児歯科からの齲蝕予防 少子高齢社会の現在,子どもの齲蝕は年々減少しています。それに伴い,小児歯科受診時の主訴も多様化してきています。しかし,いまだに齲蝕治療を主訴に来院、もしくは一般開業医より紹介来院する小児は多く見受けられ,また小児歯科臨床の現場においては齲蝕の二極化,すなわち口腔内に全く齲蝕のない子どもの割合が増えている反面,未処置の重症齲蝕を多数歯にわたり持つ子どもが一部存在する,という問題も生じています。そこで本講演では,小児歯科臨床における齲蝕予防を再考することとしました。齲蝕予防は小児期のみでなく,小児期以降も生涯にわたって継続して推進されるべきという考えのもと,患児である子ども達が成長し小児歯科を卒業した後も,継続して齲蝕予防への意識を持ち続け,家庭でのセルフケアや歯科医院でのプロフェッショナルケアを継続するモチベーションを持ち続けられるようなアプローチを考えてみたいと思います。
小林さくら子・教 授 歯科矯正学講座 N-34 フッ素徐放性材料の矯正治療への応用 矯正臨床では,ブラケット接着時の酸処理によりエナメル質表層が脱灰されることや,固定式装置周辺が不潔域になりやすいことから,う蝕に罹患する危険性を無視することはできない.また,患者の母親から「矯正をするとムシ歯になるのではないか?」というような質問を投げかけられることも少なくはない.近年,う蝕予防の概念が普及するにつれ,我々も再認識し正しく対応していく必要がでてきた.そのためには,PMTCはもとよりフッ素徐放性材料を応用し歯質を保護することで口腔環境を整え,矯正治療に対する評価を高めることが肝要となる.本講演では,矯正治療で用いられているフッ素徐放性材料を紹介し,今後の可能性について考察していく.



亀田 剛・講 師 歯科矯正学講座 N-35 次亜塩素酸のトリセツ −感染予防の切り札にするための正しい選択と使い方 2019年末からの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により、不足した消毒用アルコールの代替として次亜塩素酸水などの有効性などが(独)技術評価機構(NITE)により検討された。その報告書の一部のデータから誤解を招く報道がなされ日本の感染予防をガラパゴス化させた。次亜塩素酸は、アルコールよりも抗菌スペクトルが広く、揮発性も引火性もなく、安全で手荒れも起こりにくく、経済性の高い除菌剤であり、海外では空間噴霧・空間除菌や医療に広く使われている。2021年10月にようやく厚生労働省が次亜塩素酸水の空間噴霧が正式に認めた。本講演では日本歯科医師会雑誌2021年10月号の総説(74巻7号33-42頁)をベースに、各種消毒・除菌剤を比較し、次亜塩素酸の基礎知識の概要、その有効性と正しい使用方法について解説する。併せて、最新の行政の動きと新開発された錆びを起こしにくく劣化しにくい次亜塩素酸の詳細についても紹介する。
N-36 矯正歯科治療における材料科学やバイオロジーをベースとしたバイオメカニクス 矯正歯科治療はエラー連続であり、その発見と修正が治療のポイントになる。つまり、エラーが出る度にそれを見つけ、修正すべき方向を見定め、最速で修正していく必要がある。このためには、歯科矯正学のみの知識と経験だけでは不十分であり、生物学的知識、材料科学・工学的知識、臨床的知識(+経験)をベースにバイオメカニクスを加味した複合領域の知識が必要不可欠となってくる。そのような知識を身に付けることにより、たとえ経験が足りなくても正しい考え方や答えに近づくことができ、個々の患者に合わせた診断をしていくことにより、より正確かつ満足度の高い治療に近づける。このような意味からも、バイオロジーや材料科学・工学に裏打ちされたバイオメカニクスは、矯正歯科治療の要ともいうべき「診断」のみならず、「治療」そのものにおいても、患者、術者双方に利益をもたらすWIN-WINなリスクヘッジを実現する上で極めて重要な「鍵」となる。
小椋一朗・教 授 歯科放射線学講座 N-37 口腔顎顔面外傷の画像診断 口腔顎顔面外傷では、短時間に撮影可能で、骨だけではなく軟部組織の損傷の診断も可能なCTの有用性は極めて高い。近年のマルチスライスCT(multidetector computed tomography: MDCT)の空間分解能および画質の向上により、高画質の多断面再構成(multiplanar reconstruction:MPR)画像や3次元(3D)画像が容易に作成可能となり、骨折の診断および術後の評価に有用である。本講演では、MDCTによる口腔顎顔面外傷の画像診断について概説する。
N-38 口腔顎顔面領域におけるSPECT/CT定量の有用性 従来の核医学本来の機能・代謝画像に加え、最近ではPET/CT、PET/MRI、SPECT/CTなどの融合画像を用いて、病変に関する詳細な形態画像(CTやMRI)と機能・代謝画像(SPECTやPET)などを同一断層像で捉えることが普遍的になってきている。これまで、唾液腺機能評価として唾液腺シンチグラフィの有用性、薬剤関連顎骨壊死(medication-related osteonecrosis of the jaw: MRONJ)等の顎骨病変における骨シンチグラフィの有用性について報告してきた。さらに、2018年10月には日本歯科大学新潟病院にSPECT/CTが導入された。本講演では、口腔顎顔面領域におけるSPECT/CT定量の有用性について概説する。
亀田綾子・講 師 歯科放射線学講座 N-39 日本歯科大学新潟病院放射線科における口腔癌放射線治療 口腔癌の治療には主に外科手術、化学療法、放射線治療があり、これらを単独、または組み合わせて行われます。放射線治療の方法には、大きく分けて腫瘍に対して放射線を体外から照射する方法(外部照射)と放射線を体内から照射する方法(小線源治療)とがあります。日本歯科大学新潟病院放射線科では、直線加速器(ライナック、リニアック)と放射線治療計画システムを有しており、外部照射による放射線治療を行っています。今回は、当科で行っている放射線治療についてご紹介します。



道川 誠・教 授 高齢者医療学 N-40 口腔疾患と認知症〜歯周病、歯の喪失、咀嚼機能障害等、病態別に異なる認知症増悪メカニズム〜 ●歯周病、歯の欠損、および咀嚼機能低下などと認知症・アルツハイマー病との関連が、多くの疫学研究によって指摘されている。しかし、両者の因果関係を明らかにした研究は十分ではなかった。●道川は、1986年より国立長寿医療研究センター・アルツハイマー研究部で室長・部長を務め、我が国のアルツハイマー病研究を牽引してきた。2011年からは歯周病、歯の欠損、咀嚼機能障害がアルツハイマー病発症を促進するメカニズム解明に関する研究を開始し、その因果関係を明らかにした。1)歯周病は脳内炎症を増悪させ、そのためにアルツハイマー病の原因分子Aβの脳内沈着が増加し、認知機能障害が増悪した。2)一方、抜歯や咀嚼機能低下でも認知機能低下を招いたが、アルツハイマー病分子病態には影響しなかった。しかし、三叉神経を介する経路により海馬の神経細胞脱落がみられた。これらの成果を多くの論文として発表してきた。2023年4月から日本歯科大学新潟生命歯学部に移り、「歯科と認知症」の研究と認知症の臨床に従事している。●現在、基礎研究を継続しつつ、歯科の治療や口腔ケアによる介入によって認知症の発症や進行が抑制されるかどうかについて検討を開始した。
N-41 アルツハイマー病の研究、診断法ならびに治療法開発の最前線 超高齢社会の我が国では、認知症患者数は700万人に達すると推計され、その6割を占めるアルツハイマー病への対応は急務です。2023年に、疾患修飾薬・レカネマブ(抗体医薬)が米国ならびに日本で承認され、いよいよ実臨床での導入が始まることが期待されています。これまで対症療法しかなかった中で、疾患の原因分子であるAβを標的とした疾患修飾薬が開発・承認された事は画期的な事です。ただ、高額な医療費や副作用の問題があり、また検査体制が整っていないなどの課題を克服しなければなりません。一方で、誰でもなり得る疾患であるがゆえに、発症予防や進行予防の観点も重要と考えられます。私は、1986年より国立長寿医療研究センター・アルツハイマー研究部で室長・部長を務め、その後名古屋市立大学医学部でアルツハイマー病研究と認知症臨床に長年従事してきました。講演では、アルツハイマー病とは何か、その臨床症状や診断法について概説し、研究の最前線と、予防・治療法開発の最前線についてお話ししたいと思います。
大越章吾・教 授 内科学講座 N-42 B型、C型肝炎治療の進歩と残された問題 肝炎ウイルス感染は20世紀の国民病とまでいわれ、多くの患者が肝硬変や肝がんに苦しんできた。しかし昨今、内服の抗ウイルス薬の進歩によって、両方のウイルス感染が制圧される時代になっている。B型肝炎は抗ウイルス薬による耐性変異の出現が問題であったが、最近耐性の起きにくい抗ウイルス薬が使用されるようになり、殆どの患者においてウイルスの制御が可能になった。しかし、HBVは細胞に潜伏感染するため、完全に消失したように見えて、抗がん剤や免疫抑制剤によって再活性化することが知られるようになり、各医療施設に適切な対応が求められている。HCVはDAAと呼ばれる内服薬を2~3か月投与することによって、ほぼ100%の体内からの排除が得られ、撲滅時代へと突入している。しかしHCVの排除はHCV肝がんの撲滅を即意味するものではない。またHBV、HCVともに院内感染の主たる感染症であることは変わりなく、今日的な知識のUpdateが求められている。


廣野 玄・准教授 内科学講座 N-43 ヘリコバクター・ピロリ除菌後も胃内視鏡健診を受けましょう 胃癌の主因はヘリコバクター・ピロリ(以下H.pylori)の胃内持続感染であり、それによって慢性胃炎を発症し、長年の胃粘膜の慢性炎症性変化によって胃癌が惹起されることが知られている。一方、年1回の定期的な胃内視鏡健診は胃癌の早期発見・治療を可能とし、推奨されてきた。最近、H. pyloriの除菌が胃癌発生の危険性を軽減させることが明らかにされ、本邦では2013年2月よりH.pylori陽性慢性胃炎に対する除菌療法が保険適応となり、現在まで積極的に除菌が行われてきた。しかし、除菌後数年経た後も少数ながら胃癌の発生をみることがある。除菌後に発生した胃癌症例の特徴として、除菌時の年齢が高いこと、除菌時の慢性胃炎性変化(胃粘膜の萎縮性変化や腸上皮化生性変化)が高度であることなどが挙げられる。特にこのような場合、除菌後も積極的に定期的な胃内視鏡健診を受けることが重要である。


大竹雅広・教 授 外科学講座 N-44 乳がん検診と乳がん治療の現状 日本人の三人に一人が『がん』で亡くなる時代となりました。これまでは、「胃癌」や「大腸癌」、「肺癌」に多くの話題が集まっていましたが、最近では『乳がん』が注目を浴びています。有名な芸能人が乳がんにかかっていることを公表したおかげで、乳がんに関してのいろいろな情報がマスコミに流れています。残念ながら乳がんも、他のがんと等しく進行した状態では現在の医学でも治すことは困難です。しかし、早期発見によって治癒することが期待できるようにもなったばかりではなく、その治療法も大きく変化してきています。本講演では、あらためて「乳がんとは?」、「乳がん検診では何をされるのか?」そして現在の治療動向などについて基本からわかりやすくお話ししたいと思います。 N-45 『今だから見直そう、感染対策の基本』 新型コロナウィルスの出現は私たちの社会生活を一変させました。「接触感染」、「飛沫感染」、「標準予防策」と言った感染症の専門用語が一般に語られるようになり、過去の病気と思われていた感染症や感染対策の重要性があらためて再認識されています。これまでの日常ではあまり気にかけてこなかった感染対策の基本をこの機会にもう一度おさらいし、新しい感染症が発生した場合はもとより、現存する感染症に対しても有効な対策が立てられるように、感染対策の基本を学習したいと思います。
佐藤雄一郎・教 授 耳鼻咽喉科学 N-46 頭頸部癌診療の質を高める超音波診断学-導入のために必要なことを考える- 本邦における頭頸部超音波診断の現状、問題点、対策を検討した.手法はトヨタの問題解決8ステップを用いた.1.テーマ選定:超音波診断を頭頸部診療に導入する価値があるかをテーマとした.2.現状把握、3.目標設定:全国大学病院、がん拠点病院106施設、717名の医師を対象としたアンケート調査を用い現状把握を行った.99.6%が超音波診断は必要と回答、導入施設は約60%と乖離を認める点を解決すべき問題点とした.4.要因解析:問題点の要因をRCA(Root Cause Analysis)手法を用いて探索した.5.対策立案:上記で得られた真因への対策を提案、6.対策実行、7.効果確認、8.標準化と管理の定着:対策を現場で実行することで、対策は標準化され管理として定着する。複雑系職種と言われる医療に、産業界の手法を適応させるのは正しいのか不安もあるが、今回の試みが頭頸部超音波診断の発展の一助になれば幸いである。
N-47 喉頭摘出後のProvoxョによる音声再獲得と言語聴覚士介入の重要性 頭頸部癌治療における最大のQOL低下に、喉頭全摘後の音声機能喪失がある。音声機能の再獲得のための代用音声は、電気喉頭・食道発声・Provoxボイスプロテーゼを用いたシャント発声がある。シャント発声が最も効果的であり、安定して本手法を提供するには医師や言語聴覚士の多職種連携が重要とされる。2008年6月〜2019年5月のProvox 留置術53例について、リハビリに関わる言語聴覚士の影響を統計学的に解析した.Performance Status Scale for Head and Neck Cancer(PSS―HN)に基づいたPSS―HN=75 以上の音声獲得良好群は47例(88.7%)であった。また、ST 介入あり群(96.7%)は,なし群(76.2%)に比して音声獲得率に有意に貢献していた(p=0.0307).今後はProvox 管理が可能な施設の増加,他施設・他診療科医師への啓発が課題と考えられた.
猪子芳美・教 授 総合診療科 N-48 明日から使える睡眠時無呼吸の治療 基礎から臨床まで− 2004年に睡眠時無呼吸用口腔内装置が社会保険診療報酬に導入されてから20年が過ぎた。近年の歯科医師国家試験では、毎年、睡眠や睡眠時無呼吸に関する問題が数問出題されており、歯学部学生は、睡眠に関する授業を受け、睡眠の知識を持って卒業している。しかしながら、現在、活躍されている歯科医師の多くは睡眠に対する知識が不足していると思われます。本講演では、複雑な睡眠の基礎から睡眠時無呼吸の治療について、特に口腔内装置治療を成功に導く勘所、さらに医科との連携について丁寧に講演させて頂きます。明日の臨床にすぐ役立つ講演内容となっております。
N-49 咬合と咀嚼 ―歯科医師が考える食育について― よく噛んで食べることは、丈夫な歯や顎を作り、生活習慣病の危険因子である肥満を防止し、認知症の予防やストレス解消に繋がります。健康長寿と豊かな食生活を送るための咬合と咀嚼、更に健全の睡眠の獲得について分かり易く解説させて頂きます。
大森みさき・准教授 総合診療科 N-50 歯周組織再生剤「リグロスを」用いた歯周外科手術のポイント 歯周組織再生剤「リグロス」が発売されて5年経過した。治験から21年を経過して多数の症例報告もされている。他の再生療法に比べて使用が比較的簡便であり、その割に病状改善も期待でき、また保険導入されていることから患者にも勧めやすい方法である。歯周外科の適応となる症例の選び方、Widman改良法などのいわゆるフラップ手術と異なる歯周組織再生療法を行う際の切開方法、剥離する際の注意点、掻爬を行う際の器具の効果的な使い方、最後に洗浄してリグロスを注入するときの注意点、縫合時の工夫など臨床上で少し迷うような、ここだけでも気をつけたらという点をできるだけピックアップしてお話したいと思う。また、術前にデンタルエックス線写真やパノラマエックス線写真だけでなく、CBCTの撮影が可能であればぜひ術前の術式の検討に活用していただきたいので、CBCTの画像と実際の手術時の所見を合わせてご紹介したいと思う。 N-51 歯科医院で行う栄養指導 歯周病患者を診ていると同年齢の人と比較して驚くほど破壊的に病態が進んでいるケースに時々遭遇する。歯周病はプラークコントロールだけでなく、喫煙やストレスなどの環境因子や全身疾患や遺伝的要因などの宿主因子が絡む多因子疾患であり、様々な要因が複雑に重なって重症化する。特に重症例は詳細に食生活を確認するとかなりの偏食や多量の飲酒癖などが判明する。また不規則な生活やシフトワークなども全身だけでなく口腔の改善に大きな影響があるものと考えられる。特に有経女性や妊婦は鉄の不足しやすい状態で、生理痛や更年期障害などが重い女性は生理が開始してからの生活習慣の影響や貧血の蓄積が重なっているのではないかと推測される。人生100年時代に自分自身がより健康になって、患者にも情報提供ができる歯科医院であるべく、どのように食生活の問題点を見つけ、それにアプローチして改善にもっていくか、症例を交えてご一緒に考えてみたい。
水谷太尊・准教授 総合診療科 N-52 顔と咬合 2017年度に実施された顎変形症治療の実態調査によると全国で3000〜3500例の顎矯正手術が行われ、口腔外科メジャー手術の1つになっています。顎変形症患者は上下顎の形態的不調和(審美的障害)と顎口腔の機能障害の2つの大きな問題を抱えています。患者は小学生や中学生の頃から悩みはじめコンプレックスにもなっています。かかりつけ歯科医に相談することも多く、先生方の最初の対応がその後の患者の治療に大きく影響しています。一方、紹介なしで受診される場合には、かかりつけ歯科医で指摘されることはなかったと話す患者もいます。一般歯科医が知っておくべき顎変形症の治療の流れについて講演いたします。 N-53 医療事故 実例から学ぶ防止と対応の心得 私たち歯科医師は様々なリスクを背負って診療をしています。多くの先生方は患者とのトラブルを多少は経験しているはずです。実際の医療トラブルの中で訴訟に至る事例は、全体で年間約1000件,このうち歯科に関するものは1割弱と言われています。医療の多様化の側面として患者の感情的葛藤や日常的な苦情・トラブルが増えています。また超高齢社会を向かえ今まで以上に患者への配慮が必要となっています。いかにして患者(相手)と歯科医医院(自分とスタッフ)を守るかが課題です。事例を通して、日常臨床での事故発生時の対応を講演します。歯科における医療安全対策の現状を全員で共有し,あらためて安全な歯科医療のあり方を考える機会にできれば幸甚です。
海老原 隆・准教授 総合診療科 N-54 ホワイトニングの実際 近年、審美性への関心の高まりとともに歯を白くしたいと希望する患者が増えてきており、インターネットで“ホワイトニング”を検索すると、かなりの件数がヒットされます。歯を削ることへの抵抗をもつ患者さんがより増えてきている現状において、ホワイトニングは、MIの概念からもたいへん関心のある審美的治療であると思われます。また、日本歯科審美学会より歯科衛生士を対象としたホワイトニングコーディネーターの認定資格が始まり、全国ですでに5000名以上も誕生しました。歯科衛生士のホワイトニングに対する関心がたいへん高いことが伺われます。今回、ホワイトニング(無髄歯:ウォーキングブリーチ、有髄歯:オフィスブリーチング、ホームブリーチング)について、適応症、臨床術式、メインテナンス、色差計を用いた臨床評価などを解説いたします。また、最近臨床応用されている歯のマニキュアについても解説したいと思います。


高塩智子・准教授 総合診療科 N-55 歯周治療におけるメインテナンス 歯周治療後、一度歯周組織が改善された症例に対し、定期的なプロフェッショナルケアを継続して実施することが歯周組織の健康を維持する上で重要な役割を果たすことが知られている。歯周治療後のメインテナンスやSPTを行っていく中で、歯周治療の長期的な予後や長期的な変化について観察した結果について述べる。


水橋 亮・准教授 総合診療科 N-56 スポーツ歯科医学が寄与できること スポーツ歯科医学という言葉を耳にされたことはあるでしょう。しかし、歯科医学の部門としてはまだ歴史が浅く、大学での学生教育も十分ではないかもしれません。日本歯科大学新潟病院では、スポーツ歯科外来がスポーツ歯学の啓蒙、研究、教育、マウスガードの提供などをおこなっています。講演ではマウスガードの製作方法を中心に、歯科医師がスポーツ歯科医学からスポーツに寄与できる事についてお話したいと思います。


石井瑞樹・講 師 総合診療科 N-57 「医療情報・医療管理の基礎とこれからの情報活用を考える」 医学・医療分野における情報を一般的に医療情報とよぶが,昨今,ICTを医療に応用する,いわゆる医療の情報化が著しく進歩している。診療に伴い生じる患者情報を扱う医療機関においては,その情報は厳重に保護されるべきであり,適正な管理が必要不可欠である。このことから,医療従事者として医療情報に関する知識だけでなく,その応用についても幅広く理解し,膨大な情報収集と管理および適正な利用に取り組んでいかなければならない。医療情報学・医療管理学の視点から,医療情報の区分,特性,情報活用などの基本的知識について学ぶとともに,個人情報保護の基本概念や,地域や多職種連携が進む中での情報共有の重要性についても考える。


戸谷収ニ・教 授 口腔外科 N-58 「ドライマウスからはじめよう―口腔ケアやオーラルフレイルへのアプローチ−」 超高齢化社会において歯科医療は変革が必要となり、齲蝕・歯周病・補綴治療といった従来型の歯科医療から周術期口腔機能管理として「口腔ケア」の推進が求められています。その中で「口がかわく」といったドライマウス(口腔乾燥)への対応は口腔ケアの根幹につながります。ドライマウスの対応なくして、歯科医療は成り立たないといっても過言ではないと思います。また近年では、食事摂取困難から生活機能低下につながる新しい概念として、口腔の虚弱(オーラルフレイル)が注目され、口腔ケアでの予防が求められています。ドライマウス患者も高齢者が多く、口腔乾燥感の自覚が少ない初期には診断されず、長期口腔環境の悪化から口腔の機能低下につながっていきます。故にドライマウスもオーラルフレイルにつながる原因になると考えられます。本講演では、良質な口腔ケアを提供するためのドライマウス(口腔乾燥)診療について紹介したいと思います。 N-59 医療事故防止につなげよう-歯科医師に必要な医療安全の知識- 相次ぐ医療事故報道のなかで、国民の医療に対する不信感は膨らむばかりで、多くの医療機関では、以前にも増して安全管理システムを整備・強化し医療事故防止に努めてきています。それでも、次々に医療事故が発生しているのが現状です。日本の「医療安全」のきっかけとなった医療事故として、1999年の横浜市立大学附属病院において患者取り違えによる目的の異なる手術が施行される事故が発生したことに始まります。その後も事後が縦続けて発生しました。2001年、国は「医療安全推進年」として総合的医療安全対策を推進することとなり、現在の医療安全対策へと繋がっています。歯科医業を行う医療機関においても、安全で安心な質の高い歯科医療提供体制を整備することが求められています。そこで、本講演では歯科医師に必要な医療安全に関する知識と当院でのインシデントレポートから抜粋した実際のケースを紹介して対応や取り組みについてお話しします。
小林英三郎・准教授 口腔外科 N-60 骨吸収抑制薬(ビスホスホネート、デノスマブ)投薬患者への対応 ビスフォスフォネートやデノスマブなどの骨吸収抑制薬は、骨粗鬆症患者の骨折の予防、または悪性腫瘍の骨転移性腫瘍や多発性骨髄腫において、高カルシウム血症・骨病変の進行を防ぐ目的で用いられています。しかし、その副作用として2003年に顎骨壊死が発表されて以来、徐々に医師・歯科医師以外の方にも認知されるようになりました。しかしながら、現在に至っても、本病態に対して十分なエビデンスが得られている治療法や口腔ケア・口腔管理方法はなく、経験に基づき行われているのが現状です。さらに、患者数については、日本口腔外科学会が行った全国実態調査において、近年著しく増加しており、今後も増加することが予想されます。講演ではMRONJ外来の紹介および治療方針、さらに骨吸収抑制薬を使用している方の抜歯についてお話しさせていただきたいと思います。


小根山隆浩・講 師 口腔外科 N-61 がん患者の歯科治療  外科処置の注意点 2人に1人ががんに罹患する時代となり、がん患者の歯科治療を行う機会も多いと思います。新たな治療法や薬の開発により、延命も可能となり、さらにがん患者が増え、歯科治療に苦慮することが予想されます。平成24年度の診療報酬改定で、医科歯科連携として周術期口腔機能管理が導入され、研修を受けた先生方も多いと思いますが、実際の診療に生かされているでしょうか。おそらく、がん治療の複雑さや聞き慣れない薬、ガイドラインが存在しないことなどで、よくわからないのが実状ではないでしょうか。
そこで、特に外科処置時に注意が必要な薬と対応方法を中心に、口腔外科専門医とがん治療認定医の立場から、実際の症例を提示しながらご説明できればと思います。高齢化により、薬を制する者が歯科治療を制す時代なのかもしれません。実際の治療には経験や多少の度胸も必要ですが、新たな領域へ足を踏み入れてみるのはどうでしょうか。
N-62 口腔外科医が見た東日本大震災検死活動  何を考え何をしたのか 検死とはいったいなんでしょうか。東日本大震災が発生するまで大学病院で働く私には無縁のことでした。なぜ、東日本大震災の検死活動に参加することになったのか、また、そこで何を感じ、何を行ったのかについて講演したいと思います。検死は歯科医療の一つですが、治療するという医療行為とは性質の異なるものです。また、公に報道されることもありませんので、具体的な検死を見ることも経験することもまずありません。そこで、私が実際に行った検死活動について、当時の写真や映像を交えてお話できればと思います。昨今、医学会では根拠が重視されておりますが、災害医療に関する根拠は確立されたとは言えず、あるのは経験です。しかし、この経験をつなぐことで今後の災害医療の根拠が作られるものと思います。明日にも発生するかもしれない災害への心の準備ができるのではないでしょうか。
赤柴 竜・講 師 口腔外科 N-63 我々はどのように抗菌薬を使うべきか 2019年、WHOは国際保健上の脅威トップ10を発表し、その中に薬剤耐性(AMR:Antimicrobial resistance)が含まれています。薬剤耐性が与える疾病負荷、経済負荷については欧米で試算がなされ、このまま対策が取られなければ、2050年には全世界で3秒に1人が耐性菌で死亡し、100兆ドルの国内総生産が失われると推定されています。これは日本にとっても対岸の火事ではなく、薬剤耐性は各国が直面する問題といえます。 こうした状況の中で、我々は抗菌薬をどのように使うべきなのでしょうか?その答えはなかなか難しいですが、一つ確かなことは今までのように一律な処方ではなく、「適切な薬剤」を「必要な場合に限り」、「適切な量と期間」使用する、ということです。臨床現場での考え方、実際の使い方、その根拠等をご紹介し、明日から使える知識として、みなさんと共有できればと思います。

N-64 非インプラント医による、はじめての歯科矯正用アンカースクリュー アンカースクリュー(以下AS)は、もはや今日では矯正歯科臨床になくてはならない必須アイテムとなっており、現在、多くのASが薬事承認を受けて使用されています。ASの埋入は組織への最小限の侵襲性および外傷を伴う小口腔外科として分類され、他のデンタルインプラントよりも単純かつ容易でありますが、依然としてある程度の確率で失敗のおそれがあります。失敗率は、ASの種類、埋入方法、埋入部位、患者の全身状態、そして術者の技能により変動すると言われています。私は口腔外科医ではありますが非インプラント医であります。外科のスキルは手術経験の積み重ねで習得が可能ではありますが、非インプラント医の視点から、AS埋入の勘所をできるだけ明快かつ単純にご紹介し、すでに導入されている方へは知識の整理として、まだ未導入の方にはアンカースクリュー導入へ踏み出せる第一歩として活用いただければ幸いです。
三瓶伸也・准教授 小児歯科 N-65 乳歯早期喪失への対応  保隙装置の適用について 近年,乳歯齲蝕は減少かつ軽症化の傾向にある。ところが,齲蝕によって早期に乳歯の抜去を余儀なくされる症例は今なお存在している。乳歯の早期喪失は喪失部位への隣接歯の傾斜移動や対合歯の挺出などを引き起こし,歯列不正や不正咬合の要因となり得る。そこで,早期喪失部の空隙を保持し,後継永久歯の萌出余地を維持することは,健全な歯列・咬合を育成する上で大変重要なことであるといえる。そのため様々な種類の保隙装置が応用され,喪失歯の歯種,歯数,喪失部位と喪失時期により使い分けられている。今回は、平成26年歯科診療報酬改定で保険適用となったループ型保隙装置に加え、それ以外の各種保隙装置の臨床における対応法についても紹介する。


北澤裕美・講 師 小児歯科 N-66 口腔機能発達不全症に対する取り組みについて 近年、感染予防対策のマスクの内側で口呼吸をしている小児が増えていると言われている。口呼吸だけではなく、「食べる機能」、「話す機能」、「その他の機能」が十分に発達していないと、さまざまな弊害が起こり、健やかな口腔機能の発育を妨げる。平成30年4月の診療報酬改定の際、医学管理の一つとして、「小児口腔機能管理加算」が新設された。これにより、15歳未満の小児に対し、口腔機能の獲得を目的とした継続的管理ができるようになった。この加算は、令和2年の診療報酬改定で名称が変わり、「小児口腔機能管理料」という独立点数となった。今回、口腔機能発達不全症に該当する症例と、機能訓練などの取り組みについてお話をさせて頂く。



織田隆昭・講 師 放射線科 N-67 側頭下窩に発生した滑膜肉腫の画像所見 患者18歳,女性。初診時左側頬部腫脹,麻痺(-),開口障害(+),左側顎関節可動ほとんどなし。開口時下顎は左側へ変位を認めた。単純X線写真では境界明瞭、類円形、膨隆性発育を認める。CT,MRIで病変内部は前方で充実成分を認める領域と液体の貯留を疑う領域、後方で石灰化様構造を認める領域が存在し内部不均一、造影も不均一に認めるが、病変周囲の下顎頭、上顎洞後壁に著明な骨吸収像は認めない。骨シンチ所見では,病変内部に集積を認めない領域と集積を認める骨代謝亢進領域が存在する。腫瘍シンチ所見では集積程度が弱かった。以上の所見より悪性、良性の鑑別は困難な症例と考えたが病理所見で,滑膜肉腫との診断を得た。滑膜肉腫は、腫瘍が骨、関節近傍に存在し境界明瞭、浸潤傾向がなく内部不均一な場合、滑膜肉腫も鑑別疾患の一つとして考慮すべきと考えられた。 N-68 上顎歯肉部に発生した髄外性形質細胞腫の画像所見 形質細胞腫はまれな腫瘍性病変で、全身の骨に発生する多発性骨髄腫、局所の骨内から発生する孤立性形質細胞腫と骨外から発生する髄外性形質細胞腫に分類される。その中で髄外性形質細胞腫は74%が副鼻腔を含む上気道原発であるとの報告もあるが、今回我々が経験した症例は上顎歯肉原発である。画像所見では右側鼻翼部から歯槽部ならびに口角にかけ直径約20mm程度の境界不明,内部不均一な造影性を認める腫瘤性病変で,同病変に接する右側上顎唇側皮質骨の骨破壊を認めた。本疾患は形質細胞腫中では比較的予後は良好との報告もあるが多発性骨髄腫への移行の可能性もあり全身的な経過観察が必要な症例と考える。
諏江美樹子・講 師 放射線科 N-69 パノラマエックス線写真から診る顎関節と上顎洞
パノラマエックス線写真上で、顎関節と上顎洞はともに観察される部分です。上顎洞は、歯科疾患が原因で病変が波及することもあり、パノラマエックス線写真で病変の有無を判断しやすいところです。その他、上顎洞で観察される疾患には、上顎洞由来のもの、顎骨由来のもの、歯原性疾患が進展したものと多岐にわたっており、パノラマエックス線写真から病変が発見されることも多い部位です。また、顎関節では、顎関節疾患で最も頻度の高い病変は顎関節症であることは知られています。顎関節症の原因は複数ありますが、その原因を探すために様々な検査が行われています。パノラマエックス線撮影はそのうちの1つで、口腔内所見の確認だけではなく、顎関節と連続する下顎骨全体の確認、下顎骨の変形や変位の確認に有用なものです。これらについて症例とともにお話しいたします。



佐々木善彦・講 師 放射線科 N-70 日本歯科大学新潟病院でのCT検査 歯科用コーンビームCT(以下 歯科用 CBCT )が開業歯科医院で普及しておりますが,少し前までは従来の全身用 CT (以下CT )をインプラントの術前精査や顎骨内の病変,矯正治療等に使用されていました。最初の商業的な CT が考案されたのが 1960 年代後半で, 1970 年代に入り現在のような形態で研究・開発が進んでいます。歯科領域では歯科用CBCTに押され気味ですが, CT は今なお臨床でなくてはならない画像診断機器です。現在,日本歯科大学新潟病院での CT での画像検査を紹介いたします。また,磁気共鳴画像検査( MRI ) との違いや SPECT CT ついても簡単に触れたいと思います。


高橋靖之・講 師 歯科麻酔・全身管理科 N-71 安全な有病者の歯科治療のために ‐歯科医院での危機管理‐ 歯科診療中は治療に対する不安感,恐怖心などの精神的なストレス,局所麻酔時および治療中の疼痛刺激,外科的侵襲などの身体的ストレス,局所麻酔薬に添加されたアドレナリンなどにより患者の全身状態が刻々と変化する.呼吸状態,循環状態の変化は全身的偶発症を発症する.特に基礎疾患を有する患者は安全域が狭く,わずかな変化でも重篤な偶発症が起こりうる.モニタリングは,このような全身状態の変化を客観的に評価し偶発症の発生を未然に防ぎ,患者の安全性を確保するために有用とされる.
本講演では,安全な有病者の歯科治療のためにこれだけは知っていてほしいという内容を中心に、管理上の留意点と対応も含め解説したい。



白野美和・准教授 訪問歯科口腔ケア科 N-72 訪問歯科診療の進め方 近年、在宅歯科医療のニーズはますます高まっていますが、訪問診療を行うことに躊躇する歯科医師、開始したものの戸惑う歯科医師が多いのが現状です。訪問診療開始時に遭遇する問題として多くあげられるものには、治療計画の立て方(どこまで行うべきか?)、保険請求が煩雑(介護保険が必要?文書提供は何が必要?)などがあります。
講演では訪問診療における口腔ケア、義歯、観血処置等についての治療計画の考え方、また、保険請求の解釈についてお話させていただきます。
N-73 歯科と認知症 本講演では認知症の基礎知識から近年の研究で示されている認知症と歯科との関係、認知症患者の歯科臨床における問題とその対応について、日常の訪問歯科診療での体験も交えながらお話しをさせていただきたいと思います。
吉岡裕雄・講 師 訪問歯科口腔ケア科 N-74 歯科訪問診療に必要な全身管理の知識の復習 訪問歯科診療に関する制度が整い、全国で在宅歯科医療の推進が図られてきたことにより訪問診療に対応する歯科医院は増加し、今や一般的な診療体系になりつつある。一方で、その対象患者のほとんどが有病者である事を理由に、訪問診療で出来ることは限定されているとの考え方が広まり、訪問歯科診療を受けたにも関わらず十分な治療が行われていない症例も目にすることも多い。
小児から緩和ケアまで、有病者に対する訪問歯科診療時の注意点や治療計画の考え方を解説します。
N-75 日本歯科大学新潟病院の歯科訪問診療の変遷から辿る在宅歯科医療の潮流 1987年4月に当時新潟附属病院で歯科訪問診療のチームが編成され、同年9月に最初の歯科往診が実施された。黎明期は学生教育やボランティア、社会貢献といった意味合い中での活動が始まった。2010年頃になると地域からの要請が急増し、成長期を迎える。訪問する施設数や患者数が急速に拡大し、それまでの週3回半日体制は週5日全日体制となり、チームも診療科とし機能を増強した。高齢社会に突入する社会において地域の歯科医院も訪問診療を行うのが当たり前になった。その後、2025年問題を受け、厚労省の地域医療構想では在宅医療をさらに加速させていく方針であるが、それは単に高齢者医療の拡大ではなく、多様性を認め合う社会の中で考える、全世代型に対応できる在宅医療であるとされている。社会の構造や価値観が変化し続ける中で、歯科訪問診療も成熟期を迎えパラダイムシフトしていかなければ、その役割を果たしていくことはできない。
渥美陽二郎・講 師 訪問歯科口腔ケア科 N-76 スポーツに対する歯科医学的サポートについて スポーツ歯学とはFDI(国際歯科連盟)が「スポーツ歯学はスポーツ医学の一部門であり、スポーツおよび運動による歯の損傷および口腔疾患の予防および治療を担当する」と定義しています。本国ではスポーツ基本法に「歯学」が盛り込まれ、又、日本スポーツ協会においてスポーツデンティストの制度が発足しました。そのため、今後はさらにスポーツに対する歯科医学的サポートが必要になると考えられます。日本歯科大学新潟病院では、平成10年4月より、スポーツ歯科外来を開設し、顎口腔領域のスポーツ外傷の予防として有効なマウスガードの普及と提供の他、スポーツ歯学の研究、教育を行っています。本講演では、スポーツ歯学の歴史と現状、これまでの本外来におけるスポーツ競技、症例に応じたカスタムメイドマウスガードの製作法の他、顎口腔系と全身機能との関連、マウスガードの外傷予防効果、本大学のスポーツ歯科医学教育における教育効果などスポーツ歯科外来で行ってきた研究内容も合わせて講演し、スポーツに対しどのような歯科医学的サポートが可能かについて皆様と共に考えていきたいと思います。



廣安一彦・教 授 口腔インプラント科 N-77 ―インプラント治療の現状とこれから― インプラント治療が臨床に応用されてから約50年が経過しました。1990年代には急速に全世界的な規模で拡大しました。日本においては2000年前後のインプラントバブル期に急速に普及しましたが、震災後の落ち込みやトラブル症例のマスコミ報道などにより、現在では落ち着きつつあります。それでも今なお歯科分野の中では、先端技術や材料の開発・研究が盛んな分野であり、現在でももっとも進歩している領域だと考えております。そこで現在行われているインプラント治療の流れとこれからの方向性について提示し、インプラント治療をどのようにとらえていくのか?また、そこから日常臨床においてどのようにかかわりあうことができるかについてご教示したいと考えております。先生方の日常臨床の一助になれば幸いです。


高田正典・講 師 在宅ケア新潟クリニック N-78 医療安全のための一次救命処置(AED使用も含めた) 高齢化社会を迎え歯科治療を行なう患者も重複する疾患を抱え、背景は複雑です。歯科医療において外科、麻酔手技の頻度は多く、それに伴う患者への負担は多大と思われます。もし診療所で患者が心肺停止に陥った場合、何を始めに行なえばいいのか。心肺停止から時間の経過とともに患者の社会復帰は困難になり、医療従事者の責任が問われます。昨今AEDの公共機関での設置が増加しており、一般人の関心も高く、救命処置の講習会などの参加も増えているのが現状です。医療従事者として如何なるときも対応できるスキルを身につける。 N-79 多職種連携における歯科医療従事者の役割 近年、地域包括ケアにおいて多職種連携が注目されている。超高齢社会に突入し多職種の人たちと協働して口腔の専門家として地域医療にどのように貢献すべきか、また役割についても解説する。これからの歯科医療は、一般の歯科治療のみならず、ライフステージに応じた取り組みが健康寿命に繋がっていくという概念に基づき、口腔ケア、摂食・嚥下等のリハビリテーションが要求されている。口腔ケアについては、誤嚥性肺炎予防に始まり、口腔細菌と全身疾患との関連性が注目され、歯科医療従事者が担っていく専門的口腔ケアの分野は注目されている。また、オーラルフレイをキャチフレーズに歯科医療に対する社会的要求の変化も著しい。人が誕生してから最期を迎えるまで、口から食べる喜びは全ての年齢層に共通する。これらを踏まえ、face to face の関係構築を築くことが重要であることなどを解説する。
長谷川 優・教 授 新潟短期大学 N-80 パノラマエックス線写真から歯の交換を読む 日常歯科臨床で広く用いられているパノラマエックス線写真(OPG)撮影では,上下の顎骨を中心とした展開像が得られます。OPGは湾曲した歯列に沿った断層撮影であり,この特徴を理解したうえで読影することで,多くの情報を得ることができます。成長期の患者さんの保護者から,「乳歯がいつまでも残っているのですが抜いた方が良いのでしょうか?」,「永久歯がいつまでたっても生えてこないので心配です。」などと相談を受けた経験がある方も多いと思います。今回は,成長期の患日常歯科臨床者さんのOPGから歯の成長発育を読み取るためのコツを中心として,矯正歯科医の立場からOPGの読みかたについてお話いたします。皆様の臨床にお役立ていただければ幸いです。
N-81 成長期の不正咬合と歯科衛生士のアプローチ AngleT級不正咬合は,歯列不正の中で最も高頻度にみられるとの報告があります。叢生の原因は,顎骨と歯の大きさの不調和であると以前からいわれてきましたが,最近は多因子性であるとされています。そこで,まず叢生の発生に関わるとされている因子のうちから,1)歯の形態(上顎切歯舌側面の形態),2)第三大臼歯の存在,3)上顎前歯の舌面形態と被蓋,4)歯の大きさと配列スペースを取り上げて叢生の原因について改めて考察します。次に,叢生に代表される不正咬合の予防と抑制に効果的な手法の中から,矯正用ブラケットとワイヤーを使用せずに行えるものを中心に紹介します。さらに歯科衛生士養成校教員の立場から,予防矯正と抑制矯正における歯科衛生士の役割についてお話したいと思います。
佐藤利英・教 授 医の博物館 N-82 医の博物館 活動と研究のご紹介 本学「医の博物館」は、平成30年9月で開館30年を迎えた。昭和52年に設置された歯科医学史料室がその始まりだが、当初は一般公開されておらず、関係者や新潟歯学部学生が医学史講義の一環として見学していた。平成元年に8号館の新築にあわせ、「医の博物館」を開設したが、以前から保管していた史料に加え、現在では未公開のものも含め5,000点以上の史料を展示・収蔵する。これまで中原泉名誉館長はじめ、西巻館長、樋口参与による研究活動が行われている。私が配属されてからは自身のテーマとして、中原式咬合器、本学12回卒の小那覇全孝先生、江戸時代の解剖図、渡辺崋山の『一掃百態』、わが国初の牛痘接種者・楢林建三郎、エーテル・ドーム内の無痛手術の絵画、新潟県の医学史などについて独自の研究を行っている。また博物館開館30周年記念特別展では日本と西洋の歯科事情を窺える版画を調査した。
本講演では医の博物館の紹介とこれまでの調査研究活動について報告致します。